015 森の魔女、尋問される
「エルメ、なぜ冒険者パーティを助けようとしなかった」
「ドラゴンスレイヤーズは青龍を倒した実績のある方々ですので、私がいると足手まといかと思いまして、穴に隠れました」
「エルメ、お前は冒険者パーティが火炎龍に負けると思っていなかったか?」
「勝てるとは思ってはいませんでした。まさかブレスの一撃で燃え尽きるとも思ってはいませんでしたが……。自らをドラゴンスレイヤーズと名乗っておられましたので」
「再度尋ねるが、お前は冒険者パーティを助けられたのではないのか?」
「不可能です。火炎龍の縄張りに入った、武器まで持っている人間を火炎龍は絶対に逃しません。とくに寝起きを起こされて怒りくるっている火炎龍に勝てる者などおりません」
「お前はアレに詳しいのか」
「私のご先祖さまはエルマ山の麓で薬師をしていたと聞いております。黒ゴケについてもその時に見つけたのではないかと思います。口伝ですので詳しくことはわかりません」
◇
「国王陛下、アレが王都に向かって飛んで来ております。その途中の街や村を焼きながら」
国王は私を見つめて言った「どう言うことだ」
「足らないからです。自分の縄張りに侵入した人間の臭いと、残っている人間の臭いが足りません。私の臭いを辿ってこちらに来ているものと思います」
「お前、こうなることを知っていたな」
「はい、私に冒険者パーティを案内させた時点で定まった運命でございます」
「どうすれば、この運命を変えられる!」
「私に、商品のお代金を下さり、荷馬車と馬を返してくだされば運命は変わります」
「ふざけるな! お前を殺して川に投げ込めば、火炎龍は川に向かう」
「さて、時間がありますか? 私の死体が王都からどれだけ離れますか? 王都が焦土になってから火炎龍は私の死体を探すかも」
「お前が逃げた後も王都にアレが来るかもしれんな」
「はい、その通りです。火炎龍が私が王都を離れたことに気づかなければですね。私としては王城から私が離れたのがわかるように風下に、サービスで逃げて差し上げます。どうされます?」
「わかった。今はお前の言う通りにしてやる。しかし俺は必ずお前を殺す!」と国王が楽しそうに宣言をした。
「どうぞご自由に」と私も笑顔で応えた。
◇
私は商品の代金を受け取り、荷馬車と馬を返して貰うと、速やかに王城を滑るように出た。魔法で馬と荷馬車を浮かせて飛ばしたとも言う。
後ろから、必死の形相で騎士が四十騎ほど追いかけてくる。私を殺しに。お気の毒に。火炎龍に追いかけれれている者をわざわざ殺そうなんて、自分から死地に入るだけなのに。
王都に向けて飛んでいた火炎龍が私に気付いたようで、向きをこちらに変えた。私はドンゴンバルトとその隣国エッシェンバルトの国境の大河に向かって、馬と荷馬車を飛ばしている。
火炎龍がこっちに来たので追手が早く私を射殺しようとバカスカ銃弾を撃って来た。火炎龍が近づいて来ると銃撃は火炎龍に向いた。火炎龍に敵認定されるだけなのに。私は、大河の手前でエメルの上着を脱ぎ捨てて、馬と荷馬車を飛ばし大河を渡る。
騎士たちは私を追うのをやめ反転したけれど、火炎龍に敵認定されていたため、ブレスで跡形もなくなった。エメルの上着も燃えた。
火炎龍は満足したようで巣に戻って行った。
◇
大河を渡ってエッシェンバルトに入るって、別の鑑札を用意する。今度は中年の叔父さんブルックという旅商人の姿になった。問題は旅の商人なのに荷馬車には何も積んでいないことだ。これは関所で百パーセント怪しまれる。
エッシェンバルトは羊毛の産地なんだけれど、すでに毛刈りが終わっているし、仕入れが終わった次期なのと、ドンゴンバルトで渡されたのは金貨でかなり珍しい金貨だったりする。この金貨を辿れば私の後が追えるから、この金貨は使えない。
荷馬車に非常用のお金として隠してあった銭貨と銅貨で仕入れを探さないといけない。どうしたものか?
街道を進むと、同じ旅商人の荷馬車が止まっていた。「もしもし、どうされましたか?」と尋ねると返事がない。周囲には殺気が満ちているのを感じた。盗賊に襲われた直後に私が通りかかったようだ。盗賊にしてみれば幸運以外の何もものでもないだろう。私にとってもだけど。
御者台に座っていた旅商人は頭から血を流していた。銃弾一発で殺すとは良い腕だ。そう思った時、銃声が鳴った。銃弾は私のこめかみに当たっていたはずだったが、私を取り巻く空気の壁に阻まれて弾かれて地面にめり込んでこんでいた。
私は御者台から降りて、亡くなった旅の商人の積荷を自分の荷馬車に積み替えた。その時、バラバラと数人の盗賊の皆さんが現れた。
「その荷物は俺たちの物だ!」
「残念ながら、旅商人の私の物です。善意の第一発見者ですから」
「ふざける」と言いつつ私に向けてハンドガンを乱射する。ハンドガンってこの世界に来て初めて見た。ジルベスタ様にプレゼントしよう。
銃弾は私に当たっているように見えるのだが、私が平然としているので、盗賊の皆さんは硬直している。
「では、盗賊の皆さん服を脱いで有り金すべて出してください。命までは奪いませんから。
「ふざけるな! この距離なら弾かれない」とライフル銃を構えた少女が私のこめかみを狙っていた。美少女なので、高く売れるなあと考えていた。




