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俺の妻は幽霊だ  作者: 高峰輝雄
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ナイトマーケット その3

「私には見えるのですよ、あなたがどこかで赤く大事なものを拾ったのが」


「・・・・・・!」

 格が高いからなのか、高年齢で経験豊富だからなのか、俺が今日あの小包みを拾った事を知っているっぽいこの僧侶にびっくりして、俺は声にならない声をあげた。


 正直、寺の僧侶もそうだが、特に世の中の占い師という職業を軽蔑していた。

彼らはペテン師のように思っていた。

人間誰でも持ってそうな過去の傷や悲しみを、まるでその占い師が自分が見てきたかのように客に語る。

そう、具体的な例を出さずに語る。

そして、その客からの信頼度をあげてから、誰にでも起こりうる将来の一部を伝える。

同じく具体例無しでだ。

しかも、条件付きでだ。

「昨年は大変だったでしょう。でもね、今年は良くなるわ。毎年に比べて、今年はかなり良くなると思うわ。私には見える。でもね、同時に暗闇が近くに寄ろうとしているわ。このままだとあなたの輝かしい未来に雲がかかっちゃうことになる。そうならない為には、今すぐこの御守りを買わなければならないの」と、二十万円もする御守りを売ろうとする。

人によっては、その二十万円で安心が買えるのであれば十分じゃんと言うが、俺は逆に金出さないと幸せになれない方がおかしいとしか思えなかった。

 だから、そういう話し方をする人間は嫌いなのだが、この僧侶はズバリ言ってきた。

『拾った』だけだと、百%はないが、一部の人はやると思う。

四十%としよう。

ただし、それに赤いという色を足すと話は別だ。

仮に十六色で計算すると、十六分の一は六点三%となる。

四〇%掛ける六点三%は二点五%だ。

かなりの低確率である。

これを俺から情報を引き出さずにズバリ言ってきた僧侶に驚くばかりだ。


 興味をしめしはじめた俺に対し、手のひらを向け、その僧侶は厳粛そうにこう言った。


「安心しなさい。私達に寄付を施して欲しい訳ではないです」

「え?そうなんですか」

「はい、もちろん、お寺として、寄付は喜ばしいことです」

 再度にこりと笑い、続けた。

「それよりも、あなたのその拾ったものの方に興味がありまして」

「拾ったものですか。なぜ、それが気になるのですか?」

「そうですね。こう説明しましょうか。今、あなたの目の前に、私が立ってます」

 頷く俺に僧侶続けた。


「私の目の前に、あなたが立っている」

 これにも頷いた。

「でも、私にはあなたの他に、もう一人が見えているのです」

「もう一人ですか?」

 思わず周りを見回す。

もう一人というと、そこに立っている若い方の僧侶ってことか?

「いえ、彼ではないですよ。あなたの右の方にいるのです」

 俺の視線が若い僧侶に向いていることに気づいたらしく、その僧侶は改めた。

その視線に沿って、俺は右方向を向くが、そこには壁以外なかった。

「壁にですか?」

「いえ、こう、体が半分ほど重なって。その方はあなたが拾ったものから出てきたがっているが、あなたはその出しかたを知らないように思える。それをお手伝いしようと思ってます」

「はぁ」

 まずい。

怪しくなってきた。

ひょっとして二点五%を当てただけじゃないのか?

やはりこの後に高いお守りを買わされるのではと心配になる。

鎌を掛けて見ることにした。

「ど、どんな人が見えているのですか?」

 

喉を少し震わせて、驚くように言ってみた。

これの返答によっては断れる。


「ふむ、今日の時点では信じていないようですね。それでは、私が何を言っても理解できるとは思えないです。まぁ、現時点、あなたに害を及ぼすようなことはしないとは思いますので、大丈夫ですが。何かあったら、また来てください。その時までお待ちしてますよ」

 僧さんは袈裟の中から名刺を一枚取り出し、俺に渡した。

名刺の表には、慈明(じめい)と書かれていた。

「じめいさんですか?」

「そうですね、日本語読みですと、じめいとなります。まだ台湾にいるのですか?」

「いえ、明日で日本に帰る予定です」

「そうですか。今から海鮮料理を食べに行かれるのですよね」


「えっ!」

 なぜそれを知っている。

驚く俺に、慈明僧は続けた。

「私のおすすめは、海坊主というお店ですね。地下街を入って奥の方にあります。途中小さいお参りの場所がありますが、ぜひとも両手を合わせてやってください。きっといいことがあるでしょう。それでは、ごゆっくりどうぞ」

 そういうと、慈明僧はにっこりを崩さずに手のひらを上にして、俺の方に差し出すと、話は終わりとばかりに振り向き、奥の方に歩いて行った。

残った若い僧さんは俺と慈明僧を何回か見て、そのまま慈明僧について行った。


 一人残された俺は、周りを再度見回すが、確かに何かあるわけでもない。

例の赤いベレー帽の女もいないことだし、廟の外に出ることにした。


 相変わらず門に近づくにつれて、人口密度が増していた。

ふと気になって、先ほどいた副殿の方を見ようと、頭だけ振り向いたが、何もなかった。

 それにしても、何かを拾ったと推測するだけではなく、海鮮料理を食べに行こうとしていることまで推測するのはちょっと他と違うかも。

門付近は明るかったので、再度名刺を出してみてた。

普通のビジネス用名刺と同じように、左上にお寺のマークがあり、その下に大文字で名前があるだけだ。

裏返すと、ここは『天上聖母(てんじょうせいぼ)』という神様を祀っていると書いてあった。

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