025 森の魔女、エッシェンバルトの農民兵を救出に行く
「エルザ、喜びなさい。ジルが四日後に戻って来るのよ!」
「おめでとうございます。本当に良かったです」
「エッシェンバルトの王宮に侵入して、エッシェンバルトの国王を大慌てさせたのよ。私のジルは凄いでしょう!」
「はい、凄いです」
「私、今回の功績でジルを公爵にしようと思っているのよ。やっと父上にも認めさせたわ。やっとジルもちゃんとした貴族。不義の子とかもう二度と呼ばせない。仮にそれがジルの父親だとしても容赦はしないわ」
ジルベスタ様が不義の子ってどういうことだろう……。
「それとジュリアのことなんだけど、騎士同士で決闘騒ぎが起こったり、今大変なの。悪いけど、しばらくはここにかくまってほしいのよ。男って馬鹿過ぎて理解出来ないわ。ジュリアは、ワルドの隠し別荘にいることにするから、絶対に研究所には迷惑はかけないから。お願いね」
「では、私は王宮に戻ります。ジイがうるさいのよ。また来るわね」
「はあ、承知しました」
「もう、我慢出来ない、国王陛下が何と言っても私は辞職する」と侍従長がアンリエッタ女王陛下に宣言をした。
「ジイが辞職すれば、息子さんが私付きの侍従長になるだけよ」
「うううう……」
侍従長もこんなストレスの多い職に息子はつけたくないようだ。お気の毒に。
◇
爽やかにジルベスタ様が研究所にやって来た。ローブを頭からすっぽり被った人を連れてだ。
「エルザ、とんでもないところにトンネルの入口を作ってくれたなあ。洞穴に入るのが一番大変だったぞ。ケガ人多数だ!」
「熊の巣穴ですけど、魔法兵の方々がケガをするほどの熊がいるとは思えないのですが」
「熊の住んでいる洞穴だと思っているのか?」
「はい、けもの、熊の臭いがしましたから」
「あの洞穴はトロールの棲家だ。頭を切断しても生えてくるし、燃やしてもしばらくすると元通りだ」
「それは申し訳ありません。でも、皆さま生きて帰還されたのでしょう?」
「全員ではない。二名、農民兵たちの護衛につけている。ハインツ王子がエッシェンバルトの国王と和議を結んでしまったため、エルトリアに連れ帰ることにした。しかし、トロールに妨げられて、抜け穴に入れない」
「エルザ様、どうか皆んなを助けてください」そう言ったのはローブのフードを脱いだジュリアだった。
「トロールですか? 毒は効きませんね。トロールは一体ですか?」
「三体はいたと思う」
「そうですか。三体ですか。イタズラしたら面白いかもしれない……」
「エルザ、何か策があるのか?」
「策というか……、とりあえずやってみます。一度森に戻って準備をするので、ジュリアちゃん、少しだけ待ってくれるかなあ。ジュリアちゃんの仲間は皆んな助けるから。信じて」
「はい、信じます!」
◇
私は森の家に戻って、お酒作りにいそしんだ。ちょっとしたイタズラもしてみた。
一リットルのお酒を二本用意した。
「ジュリアちゃん、行くよ」
「はい、エルザ様」
「エルザで良いよ」
「でも、私はエルザさんの奴隷ですし」
「そうだったね。奴隷紋の消去の仕方を考えてるのだけど、解呪の方法が失われていて、頑張って探すからね。私が死んだら一緒に死ぬのって嫌だしょう」
「別に嫌ではないですけど……」
「そうなんだ……」
私たちはエルトリア側のトンネルの入口に着いた。それじゃあ。ジュリアちゃん飛ぶからね。少し我慢をしてね。怖かったら目を閉じて」
私たちは文字通り飛んだ。重力から自由になった。あっと言う間にトロールが住む洞穴の奥に着いた。さてと、ジュリアちゃんは気絶していたので、結界を張った。
トロールが三体、一体のトロールがボスでもう一体がサブかな。パシリのトロールにイタズラを仕掛けることにした。私はパシリのトロールの前に立って、お酒の入った陶器のビンをそのトロールに渡した。
匂いに敏感なボストロールがその酒びんを奪ってゴクゴクと飲んだ。パシリのトロールは恨めしそうにそれを見ていた。
私はまたパシリのトロールの前に立って酒びんを渡した。何となくニッコリ微笑んだように見えた。しかしその幸せは長くは続かなかった。サブのトロールがその酒びんをパシリのトロールから取り上げ美味そうに飲んだから。
ボストロールが、パシリのトロールに襲いかかった。それを見たサブのトロールがボスに襲いかかった。パシリのトロールは恐怖で洞穴から飛び出した。
パシリのトロールが外に飛び出すと二体のトロールがそれを追う。
「ジュリアちゃん、起きて、皆んなを助けに行くよ!」
「エルザさん、気持ち悪いです……」




