親友
久しぶりに一が悠希の部屋へ来た。
今日も『楽しい巨大ロボ講座』が始まる。
「どうして巨大ロボは地球では作れないんだ?」悠希が一に聞いた。
「鉄で出来た足がロボットの体を支えきれないからじゃないか?」一は答えた。
「はい0点。人間失格ね。「鉄」どうこうっていうのが素人丸出し。「生まれてすいません」レベルだな。耐久性は無視して、『アルミで巨大ロボを作る』って話もあるし、重さを考えるなら強化プラスチックやジュラルミンの装甲だって考えられる。そもそも巨大ロボを鉄で作ってるアニメって実はあんまりないんだ。アニメではだいたい『新しい合金鉄が開発されて巨大ロボを作った』って理屈なんだよ。でも実際には新しい合金鉄が開発されてもアルミで作っても、巨大ロボは作れないって言われてるんだぜ?」悠希は答えた。
「どうしてだよ?」一は聞いた。
「あらゆる意味で巨大ロボは作れないんだが・・・仮に軽い合金鉄が開発されて巨大ロボが作られて人が乗ったとする。乗ってる人間は巨大ロボが歩いただけでゲロゲロ吐いて、巨大ロボがバランス崩して転んだだけで潰れて死ぬね。転んだだけで自動車の衝突事故の何倍もの衝撃なんだから」悠希は当たり前のように言った。
「その問題をクリアしたとして、他に巨大ロボが作れない理由は?」と一は聞いた。
「バランスを崩して巨大ロボが倒れたとする。幸運が重なってパイロットが生きてたとする。もう二度とその巨大ロボが立ち上がる事はないね。人間より小さいサイズの軽い素材で出来たロボットをようやく倒れた状態から立ち上がらせる技術が開発された。金属で出来た巨大ロボを立ち上がらせる技術はあと100年は産まれないんじゃないかな?それに倒れるときに一本の棒のように倒れるんじゃなく、ちゃんと受け身をして衝撃を抑えるように倒れる技術もあと100年は開発されないんじゃないかな?」悠希は答えた。
「その問題が解決されたとしたら?巨大ロボは作れるの?」一は聞いた。
「無理だろうね。最低でも車くらい操縦が簡略化されないと人間は乗れない。今の技術じゃ『右に行け』『左に行け』じゃなくて『右足を上げろ』『右手を動かせ』ってレベルだな。巨大ロボを動かすには人工知能が未発達すぎる。『車の衝突安全ブレーキ』とか、ようやく実用化されたレベルなら、あと200年は巨大ロボは作れないんじゃないかな?」悠希は答えた。
「人間の神経にコードを繋いで自在に体を動かすように巨大ロボを動かせないの?」一は聞いた。
「だからそれをどうやって実現するんだよ?とはいえ、そういうアニメは多いね。人間の思った通りロボットを動かす『シンクロ率40%』とか言ってね。でもそれってロボット分野の話じゃなくてサイバーパンクの話だからね。サイバーパンクって残酷なんだぜ?体中にピアスしたり、頬っぺたにデカい穴開けたりするパンクを更に残酷にした感じ。サイバーパンクに影響を受けた往年のシューティングゲーム『R-○イプ』なんて操作性を上げるために手足切り落として、神経に機体を繋ぐって設定だからね。だからブレー○ランナーを見て面白いと思っても『サイバーパンクが好きだ』なんて言っちゃダメだよ、サイコ野郎だと思われるからね」悠希は脱線しすぎて何を言おうとしたか忘れてしまったようで、頭をひねっている。
「じゃあ巨大ロボって作れないのかよ?そんな夢のない話、悠希から聞きたくなかったな・・・」一は悔しそうに下唇を噛んだ。いや感情移入しすぎだろ、本来どうでも良い話じゃねーか。
「地球ではな。異世界なら、ここでなら巨大ロボ作れるぜ?」悠希はニヤッと笑って言った。
「何で地球で作れない巨大ロボが、機械工学もロボット工学も発展してないどころか存在しない異世界で作れるんだよ?」一は聞いた。
「ヒントはゴーレムだったんだ。今言った問題を考えるとして、ゴーレムに乗っている人間は魔法で揺れを感じないし、ゴーレムが転んでも怪我をしない。ゴーレムは転んでも自分で立ち上がるし、受け身も自動で取る。漠然とした『歩け』という指示でも、全身を使って歩く。ついでにゴーレムは鉄より重くて脆い大理石みたいな素材でだって二足歩行を可能にしている。」悠希はコ○ン君か?というくらいのドヤ顔で解明を始めた。
「ちょっと待ってくれ!今してたのは巨大ロボの話だよな?ゴーレムの話じゃないよな?」一は焦って尋ねた。
「僕には理解出来ない。何で地球から来た人間が地元の人と一緒に魔王討伐をするのか?お前達くらいの天才だったら、魔王城ごと吹き飛ばす爆弾作れるだろ?ゴーレムが人の形なんて言うのはこっちの世界の常識だろ?なんで余所から来た僕らがこの世界の常識に合せなきゃダメなんだよ?」悠希はわからない、と両手を広げた。
「それってどういう意味だよ?」一は問い返した。
「簡単な話だよ。ゴーレムを部品にして巨大ロボを作れば良いじゃない」悠希はドヤ顔で言った。
「そんな事が出来るのかよ?」と一。
「ここに来る前に部品を作ってるヤツ見たよな?」と悠希。
「あの工業用のロボットアームがどうしたんだよ?」と一。
「アレがゴーレムだ」と悠希。
「はぁ!?」一は驚いて大声をあげた。
「言っただろう。余所から来た僕らがこの世界の常識に囚われてどうするんだよ?体のパーツをゴーレムにしたら巨大ロボが作れるよね、って簡単な話」何度も言わせやがって、というように肩をすくめながら悠希は言った。
「いや、簡単すぎるだろ・・・体がバラバラに動いたりしないの?」一は尋ねた。
「ビリーミリガンって知ってるか?多重人格で有名な。全てを統合する『教師』って人格が存在するんだ。別の多重人格者なら『コンダクター』って言ったりするね。全てのゴーレムを統合して、指示を与えるゴーレムがいたらどうだ?そのゴーレムに指示を与えるだけで、思った通りに全体が動いてくれると思わないか?」悠希は説明した。
「全身のゴーレムを神経、統合しているゴーレムをブレインとして考える訳か!お前のその頭の回転の速さを何でロボット以外の事に活かさないんだよ!お前の事、頭が良いヤツって知ってるの、俺と由美だけだぞ!」一はもどかしそうに天を仰いだ。
「お前ら以外に何と思われても、別になんとも思わん。」悠希は憮然と答えたが、それを聞いた一は少し嬉しそうだった。