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011 森の魔女、アンリエッタの誘導尋問に引っ掛かりそうになる

「フェルドン、私ね、父上に何度もお願いして軍の会議に出席したのよ。そしたらこれまで聞いていたことと全然違う内容が話されていたの、フェルドンはどう思う?」


「医師として言わせて頂くと、患者の容態が急変した場合、即座に別の手段を講じます」


 私は、アンリエッタ女王陛下、フェルドン先生、ジルベスタ様の前にコーヒーを置いて退出しようとしたら、「ねえ、黒の軍師様、持久戦ってど言うことですか」とアンリエッタ様から呼び止められた。バレてるのか? 無視して部屋を出た方が良いのだろうか?


 侍従長の顔を見ると、止まれと顔に書いてあった。私は振り返らずに扉の前で止まった。


「アンリエッタ様、言い間違えてますよ。あれは黒の軍師ではなくエルザです」


「ふーーん、ジルがフォローするんだ」


「エルザもここにいなさい。これは命令です」私は女王陛下の侍女たちの隣に立った。出来るだけ見えないように。私のささやかな抵抗だ。


「エルザ、そこだと話しにくいからこちらに来て座りなさい」


「侍従長様」と侍従長に助けを求めた。


「女王陛下の命令に従うように」と厳かに言われる。侍従長は瞑想に入られたようだ。私はフェルドン先生の影に隠れるように座った。


「ねえ、エルザ、どうしてここにいるわけ。私ね、御者に最速で研究所に行けと命令したわけよ!」


「なぜ、エルザはここにいるの!」


「フェルドン先生」と私はフェルドン先生に助けを求めた。私、アンリエッタが怖いです。


「姫様、エルザはずっとこの研究所におりました。万一抜け出したとしたら、この研究所を警備している騎士たちは無能だとされます」


「変だなあ、私の勘がハズレはずはないのだけれど、ジルベスタの魔法は私のエスコートで潰しておいたし」


「なんかモヤモヤするのよね。仕方ない、今日はここまでね。エルザ、コーヒー美味しかったわ。また来るね」


 私とフェルドン先生は頭を下げた。ジルベスタ様はアンリエッタ様のエスコートで王宮まで行く。


「フェルドン先生、私、自分の部屋でコーヒーを飲んでいて良いですか?」


「もちろん。今日の業務は私もエルザも終了だよ」




 アンリエッタは来なかった。平和だ。ジルベスタ様も来ないので寂しいけれど、私は通いの人たちと一緒に薬草の手入れをしている。


「お前たちの安全を守るためだと言われてさ、必要最小限の物だけ持って、どこかの砦に押し込められて、私たち家族は二度と家に帰れないかと思ったよ、この子なんて夜になると泣き続けるもんだからさ、皆んな泣いちゃったよ」


「それは言わないで、本当に不安だったのだから。ここって私立なのにどうして王立の薬物研究所が狙われなくてウチなのかが理解出来なかったのよ」


「エルザ、ちょっと、フェルドン先生が呼んでるぞ! 何でお前ばかり呼ばれるんだよ!」


 まったく呼ばれない先輩のコーヘン君が不機嫌だ。お姉さん的には可愛いのだが。


「はい、すぐに行きます」



「エルザ、すまないが病気になってもらえないか?」


「はあ?」


「エルザが病気。うむ、あり得ないな。そうだ! 毒物の研究をしていて誤って気化した毒を吸い込んで倒れたとする方が自然かもしれん」


「フェルドン先生、何を仰っているのですか?」


「エルザに、極秘で行ってほしいところがある。騎士団長からの命令だ」


 私、騎士団の厨房は退職したので、騎士団長に命令されるのはおかしい。


「私、フェルドン先生の命令なら従いますけど、騎士団長の命令は聞きません」


「私としては、危険なので行ってほしくはない。何しろ行き先がドンゴンバルトだからね」


「エルトリアの諜報部門がすべて潰されたそうだ。まったく情報が入って来ない。エルザは旅商人としてドンゴンバルトに行ったことがあるそうだね。どんな情報でも良いので探ってきてほしいそうだ」


 ドンゴンバルトに行商に行くくらいならお安いご用だ。


「ドンゴンバルトで行商するだけなら問題ないですけど、あれこれ探れと言われると困りますけど」


「ドンゴンバルトには三カ月程度滞在してもらうことになる。その間エルザは私の患者で面会謝絶の重病人ということにする。このことを知っているのは、騎士団長とワルド副団長と私の三人だけだ。ジルベスタはアンリエッタ様の誘導尋問を考慮して外している」


「あのう、商売をしてもいい良いのですよね」


「いつも通りしてほしい」



 家に戻り、精力剤を量産して、ドンゴンバルトで一番人気商品は媚薬なので、媚薬も四本作って、ドンゴンバルトに行商に出掛けた。私の行商人の鑑札は、私の祖母の代からこの地方を収める、小さな領主、エルトリア王国もドンゴンバルト王国もまったく気にかけない、山の中の田舎の領主様が発行された鑑札だ。


 鑑札は幾つもある。先祖代々鑑札をあちこちの小領主から買っているのでなくしてもさほど困らない。そうは言ってもお家断絶で無くなっていることもあるので事前の確認は必要だったりする。


 この鑑札は、これまで一度も問題を起こしたことのない鑑札で極めて信用度が高い鑑札だったりする。


 荷馬車と格好は男姿の行商人が一人なので、よく盗賊の類いに襲われる。大半は通行料を支払うだけですむ。たまに襲って来るのもいるけれど、すべて返り討ちにしている。


 一般人は魔女には絶対に勝てない。逆に盗賊連中の身ぐるみを剥いで、街で売っている。盗賊さんいらっしゃいなのだ。命だけは取らない? ああ、でも全裸で放置しているので、その後の安否は知らないのだけれど……。

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