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俺の妻は幽霊だ  作者: 高峰輝雄
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ナイトマーケット その4

 薄暗い廟から一歩でると、ネオン色のライトをすごく眩しく感じる。

さっきは赤いベレー帽の女を見かけたので、思わず駆け込んでしまったが、特に何か特定の宗教を信じていない俺は、ああいう場所が苦手なんだよな。

だから、少し街の中に戻ってきた感じがして、ほっとしている。


 マップの上で、廟から海鮮料理セクションの場所を探すと、ここから西に百メートル進んだ、体育館のような建物がそうだった。

一階は雑貨屋ばかりではあるが、地下に降りると海鮮素材をメインとする屋台が並んでいると書いてある。


 そう言えば呉達はどうしているのかと思い、スマホでメッセージ送ってみた。

みなが台湾でWIFIを常時起動しているわけでもないはずなので、即時返信は期待しないことにしているため、取りあえず、目的の体育館へ向かうことにした。


 それにしても、手元の二千五百元はまだ手付かずであった。

今日このナイトマーケットでこれを全額使わなければならない、というゲームなのだが、まぁ、海鮮ものは高くつくはずなので、簡単に使い切るだろう。


そう思いながら歩いていると、スマホがブルブルと鳴る。

画面を見ると佐野からだった。

なにやら写真が添付されているので、あけてみると、呉と佐野だけではなく、その間に女の子が二人、一緒に写っていた。

一人は背が高く髪も長い清楚な感じの子で、もう一人はショートカットで、斜めに分けた前髪の奥で鋭い目線をしているお転婆っぽい子だった。

前者が呉の好みかな、元カノよりも可愛いじゃん。

背も呉よりも少し低いので、カップルとしてはちょうど良いかも。

後者は佐野の好みだな、髪型も好みなら、かなり背が低めでいかにもスポーツしているぜな雰囲気を醸し出しているのも好みだろう。

それにしても、よくこんないい条件の子を見つけたな。

まだ、皆と分かれて三十分も立ってないじゃないか。ネット上には、台湾の女の子の質は高いと書かれていたが、本当かもな。

 その写真にコメントが記載されているので読むと、『呉の元カノよりも可愛いぜ。友達も可愛いらしいよ。二人にも紹介しようか?』と書いてあった。

それに対して鈴木から『いいね』、とクリックされていた。

いいのか鈴木、この四人の中で、唯一お前だけは彼女がいただろう。

呉は真面目だから本気で紹介してくるぞ。

「確かに、以前の子よりも可愛いじゃん。いいね。紹介してもらうのも有りだな」

 冗談半分、呉の紹介の場がちょっと見てみたい気が半分の俺も『いいね』を押した。


 途端、真横から熱気が飛んできて、さらに、カーンと何かが蹴飛ばされる音がした。

その直後、何語か分からない言葉が聞こえた。

なんだなんだと周りを見回したら少し左前にある、焼き鳥屋台の前に置いてあるテーブルの下に、缶が転がっていったのが見える。

そこに座っている子供が驚愕の表情を浮かべ、隣に座っていた親に大声で何か話しかけていた。

誰かが蹴っちゃったんだろう。

そう思っていると、子供が俺の方向を指した。

つられて俺も回れ右して見るが、ちょうど後ろには誰も居なかった。

なんなんだろう。まぁ、俺には関係ないかなと立ち去ろうとしたところ、その子供が道路脇にでて、俺を指して大声で何かを言った。

その親も子供の横まで出てき、俺を指指しているじゃないか。

えっ、さっき缶を蹴っ飛ばしたのって俺ってことか?

周りの歩行者までもが俺に注目してきた。これはヤバい!


「いや、俺じゃない。俺は何も蹴ってないぞ」


 急いでスマホを持っている手ごと、大きく胸の前で交差するように振り、俺じゃないってことをアピールする事にした。

親子はそれでも何か怒り立つような勢いで声を張り上げていたが、何度も日本語で同じセリフを繰り返したところ、近くのテーブルで麺類を食べていたおっさんが立ち上がった。

頭上がはげてカッパっぽい頭に、無精ひげを生やし、首にタオルを掛けた少し太っているおっさんだった。


これ、俺に向かってきたら逃げてやると、覚悟を決めたら、そのおっさん、親子へ話しかけにいった。

三人ともに俺を見ながら、親子は指さしながら、話しているのに、少し離れた俺が一人ぽつんと立っているのがなんだか寂しいが、この状態でその三人に近づくのはまずい気がした。

少しすると、おっさんは俺に対し、オーケーの手サインをだし、立ちさった。

親子もその直後に俺を再度見ると、回れ右してその場所を離れた。

どうやらおっさんは俺を助けてくれたようだ。

 

トラブルにならなくて良かったと胸をなで下ろした。

海外旅行で一番危険なのは、現地の住民を敵に回す行為をしてしまうことだ。

よほど現地に精通した人間でない限り、どんな敵対行為がされるのかが分からなく対処のしようがない、と観光ガイドブックに乗ってた。

なので、あの缶が子供に当たってなくて良かったよ。


 それにしても、なぜ急に缶が飛んでいってしまったのだろうか。いつも歩くときには斜め前の道路をぼーっと見ながら歩くので、今まで何か蹴ったことはない。

あ、ただ、さっきはスマホの画面に集中してたからかも。

そうなると、俺が元凶だというのは間違ないってことか?

それはそれでまずいな。

 俺はマップを見ながら、駆け足でそこを離れた。


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