001 森の魔女、今日も媚薬を作る
「ああもうう、また失敗したあ!」
現在、ただいま媚薬を鋭意製造中。媚薬って配合の順番と薬剤の分量が厳密で少しでもくるうと媚薬効果がゼロになってしまう。
私、エルザは転生者。魔女の母から生まれた。父親は不明だ。母親が亡くなって、突然日本での記憶が戻った。どうも母親が私の記憶を封印していたみたいだ。
こちらに生まれる前の私は製薬会社で非常勤研究者だった。薬剤師の資格も取った。大学院で修士号も取ったけれど、就活には失敗した。恋愛はそれなりに出来た。周りは男の子ばかりだったし、選り好みをしなければ付き合う機会はいくらでもあったから。食事を奢ってもらうために付き合っていたよ。悪いかあ! 生活が苦しかったんだよ。で、私は採用面接の帰りに軽トラックに轢かれて死んでしまった。採用通知を見ることなく。日本での私って本当に運がなかった。
こっちに生まれてからは魔女の母親を手伝って、体力回復薬とか魔力回復薬とか、今作っている媚薬とかを作っては、仮面をつけて怪しさ満点で、身元は不明だけれど、代金はきっちり支払ってくれるお客さんに薬を売っている。常連のお客さんの紹介がなければ、一見さんには薬は売らない。厄介ごとに巻き込まれたくないから。これはちゃんとしたリスクマネジメントなのだ。
毒薬も売っている。毒薬も使い方によっては病気を治す薬になるから。逆に体力回復薬を飲み過ぎると死ぬ。薬も使用法を間違えると毒になる。
さて、この失敗した媚薬をどうしよう。味が似ているから精力剤として売ることにしようか。材料費くらいは回収したいもの。精力剤は薬じゃないし。今度街に行った時にでも売って歩こう。
◇
魔女である私は村の人から怖がられている。私も村には近づかないようにしている。近くの村は昔々魔女狩りをしていた実績もある村だしね。必要なものがあれば遠いけれど、街まで買物に行く。魔女の姿ではなく、男の旅商人になって買出しに行く。女だとどうしても舐められてしまうから。
◇
扉をノックする音がした。時間はもう午後十時を過ぎている。
「すみません。うちは予約制でして……」
「知っている。急に体力回復薬と魔力回復薬が必要になった。無理を承知でここまで来た。在庫があるなら売ってほしい」
この声は母親が生きていた頃からの常連さんだ。上客だし、悩むなあ。
「体力回復薬が五本と魔力回復薬が五本しかないのですが、それで良いですか?」
「有り難い。お願いする」
私は母親が来ていたローブを頭からかぶり顔を見せないようにした。代替わりが分かるとお客さんが減るからね。
扉を開けて仮面をつけたお客を家の中に入れた。
「代金はここに置く」
「お客様、多いですよ」
「来週、また貰いに来る。前金だ」
「一週間だと体力回復薬も魔力回復薬もそれぞれ十本くらいしか作れないですよ」
「それで良い。おそらくこれから毎週買いに来ることになるのでよろしく頼む」
「お客様、体力回復薬は飲み過ぎると毒になりますよ」
「知っている。一日に四本を飲んだ時は意識がなくなった」
「体力回復薬は一日一本です。それ以上飲むと本当に死にますよ!」
「わかっているのだが……」
お客は体力回復薬五本と魔力回復薬を五本を受け取ると、馬に乗って帰って行った。
騎士様かあ。演習だろうか? それとも本物の戦争だろうか? どうも媚薬なんか作っている暇はなくなりそうだ。
◇
荷馬車に精力剤を積んで、街に売りに行く。街の様子が慌ただしい。本当に、どうも戦争が近いみたい。物の値段が上がっている。精力剤の値段をそれに合わせて高めの値段にした。思った以上によく売れた。完売だ。皆さん、食事時間を惜しんで精力剤で間に合わしているのだろうか?
◇
「行商人さん、リンゴを買わないか?」
「高いですねえ」
「仕方ないだろう。今は何でも値段が上がってしまって、ウチだってこの値段じゃないと生活が苦しくなるんだよ」
「まとめて買ってくれるなら、値引きするよ」
野菜とか果物は日持ちしないから売れ残ると、大損になる。
「いくらですか?」
「一割引き」
「四割引き」
「ダメだ二割引き」
「三割引き」
「二割五分引き」
「それで買いましょう」
私はリンゴを荷馬車一杯買った。私の場合加工してリンゴジュースにしても良いし、薬の素材に出来るから、急いで売る必要がないから。
体力回復薬の味の改善に使ってみても良いかもしれないな。
◇
私はせっせと体力回復薬と魔力回復薬を作った。かなり頑張ったので体力回復薬も魔力回復薬も十二本も出来た。ただ、お客が取りに来ない。もしかしたら死んじゃったかもって不安になった。お金は前金で貰っているし、体力回復薬も魔力回復薬も必ず売れる薬なので、問題はないのだけれどねえ……。
体力回復薬を飲み過ぎて亡くなったりしたら嫌だなあ。
午後十時過ぎ、扉がノックされた。
「すまない、またこんな時間に来て……」
「はい、お忙しいのでしょう、良いですよ」と言いつつ扉を開けた。
あれ、なぜ仮面をつけずに素顔でここに来ているの? ここは忌み嫌われている魔女の家なのに。
なんかもの凄く疲れているのがわかる。
「あのうですね。コーヒーという飲み物があるのですが、多少疲れが取れるので飲んでみます? 苦いのが苦手ならミルクとお砂糖を入れますけど」
騎士さんは少し悩んだみたいだが「貰おうか。砂糖とミルクもお願いする」
私はコーヒーを淹れて、騎士さんの座ったテーブルにそっと置いた。