016 森の魔女、盗賊の娘と取引きをする
少女は躊躇うことなく引き金を引いた。やはり銃弾は弾かれて地面にまた突き刺さっていた。
「お前は化け物か?」
「やっとわかりました? 手遅れですけど。命だけは助けてあげると言ったのにねえ……」
「私たちをどうするつもりなのか?」
「そうですね。こちらの人たちは生き埋めにして、あなたは奴隷商人に高く売れそうなので、闇市場に運びます」
「私は誰にも従わない」
私を杖を取り出して、少女の首に奴隷紋を描いた。
「何をする!」
「あなたを私の奴隷にしました。そこに落ちているハンドガンを拾って、そこで泣いている男の子を撃ちなさい」
少女の意志に反して、彼女はハンドガンを拾って、少年に狙いを定めた。
「いや、いや、いや、撃ちたくない」
「私に従いますか? 従うと誓えば先ほどの命令は取り消しますけど」
「お前に従う。神に誓う」
「命令解除」
少女は座りこむとハンドガンで自分を撃とうとした。「自殺を禁止します」
「ジュリア、この方には殺意はない。安心しなさい」と髭面の叔父さんが少女に声を掛けた。
「この方がその気なら私たちはもう死んでいるよ」
「すみませんけど、私に逆らわれと困るので皆さんにも奴隷紋を施します。私が死ぬと皆さんも道連れで死ぬのでその点ご理解願います」
この人たちが盗賊だとは思えない。
「あなたがこの集団のリーダーですか?」と髭面の叔父さんに尋ねた。
「私たちは、本来玉座につくはずだったハインツ王子の農兵部隊です」
「農兵の方が旅の商人を襲うのが理解できませんが……」
「積荷を見てください」私は自分の荷馬車に積み替えた積荷を見てみた。
「これは硫黄に木炭に硝石ですか。ああ、火薬の原料ですね。これがほしくて襲ったわけですか」
「ところで、あなた様は一体何者何ですか? 旅の商人ではないのはわかります」
さて、どう答えようか?
「エルトリアの魔法軍の偵察です。信じるかどうかはお任せします」
「エルトリア軍の方、ハインツ王子に会っては貰えないでしょうか?」
「会うだけなら、亡命とか言われるとそれなりの方を連れて来ないといけなくなります」
◇
古い砦に連れて行かれた。馬と荷馬車二台を飛ばしながら移動したので、けっこう喜んでもらえた。
ハインツ王子は数人の騎士を後ろに控えさていた。
私は跪いてエルトリア魔法軍の偵察、名前は命令により名乗れないと言ったら、控えの騎士が無礼なと激高したので、ご無礼しましたと立ち上がって帰ろうとしたら止められた。
「待て、エルトリアは先の戦いで完敗したと聞いたが、実際はどうなのか?」
「魔法の使えない従卒に損害は出ましたが、騎士には損害は出ていません」
「エルトリアの騎士は無傷なのか?」
「はい、ただドンゴンバルトの武器の性能が上だとわかり、現在は同程度の武器を製造中です」
「その武器を我々に回して貰えないだろうか?」
「ドンゴンバルトとエッシェンバルトは兄弟国ですので、それは無理かと個人的には思います。とは言え上層部にはハインツ王子からその旨言われたと、報告しておきます」
「硫黄、木炭、硝石は我々が先に鹵獲したものである。我々に引き渡すように」
「お代またはそれに代わる商品があれば引き渡しますが……」
「死にたいのか!」
「私を銃撃しても殺せないことは報告されていると思いますが……」
私が立っていた床が左右に開いた。私は空中を浮かんでいる。私を殺そうとした罰として、ハインツ王子の首を絞めあげた。
護衛の騎士が私を剣で刺そうとするが、剣が通らず組みついてきたが組みつけず、呆然としていている。
「魔法兵はかくも強いのか」と言う。誰か止めないとハインツ王子の息が止まる。
「エルトリアの方、小麦と交換ではいかがでしょう」
「それでけっこうですよ」と言いつつハインツ王子の首から手を放した。ハインツ王子が涙目で私を睨んでいた。
◇
食糧倉庫に連れて行かれた。ふむ、これって毒麦が多いというかほとんど毒麦じゃないか。まあ、毒薬の材料になるので、私は良いんだけれど。
「この麦全部と交換なんですよね」
「はい……」目が泳いでいる。
「毒麦ですけど、毒薬の材料になるので交渉成立です」
「ジュリアさん、御者台にどうぞ座ってください」
ジュリアさんはギョッとしている。やはり自分は売られるのかと思ったようで、顔色が悪い。ジュリアさんは私には逆らえないので、私の荷馬車の御者台に乗った。
「どこへ行くのですか?」
「毒麦は市場では売れないので、エルトリアに戻ります。ジュリアさんにはエルトリア兵に狙撃を教えてもらうつもりです」
「売らないのですか?」
「素晴らしい狙撃手を失うのは火薬の原料よりも痛手です」
私たちはエルトリア領を目指した。




