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021 森の魔女、エッシェンバルトにそして再びエルマ山に

 私は旅商人のブルックの姿になって御者台に乗っている。二頭立ての黒光りする軍用馬車だ。窓はなくジルベスタ様を含む魔法兵十人が全員黒のフードを被って座先に座っている。


 アンリエッタ女王陛下は予想通り、騎士団の宿泊の陰からハンカチを振っている。バレバレだ。侍従長がその横で瞑想に入っている。すでに悟りを開かれたようで、その表情はとても穏やかだった。


 私は普通に馬を走らせた。アンリエッタ女王陛下が宿泊の陰から飛び出して、ハンカチを振っている。脱走兵というシナリオはこれで完璧に崩れた。エルトリア公認で義勇軍を派遣したことになった。


 王都を出ると私はお肌に良い黒ゴケを食べながら、国境線に近づいている。エルトリアの国境警備兵はそれを眺めているだけ。国境警備隊とは事前の調整とかしていないので、止めないとダメなのだが……。


 諸国連合国の国境を超えた。撃っては来ない。第一兵士がいない。前方にやっと砲兵隊が見えた。一発の砲弾が馬車の手前に落ちると周囲が誘爆し始めた。この辺り一帯は地雷地帯だった。


 ドンゴンバルトの方は色々対策を講じているのがよく分かる。それに比べてエルトリアは……。


 私たちの軍用馬車は目立つように行動している。大迂回をしてエッシェンバルトに武器と弾薬を運んでる、旅の商人のキャラバンに擬装した輸送部隊の存在に気付かれないように派手に移動している。


 お陰で私の魔力消費が激しいので、どうしてもエルマ山にもう一度行って黒ゴケを集めないと大変だ。お肌が荒れてしまう。たたでさえ、中年のオッサンのブルックの姿で過ごしているから。ジルベスタ様がどう思っているのかが気になる。アンリエッタ様がこの姿を見れば安心すると思う。



 ハインツ王子の砦にやって来た。兵士がたった十人でしかも、ハインツ王子の指揮下に入らないとジルベスタ様が明言したので、ハインツ王子の側近から「帰れ!」と怒鳴られた。


 ジルベスタ様が「我々が戻ると、輸送部隊も帰還します」の一言でハインツ王子以下全員、こめかみをヒクヒクさせながら耐えていた。


 私たちの馬車を追ってドンゴンバルトの部隊を中心とした軍団がハインツ王子の砦に進軍しているとの報告を受けて、逃げる算段をはじめた。農民兵もエルトリアの魔法兵も放置して逃げるみたいだ。


 ジルベスタ様はその知らせを聞くと、部下に偵察して来るように命令を下した。おお、凛々しい。お姉さん惚れなおしたわ。


 命令された部下が消えた。姿が見えなくなる魔法が使える。気配もわからない。これはマズい。私が行水をしていても見られていることに気付けない。


「私は別の任務がありますので、そちらに向かいます」


「ブルック、気を付けろよ」とジルベスタ様の笑顔が眩しい。


「ありがとうございます」


「ブルック、その任務が終わったら、単独でエルトリアに戻ってほしい。ここに戻って戻るのは危険だ。それとこれを頼む。私たちが帰還出来るかどうかは君にかかっている」


 半分に割られた結界石を義勇兵の人数分入った革袋を渡された。


「ジルベスタ侯爵、承知いたしました」


「ジルベスタ殿、その方は侯爵なのか?」と突然ハインツ王子が問いかけてきた。


「はい、そうですが何か?」


「万一の場合だが、我々をエルトリアで保護してほしい。侯爵なら出来るであろう!」


「ええ、私になら出来ますが……」


 アンリエッタ女王にジルベスタ様がお願いすれば、当然出来る。だがしかし、ドンゴンバルト軍がハインツ王子一行を見逃してくれるとはとても思えない。それにここに派遣された魔法軍の騎士は単独で帰還可能な者だけだし。



 私はけもの道を通ってエルマ山に向かっている。黒のローブを被って、黒の軍師様がドンゴンバルト領に潜入したかのように見えると思うが、森の中では熊に見えるので、人が寄って来ない。銃で撃たれる可能性は高いけど。この世界でも熊の毛皮、熊の内臓、熊の掌とかかなり高く売れるから。


 エルマ山の近くにやって来て、火炎龍は寝ていないと確証を持った。中規模のドンゴンバルトの軍隊が麓で火炎龍を監視しているのが見えたのだ。


 私はけもの道から外れ、その部隊の近くに接近して、新兵器、携帯用大砲をリュックから取り出し、設置し、火炎龍の巣穴に向けた。砲弾というか榴弾を筒の中に落とした。炸薬がポンと鳴って榴弾が空中に飛び出した。その榴弾がより遠くに飛ぶように魔法を掛けた。二十メートルしか飛ばない榴弾を二十キロメートルまで飛ばして、火炎龍の巣穴に近くに落とした。


 火炎龍が巣穴から出たのを確認して、私はエルマ山の入口に向かった。火炎龍は私と入れ違いにドンゴンバルトの軍隊に向けて飛びたった。そのことに気付くとドンゴンバルト軍は即座に撤退し始めた。訓練が行き届いている。


 火炎龍がその部隊を追い始めたのを確認し、一気に転移陣まで私は飛んだ。火炎龍の巣穴を通らずにその上の黒ゴケがたくさんあるところ、別名火炎龍のトイレに転移して、黒ゴケをリュックにせっせと入れている。今回の採集は大成功だ。ドンゴンバルト軍の即時の撤退のお陰で時間が出来た。


 火炎龍がドンゴンバルト軍を全滅させたようでこちらに戻って来る。潮時だ。私は転移陣に飛び乗って、入口の転移陣に戻り、森の中で火炎龍が巣穴に入るのを待った。


 火炎龍がなかなか巣穴に入ってくれない。私に気付いたのだろうか? 運よく南の空に青龍が飛んでん来た。火炎龍もそれに気付き、青龍を狩にさらに上空に舞い上がった。


 私はそのタイミングでけもの道に戻る「助かったあ」としばらくその場に座り込んだ。どうも黒ゴケをたくさん取り過ぎて臭っていたみたいだった。欲を出してはいけない。私はほどほどということを今学んだ。


 

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