表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

結婚式

作者: Re:over


 泣いちゃった時、僕の側にいたのはいつだって君だった。君が居てくれたから思い切って泣けたし、君だったから素直にたくさんの思いを吐けた。


 君がいなければ僕は永遠に自己嫌悪を背負って生きていただろう。いつだって僕のことを励まし、褒めてくれた。それだけで肩の荷が下り、僕は前進することができた。


 そして――僕は進みすぎた。目の前の大事なものに気づかないまま。もう戻れないところまで来てしまった。


 君は自分の気持ちを隠し通し、僕の迷惑にならないよう全力で己と戦っただろう。それにも気がつかなかった僕は愚者だ。


 届いた結婚式への招待状で、結婚のことは前々から分かっていた。君が直接会いに来て放った「結婚が決まったの」という言葉でようやく察したのだ。どこか悲しげな表情と名残惜しそうな口振り。それに対する僕の喪失感と脱力感。


 鈍感な自分を何度も呪った。眠れない夜が続き、気がつけば式当日になっていた。


 華やかな舞台演出と盛り上がる声。僕の意識は宙を飛び、新郎新婦の並んだ姿をまともに眺めることはできなかった。最低だ。


 式は滞りなく進んでいたにもかかわらず、永遠のような長さを感じる。落ちるような感覚で意識が正常になった時、会場の人たちは出口に向かって流れていた。


 重たい足取りで歩き進んで会場から出て、廊下に出ると彼女がいた。


「久しぶり」


 声をかけられた。本当はあまり話したくなかったのだが、仕方がない。


「お幸せに」


 僕はできる限り突き放すように冷たく言う。


 彼女の表情は幸せそうなのに、涙が溢れそうな悲しい瞳になった。僕は胸が締め付けられ、苦しくて、泣きそうになった。でも、ここで泣いてしまったら、今までと変わらない。今までのお返しをしなければ、僕はきっと後悔する。だからせめて、彼女の涙を食い止めようと思った。


「今まで、僕が辛い時に側に居てくれてありがとう......」


 唇を噛み締め、感情を必死に抑えた。彼女は笑ったと思えば背を向け、涙声で別れを告げる。


「どういたしまして。あなたも頑張ってね......」


 そう言い残し、夫の元へ戻って行った。純白のドレスの裾を引きずりながら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ