020 森の魔女、女王陛下にジュリアを会わせる
私は薬草の世話をしているジュリアを呼びに行った。
「ジュリア、アンリエッタ女王陛下があなたに会いたいそうよ」
ジュリアが固まった。平民が一国の女王に会う機会ってないから。
「ワルド副団長との関係を聞かれると思うので、そのつもりで」
「エルザさん、私はワルド様とは一度しか会っておりません。関係も何もありません」
「ワルド副団長にハインツ王子への助力を願ったらこうなりましたで良いんじゃない。それ以上はさすがに女王陛下も尋ねられないと思うし……」
「こうなりましたとは?」
「愛人になりました」
ジュリアの顔が真っ赤になっている。美少女が恥ずかしがる表情はインパクトがある。コーヘン君が鼻血を出して、研究所に飛び込んだ。
「そういうお話になっているのよ。もし、女王陛下が疑念を抱くと武器と弾薬がエッシェンバルトのハインツ王子のところに送れなくなるから、頑張ってね」
「はい、頑張ります。皆んなのためですから」キリッとした表情にジュリアはなった。
◇
「女王陛下、ジュリアを連れて参りました」
アンリエッタ女王陛下ジュリアを見つめる。見つめられているジュリアはモジモジしそうになるのを懸命に堪えている。
「ジュリア、あなた、私の侍女になりなさい」
「女王陛下、突然何を仰るのですか? 現在ただ今侍女候補を選抜中でございます」と侍従長が叫んだ。ドンゴンバルトに情報を流していた、侍従、侍女が逮捕され欠員補充中なのだが、現在もなお捜査中ということもあって決められないでいる。
「ジイ、この研究所にいるということは安心じゃないのかしら?」
「しかし、この者は平民でしかもエッシェンバルトの人間です」
「エルザの時に使った裏技を使えば良いと思わない」
「女王陛下……」侍従長は瞑想に入った。
「アンリエッタ様」
「何かしら? ジル」
「ジュリアを陛下の侍女にされると騎士団が困ります。ジュリアは狙撃銃の教官ですから」
「狙撃の名手って男の人ではないの?」
「ジュリアです」
「じゃあ、ジルが戻って来てからにするわ」
明らかにジュリアを自分のライバルに認定したので、ジュリアを自分の監視下に置こうとしているのが、お姉さんには見える。
私はこの地味っ子の容姿なので安全かもしれない。ジュリアはジルベスタ様が好む女性のタイプなのかあ。私は努力してもダメかもしれないなあ。しかも、エッシェンバルトに行く姿は中年の男の姿で、エッシェンバルトではその姿を維持しないといけないから。最悪だあ。
私は自分が魔女に生まれたことがこんなに悲しいとは思わなかった。この姿も変幻だと思われてしまうから。
「ねえ、エルザ、コーヒーはまだなの」
そうだったここはカフェ・フェルドンだった。喫茶フェルドンよりもオシャレな名称に私はしてみた。
「はい、ただいま」
「私もお手伝いします」とジュリアが宣言し、私の後について来た。
「エルザさん、私はどうなるのですか?」
「ジルベスタ様が戻って来るまでは、騎士団所属の教官だから……」
侍従長と毒見役が追いついて来たので会話は途切れた。毒見役の人が代わっている。逮捕されたのだろうか? それともコーヒーを毒見するのが辛くて退職したのだろうか?
毒見役の人がコーヒーを一口飲んだが嫌な顔はしなかった。
「エルザ殿、アンリエッタ女王陛下から話があると思うがエルザ殿を子爵の位に上げることに決まった。エルザ殿が拒否しても陞爵される。それでだ、このジュリアをエルザ殿の養女にしてもらえないか? 子爵の娘以上が、アンリエッタ女王陛下の侍女となる最低限の資格であるので、よろしく頼みます」
侍従長から唐突に陞爵の話が出て困惑している。ジルベスタ様は王宮の中ではアンリエッタ女王の意向で侯爵として扱われるが、王宮を出れば一介の騎士でしかない。そうなると私の方がジルベスタ様より偉くなってしまう。
フェルドン先生と同じ位になるのは、私にしてみればもの凄く困るでも決定事項なので、アンリエッタ女王陛下の申し出を絶対に断るなと釘を刺された。
これが根回しというやつか? ジュリアちゃんも同じ年齢の私の養女になれと言われて困惑している。私も困惑している。
侍従長はまったく表情を変えないので、何を考えているのかまったく読み取れない。フウーー。参った!
私とジュリアちゃんは、軽く抵抗してその場から逃亡しようとしたが、侍女に捕まり、アンリエッタ様のいる応接室に連れて行かれ、私の子爵内定が伝えられた。日本では貰えなかった内定がこの世界に生まれて、初めて貰えた。まったく嬉しくない。
アンリエッタ女王陛下は、騎士団を脱走してエッシェンバルトのハインツ王子の軍を助ける義勇軍を見送りに行くと言い出した。侍従長も「それはなりません! 絶対にダメです。国王陛下にお願いして監禁させて頂きます」とアンリエッタに通告したので、出発前日にジルベスタ様がご機嫌伺いに行くことで、この話は一応終わったけれど、絶対、どこから見ているとお姉さんは思っている。




