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俺の妻は幽霊だ  作者: 高峰輝雄
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陽明山 その3

窓から李警官達に手を振り、俺達四人を乗せたパトカーは警察署を出発した。

目指すは台北内のホテル。そこまで約三十分ということだった。

てっきり白黒に塗られたパトカーかとおもったら、流石にそれは座り心地が悪いとのことで、普通に黒色のミニバン型の覆面パトカーだった。

ただ、天井にはパトカーの印であるサイレンが鳴るライトが取り付けられているので、周りにはパトカーであることが分るようだ。


 パトカー内では呉が助手席に座り、二列目に佐野、鈴木、俺という順に座った。

本当は俺が真ん中の方が、ドライバーの警官が話しかけるのに便利だったのだが、ミラーで後ろを見るのに、百七十五センチの俺じゃなく、百五十五センチの鈴木の方が良いらしく、この席順になった。


 途中の交差点のことだった。開けっ放しになっている窓からぼーっと外を眺めていた俺は、ふと陽明山方向の交差点で信号待ちをしている子と視線が合った。

向こうは信号待ち、こっちが動いている覆面パトカーだったので、一瞬しか目が合っていなかったが、なぜか、俺はその子の顔をはっきりと覚えた。


 流行りのアイドル歌手のような卵形の顔は真っ白であり、薄い赤い唇と相まって、よくホラー映画で出てくる様な幽霊に似ていた。

折角、赤いベレー帽とそこから鎖骨まで伸びている茶色の髪が可愛い顔を強調しているのに、もったいなく、思わず言葉が出た。


「もったいないな、あれ」

「え?何がもったいないの?」

 俺の独り言を拾ったのは横に座り、カメラをいじっていた鈴木だった。


「いやな、さっき交差点を通った時に目が合った女がいたんだけど、せっかくの可愛い顔が台無しになるほど顔色が白かったんだよな」

「へぇ、それで、もったいないのって言ったのか。ちょっと見てみたいかもね。どこ?」

 そう鈴木は言うと、俺の方を向いていた体をさらに後ろに向き、その女を探すように目を細めた。


「いや、すでに通っちゃったよ」

 苦笑しながら俺がそう指摘すると、そうかと、鈴木は元の姿勢に戻った。

「それで、どんなに可愛かったの?よほど印象に残ったんだ」

「そうなんだよな。素晴らしくいいフェイスラインでね、両目、鼻と口がバランスよくパーツとして配置していてね、それを両耳を隠している髪が強調してるんだ。頭には薄い赤のベレー帽を被っていてね」

「ちょ、ナベ、あの一瞬でよくそこまで見てたね。目が悪いんじゃなかったっけ?」


 そう突っ込まれて、俺も考え直した。

確かに俺は目が悪く、コンタクトを入れている。

この時速三十キロだから四十キロで運転されている車の中から、あの女と真っ正面から視線を交わすほど動体視力は良くは無いのだが・・・・・・。

何だか不思議だった。


「それ、例の小包の子だったりして」

 そう笑いながら会話に参戦してきたのは、一番端っこの佐野だった。

「おいおい、怖いこと言うなよ。呉さんが今晩寝れなくなるじゃん」

 そう両肩を抱きしめる仕草を鈴木がした。

「あはは、悪い悪い」


 その言葉を聞いて、助手席から後ろを向いて嫌な顔をした呉の肩をたたき、佐野は口を開けて笑った。

先ほどまで、佐野は呉の通訳を通して、ドライバーの警察官と談笑していた。

三一一の東日本大震災への募金のお礼を佐野が言ったらしく、それに対し、警察官はそれ以前に発生した台湾の地震へのお礼をし、お互いに大変だねと、何故か苦労話に花を咲かしていた。


 それを聞き流しながら、俺はさっきみた女のことが気になった。

 あんまり女に興味がなかった俺にしては、今でも、すぐに思い浮かべられるほど明瞭に顔を覚えていた。

どうしてだろうか。

そもそも、俺は女を目で追うことが珍しいのだ。

女は化粧で化ける。

女性雑誌を読めば分かるが、化粧する前のビフォーとアフターがすごすぎている。

そのせいか、化粧前の本当の顔を見るまでは、女の顔で何かを判断するのは危険と考えている。

が、この女は視線で追ってしまっていた。

しかも、その女も顔を動かさずに、目だけで俺を追っていた。

視線が合っている時間自体は一秒もないとは思うのだが、感覚的にすごく長く感じていた。

何故だ?


 その俺の思考を前に座っていた呉が破った。

「そういえば、ナベって、本当にごちそうになるけどいいの?」

 俺は前を向き、頷いた。

今日拾った百万元のうち、二万元を使って贅沢に台湾料理を食べよう!ということにした。

本当はもっと使ってもいいのだが、三人ともに、俺とはいい友達でいたいからと、断られた。

まぁ、こんなもので、俺たちの友情は壊れることはないけど、彼らがいいやつらというのが分かったのかも。

その台湾料理店の選択を呉と佐野に丸投げしたのだが、どうやら、先ほど警官との雑談でいいところがあると聞いたらしい。


「もちろん。でも、どこに行くか決めたの?」

「面白いところがあるんだ。もうちょっとでホテルに着くから、その後、一度着替えて、ロビーに集合しようよ。そうしたら、ナベから皆に軍資金を配って、その後に突入しよう」

 そう自慢げに佐野は言った。

「一人当たり五千元か、結構あるね。で、突入ってどこに?」

 計算して鈴木はそう聞いた。

「いや、二千五百元で十分だよ。場所はナイトマーケット」

「え?ナイトマーケットは逆に安上がりじゃないの?」

「そう、安上がりだからこそ面白いじゃん」

「おおお、何か考えているんだね」


 それに俺が乗った。

正直、台湾でキャバクラに行くならそれでもよかったのだ。

実は台湾旅行前に風俗を調べたところ、スナックが一人あたり三千元、キャバクラが五千元という情報を入手していた。

貯金が少ない俺に遠慮して、残りの三人が行きたいのに行けないというのも精神的に嫌だった。

だから、一人当たりキャバクラでも行ける価格で設定して見た。

が、まさかのナイトマーケットだったとは。

あそこでどうやったら二千五百元使えるのかが逆に聞きたいぐらいだ。


「もちろんだよ。いい。一人当たり二千五百元でしょ。それを今日のナイトマーケットで使い切ること。ただし、飲み物、食べ物しか使えないよ。ものを買っちゃだめだよ」


 なるほど、いろんなものを食べながら、台湾でお金を使い切っちゃおう(でも、一万元だけど)というゲーム式にしたんだ。


これはこれで楽しみだ。

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