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017 森の魔女、あちこちで足止めされる

 御者台にジュリアちゃんが座った影響で毎度、国境を越える際、止められる。街に入ったら入ったでチンピラの皆さんが寄って来てあれこれ言ってはジュリアちゃんを連れて行こうとする。


 ハア、面倒くさい。検問の兵士さんにワイロ、チンピラさんにはご苦労様代を毎回取られる。皆んな、カエルに変えてやろうかと思ったりする。


 本当は街で宿屋に入りたい。元日本人としては行水でも良いので体を洗いたい。この世界って平民は行水。領地を持っている貴族なら毎日バスタブにお湯を侍女なり侍従がお湯を入れてくれる。領地を持たない貴族だと週二回程度の入浴だったりする。


 残念ながら、ジュリアちゃんを連れているので、誘拐が怖くて宿屋に入れない。宿屋の鍵なんてあってないようなものだし、ジュリアちゃんを一人には出来ないし。ジュリアちゃん本人は、多少の荒事には慣れているし、ハンドガンをいざとなったら使うと言うし。


 ハンドガンなんて使われたら、お尋ね者になってしまう。それと私が中年の叔父さんなので、周囲の敵より私を警戒してるし。私が実は魔女ですって言っても信用されそうもないし……。ああもう面倒くさい。段々、ジュリアちゃんが逃げても良いかって思うようになって来ている。


 今日も野宿だ。私は結界石を荷馬車の四隅に置いて結界を張った。これで夜盗の類は防げる。


「ブルック様、どうして街で宿屋に入らないのですか?」


「この辺の宿屋は娼館を兼ねているので、ちょっと大変なわけ。ジュリアちゃんが寝ている部屋に侵入する男がいるわけよ」


「私なら大丈夫だと思います。荒事にはなれてますから」


「争いは私の仕事上避けたいの。密偵だから」


「ブルック様、兵隊が来てますけど!」


「ドンゴンバルトの手が回ったかもね。ジュリアちゃんは荷馬車の中に入ってくれるかな。この結界はそう簡単には破れないけど、兵隊相手だと私も手加減出来ないから。見ない方が良いよ」


 私は杖を出した。兵隊が私の荷馬車を取り巻いた。兵隊の一人が荷馬車に近寄って来た。ジュリアちゃん狙いだ。しかし、結界に弾かれた。


「見えない壁がある」と結界を触っている。


「お前は何者だ!」


「エルトリア魔法軍兵士、名前はない。八つ裂きされたい者は前に出るが良い」


 結界を触っていた兵隊は跳び下がった。この部隊には隊長の騎士がいない。逃亡兵の集まりなのだろうか? 制服がまちまちだ。


「俺たちはエルトリアに協力した。ドンゴンバルトの街や村で騒動を命令通り起こした。しかし、報酬が貰えなかった」


「ドンゴンバルトにあったエルトリアの拠点は潰された。エルトリアに来れば報酬は支払う」


「無理だよ、魔法兵の旦那、あんたも俺たち同様、エルトリアに捨てられた口だね」


「どうして、そのようなことを言う。エルトリア領までさほどないと思うが……」


「この街道の先にはドンゴンバルトの兵士と近隣の小領主の兵隊でいっぱいだ。迂回路も探したがそこにも兵隊が詰めている」


「お前たちはエルトリアの女王陛下に忠誠を誓うのなら、エルトリアに連れて行っても良いが!」


「俺たちはこの通り銃もない。剣だけだ。人数も五十人足らず、あちらさんはどう見て千はいる。勝ち目はねえよ」


「そうかなあ、私は馬と荷馬車を浮かせた。私はこのまま突貫して道を開く。後はお前たちの好きにするが良い」


 私は杖に灯りを灯し、この先に待ち受けていると言う部隊に突撃を掛けることにした。


 やはりドンゴンバルトの兵隊は訓練が出来ている。射程範囲に入るとガンガン撃って来た。大砲の弾は元の場所にお帰り願った。砲兵部隊に損害が出ている。


 兵士が正面に立った。跳ね飛ばした。大きなケガはしていないと思いたい。後ろからかけてくるエルトリアに協力したって言う兵士たちに向かって私は叫んだ。「自分たちの指揮官はジルベスタ侯爵。盗賊部隊に所属していたって言うように!」


「ありがとうございます。恩にきます」エルトリア領内に入ったけれど、警備兵はどこに、これだと夜襲を掛けられたら負けると思う。エルトリアの兵士の駐屯地を突っ切ってそのまま王都まで飛ばした。


 研究所を守っている警備の兵士には、騎士団長に詳細を尋ねるようにと言ってフェルドン研究所に入れてもらった。


「ジュリアちゃん、大丈夫かな」


「馬車に酔いました。気持ち悪いです。ところであなたはどなたですか?」


「私はエルザよろしくね」


「エルザ様、ブルック様は?」


 私は一瞬だけブルックの姿になって見せた。


「ジュリアちゃん、私の本当の姿はこの姿だから、よろしくね」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「フェルドン先生、エルザです。帰って来ました」


「うるさい、エルザ、今何時だと思っているんだ。第一、お前重病人で面会謝絶だったじゃないかあ!」とパジャマ姿のコーヘン君が研究所の外に出て怒鳴っている。が、ジュリアちゃんの姿を見ると真っ赤になって研究所に飛び込んでいた。


「エルザ、お疲れ様」


「フェルドン先生、私にも従者がつきました。よろしくお願いします」


「従者ですか……、とりあえずベッドの用意をしましょうか」


「はい、私がやります」


「ああ、頼むよ皆んな寝ているし……、さて、皆んなにどう説明したら良いのやら……」


 

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