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俺の妻は幽霊だ  作者: 高峰輝雄
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エピローグ その1

 台北に戻った俺は、VRに接続して、リンエイを待ったが、出てこなかった。

俺の叫びに対しても誰も返事してくれなかった。


 そのままで寝てしまったらしく、気づいたら、俺は夢で見るいつものバルコニーにいた。

カップルソファの右側に座っているはずのリンエイは姿を見せてくれなかった。

寒々とした寂寞感に侵され、俺は涙ぐんでしまった。


 火曜日の朝。

起きた後、斉藤さんと呉とクライアント訪問し、商談、工場見学を経て、夜の接待が終わったのが、水曜日の朝二時だった。

これからレポートのまとめをし、片付けしないといけない。

その日に台湾を発つのが午後十四時の便であったが、斉藤さんから特別だよと言われ、俺は一人だけ夜十八時の便にしてもらった。

チケットが一枚無駄になり、その分は自費になるが、リンエイを探す時間が増えるためだ。


 徹夜で仕事を終わらせ、水曜日の朝に俺はホテルに荷物を預けると、まずは士林ナイトマーケットに向い、慈明僧を探した。

が、不在であった。

リンエイの遺体が設置されている部屋に通してもらおうとしたが、言葉が通じなかった。

最後に一目でもリンエイの顔を見たくなり、強行突破しようとしたら、警備員につかまり叩き出された。

それを二回繰り返したら、警察を呼ばれた。


 逃げようとしたら、逮捕された。

が、なぜかすぐに釈放された。理由はすぐに分かった。

慈明僧だった。警察署の出口で待ってくれていた。

リンエイについて聞こうとしたら、慈明僧は首を振って何も答えてくれなかった。

情け過ぎて、涙が出てしまった。

 帰りの飛行機内も、俺は悲しみを紛らわせようとビールを二缶買い、水のように飲みきり、酔いながら寝るが、夢をみることなく、日本についてしまった。

 日本に戻ってきて、秋葉原から買ったパソコンセットを持った帰り、VRを設置しても、本来の目的である、VR18禁彼女をプレイする気になれなかった。

どこかのタイミングでふと、赤いベレー帽が見えないかとずっと、VRの中でぼーっと待っていた。


 それから十日経った土曜日の夜だった。

ようやく、俺の中で悲しみが一段落し、佐野と鈴木に誘われて飲みにでも行こうかという時だった。

 チャイムが鳴ったので、TVモニターの画面をオンにして出ると、管理人だった。

ロビーでなにやらわめいている台湾人たちがいて、俺の名前を出したので、対応してほしいという依頼だった。

しょうがないと、ジャケットを羽織ってロビーまで降りると、そこにいたのは、海坊主のおやじだった。


 士林ナイトマーケットで海鮮料理店を出しているおやじが何をしにここへ?

 そう疑問を持ちながら俺が近づくと、そのおやじは話、といっても一方通行だろうが、をしている管理人をほっといて、俺に向かってきた。

その後ろに一群の人がいた。

老人から若者まで、あ、あの赤いベレー帽はシエイだな。

「こんばん……」

 俺の挨拶を無視して、おやじは俺の太ももはあるような太い両腕で俺を抱きしめた。何かを叫んでいるように聞こえるが、それが中国語で、俺には何も理解できなかった。

が、分かるのは、おやじの力が強すぎて、俺が呼吸できなくなっていることだ。

腕をポンポンと叩いて、ギブアップとカタカナで伝えると、力を緩めてくれた。

 急いで深呼吸をして、おやじに文句を言う。

どうせわからないだろうと思ったが、俺が目じりを険しくしているせいか、おやじは「ドゥイブチー」と両手を拝むように謝ってきた。

まぁ、悪気はないと思うので、手をひらひらさせてもういいよとジェスチャーした。

でも、おやじがしゃべている中国語を分かるすべはないので、スマホを取り出して、呉に電話しようとした。

 それをおやじは取り上げると、後ろのシエイに渡した。

いや、通訳を頼みたいから呉に掛けているんだが……。

その俺の文句を無視して、おやじは後ろで待っている人を紹介し始めた。

紹介されるごとに俺の両手を握る紹介された人。

おじいちゃん、おばあちゃん、あああ、おばあちゃんは泣き崩れてしまったよ。

おいおい、それは困るよ。

管理人がかかわりになりたくないためか、いつの間にいなくなっていた。

思わずおやじを見ると、そのおやじも目に涙をためているようで、ぬぐっていた…。

ますます意味が分からない。

 スマホを取り返そうとしたが、それを持っているシエイの順番が最後なのか、おやじは中年男性、中年女性とどんどん紹介する人の年齢が低くなる。

最後は帽子を取ったシエイだった。

満面の笑顔で俺の片手を掴むとぶんぶんと音がするほど上下に振った。

何かいいことが有ったらしい。

ふと、俺も苦笑いがでる。

 シエイがおやじの後ろに回るのを見て、そういえば、スマホを返してもらってないと、俺が手を差し出した。

が、その手を掴んだのは、赤いベレー帽を被ったシエイだった。

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