③
人は死んだときどこへ行くのだろう。昔の人は悟りを開けば極楽浄土にいけるやら、輪廻転生するやらいってるけど俺はどれも信じていない。死という未知の恐怖を少しでも軽減するために言った虚言でしかない。だから、俺の答えはどこにも行かない。死んだら何もない、それだけだと考えた。それなりの人生を歩めると思っていた。普通に大学に行って、会社に入り、結婚して子供を育てて最後は子供に看取ってもらう。そんなありきたりで普通の人生。異世界やなんやら言われたときは小説みたいにできると思った。期待で胸が膨らんだ。でも、現実は脆く、あっけない。死んだら終わり。そんな簡単なことを無視して妄想を膨らませるから現実が見えない。平凡、平和というのがどれだけありがたいことか、ようやくわかった気がする。俺はいつもそうなのだ。失ってから気づく。信じていないがもし、もしももう一度生を与えられるのなら全力で生きよう。
重い瞼を開けるとそこにはさっき俺を殺した男が困ったような、怖がっているような表情で立っていた。俺は生きていたのか?そんなことは今どうでもいい。ここを脱出することまたは目の前の男を倒す方法を考えろ。
「お前、ほんとに人間か?」
「どういうことだ?」
「俺は確実に首の骨を折ったが元通りに戻っている。こんな人間がいてたまるかよ。」
ナイフの位置は右手の近くにあった。さっきみたいに振り回すのではなく、ナイフを刺して動きを止めないと脱出はできないか、いや一瞬隙さえあれば扉の場所に走ればギリギリ逃げれるか?この男と戦うことは最善ではない気がする。
「お前は首を折っても死なない人間をどうやって殺すんだ?」
「いろいろやってみるだけさ」
男が話し終えると同時に片手でナイフを持ち、胴体あたりに向けて投げた。しかし、躱される。
「さっきよりは落ち着いてるな。だが、その程度でうまくいくと思ったか?」
俺はナイフを投げた瞬間扉があったところへ走り出した。
「チッ、俺もなめてかかりすぎてたか。」
男は俺を追いかけるが、扉の所までは追いつきそうにない。外に出たら、身を隠して作戦を練ろう。扉の前に着き、扉を押す…が開かない。なんでだ!?さっきは開いただろうが!
「残念だったみたいだな。次は俺の番だな。」
男はそのまま俺の首を絞めた。俺ももがくが首の締まりは強くなる一方だ。またか、また俺は何もできずに死んでしまうのか。視界の外側から内側に向けて白くなっていく。酸素が足りてないのか?あきらめて…たまる…か…。本日二回目の死だった。
気が付くと少し離れたところに男が立っていた。
「よお、窒息死でも死なないのな。」
「そうみたいだな。」
足元を見ると失禁や脱糞したあとが見られた。首吊り自殺した人間は死ぬと糞尿を垂れ流すと聞いたことがあるからおそらく俺は死んだのだろう。どういう仕組みかはわからないがおそらく手術によって死なない体になったみたいだ。だからといって次があるかなんてわからない。ここからは出られない。つまりは、この男を倒す以外に俺が生きる道はないようだ。あがき続けようこの命が続く限り。ナイフは男が持っていた。そりゃそうだよな、次は惨殺か。
「俺が死んでる間は何をしていたんだ。」
「お前がどうやって生き返るのかを観察していた。」
「それでどうだったんだ。」
「窒息死ってのが悪かったな。いつのまにか息をしてた。」
俺は素早くかがむと自分の糞を持って男に投げつけ、男に向かってタックルをしようとした。
「二回も同じ手が通じるかよ。」
男は素早くかわし、タックルしようとする俺の腹にナイフを刺した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
刺したナイフを抜こうとする手を握り、噛みついた。
「痛てえな、クソ!」
ナイフが刺さっている腹の近くを殴られ、掴んだ手を放してしまう。
刺された腹のあたりが熱い。まだだ!まだやれることがあるはずだ。力の入らない体で男を殴ろうとする。しかし、避けられてしまう。
「さあ、これで死んでくれ。」
男は俺の心臓にナイフを刺した。
どうやったら、殺されずに済むんだ。教えてくれよ。俺は神様に祈るかのように目を閉じた。




