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012 森の魔女、盗賊に襲われる

 山道を久しぶりに荷馬車でのんびり移動している。途中、街に寄ってドンゴンバルトで売れそうなものを物色したが、高い。これでは売れないという私の第六感が働いて何も買わずに通過した。前回来た時より二倍の値段がついていた。街の人の暮らしは大変だと思う。


 これって悪性インフレってやつだろうか? 忙しいけれどまったく儲からないってやつ。


 この辺りから、盗賊エリアに入る。この辺の農民の人が、農業だけでは生きていけないので不足分を盗賊稼業でまかなう。そういう人たちなのでいくばくかの通行料を支払えば、通してもらえる。


 前回は十シリングだったけど、今回はその倍だろうか?


 お馴染みのポイントでお馴染みのメンバーの盗賊団にあった。


「通行料はおいくらですか?」


「馬と荷車とその積荷だ。命だけは助けてやる」


「旅の人すまねえ、頭が急に亡くなって新しい頭になってしまった。この頭は本当に命を奪って荷物を奪う。大人しく帰った方が良い」とお馴染みの盗賊さんが忠告してくれた。


「ありがとうございます。あなたは助けますから、心配しないでください」


「ふざけたことを、矢を射かけろ!」


「お馴染みの盗賊は皆さんはあさっての方向に矢を放っている」


「新しい頭に服従している人たちは私に向けて集中的に矢を放ったが、私は重力を操って矢の方向を変えて、私に向けて矢を射た人にすべて返してあげた。毒矢を放った人もいたようで、自分の矢に刺さってピクピクしている」


 私は内ポケットから杖を出した。新しい頭にその杖を向けて呪文を唱えた。盗賊の頭は大きなカエルになっている。


「魔女だーー、本物の魔女だーー」と叫び声と大きなカエルを残して盗賊団は四散してしまった。


 その後二度ほど盗賊に襲われたけれど、杖を出すと、直ぐに逃げ出してくれたので、とっても安全な旅が出来た。魔女の評判は落としてしまったけれど。だって皆さん、荷物を置いていけと言うのだから仕方ないよね。


 ドンゴンバルト領の端にある小さな村に入った。前来た時よりも警戒されている。私の荷馬車を見ると、前は何を売っているのって皆んな寄って来たのに、今回は慌てて家に入ってしまった。


 戦争の影響なんだろう。しばらく行くと検問所が置かれていた。これも前回はなかった。


 兵士が鑑札を改め、荷物をいちいち開けて中を確かめている。リンゴジュースとリンゴ酒をけっこう飲まれた。毒が入っていたらって思わないのだろうか?


 無事検問所を通過した。ドンゴンバルトでそこそこ大きな街に入った。そこは前回同様活気に溢れていて、値段も上がっていない。ドンゴンバルトは物資が豊富なのを感じた。


 私は馴染みの薬屋とか飲み屋に精力剤とリンゴジュースとリンゴ酒の売り込みを掛けた。私の知っている相場でけっこう買ってくれた。


「エルメさん、久しぶりだね」


「道中、盗賊さんが吹っかけるものですから、こちらには来れませんでした」


「でもそうだね、よく来れたね。あの盗賊は皆殺しにする極悪人って聞いたけど」


「その人ですけど、部下に刺されて死にました。今はまた話のわかる人が頭になってます」


「そうかい、天網恢々疎にして漏らさずだね」


「そうですよね、旅の商人が来なければ、盗賊稼業をしたって飢えるだけですものね」


「そうそう、街に流民が流れ込んで夜盗が増えてね。兵士の人たちが巡回しているけど、ちょくちょく大店が襲われているよ。野営するなら街から離れた方が安全って、おかしいよね。本当に」


「ありがとうございます。野営地は街から離れて、街道から逸れたところにします」


 私はお馴染みの薬屋さんとそんな話をしていたら、急に街の中が慌ただしくなった。


「ああ、また流民がかっぱらいだ。かっぱらいが皆んな子どもというのがやりきれない。親に命じられてやらされているんだよ」


 ドンゴンバルトは流民が流れ込んでいるのか? 治安は相変わらず悪いままみたいだ。


 数人の子どもが兵士に連行されている。「あの子たちは兵隊にされる」


「かっぱらいの子どもが王国軍に入るのですか?」


「この国は敵が多いから子どもであろうとも兵士にされるのさ」


「かっぱらいは減る。兵士は増えるって国王陛下のお考えだ」とお馴染みの薬屋さんが笑った。


「夜盗も捕まると、首輪を嵌めれたて兵士にされるそうだ。逆らうと首輪に仕掛けられた火薬がボンだってよ」


「それは怖いですね」


「夜盗は捕まれば即死刑だったんだから、夜盗にとっては良いことなんじゃないか? 武功を立てればちゃんとした兵士になれるらしいしね」


 ドンゴンバルトって本当に軍事国家だ。



 私は売らなかった精力剤とリンゴ酒と媚薬と街で仕入れた果物と野菜を王都に運んでいる。荷馬車を空で運ぶ旅商人はいないから。


 王都の門には長い行列が出来ていた。私と同じ旅の商人とか、野菜を背負った農民とか、小さな商店の荷物とか。大店は特別鑑札を持っているので並ぶ必要がないのだけれど、いちいち荷物を改められているようで、あんまり進めないみたいだ。


 野菜を背負った男が私の荷馬車に寄って来て、このままだと門を入った頃にはこれらの野菜は萎びてしまう。あんた買わないかい。


「葉物野菜は辛いよね」


「たぶん三日、下手をすると五日門を通るのにかかりそうだ。どうだい安くてするよ」


「いくら?」


「十シリングと言いたけど、七シリングでどうだい」


「六シリングなら買うけど」


「売った」


 私は葉物野菜を買ったその日から魚の干物と野菜サラダの食事が続いた。ヘルシーだ。ちょっと塩分が多めかな。

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