ゴーレム
王のゴーレムの魔力量が少ない訳ではない。
その20倍の魔力量が込められたゴーレムなのだ。動きは緻密で素早かった。
そのゴーレムに悠希はひたすらシリコンチップを作らせ続けた。
一方で一と由美は魔王を倒す訓練を始めていた。
由美は薙刀の嗜みがあったが、魔法の才能を開花させたらしい。
作ったシリコンチップに魔力を込めなくては作った意味がない。
なぜかは知らないが魔術師の爺さんは協力してくれないらしい。しょうがないから由美に頼む事にした。
由美のベッドの上に置手紙をする事にした。訓練、訓練で最近由美に会えないからな、手紙で要件を伝えるのはしょうがない。
「大切な用事がありますので、今夜食堂まで来てください。悠希」
夜、食堂で悠希が待っていると由美が現れた。
「で、何で異世界に呼び出された時に着てた制服姿なんだ?」悠希が由美に尋ねた。
「だっ、だっ、だって悠希っていつも制服しか着てないじゃない?こういうのって二人とも制服のほうが、思い出に残るかな?って思って。」由美はモジモジしながら赤面してモゴモゴ答えた。
「心配するな。校舎裏とかトイレに呼び出してボコろうとか、カツアゲしようとか、そんな風に思ってないから。つーか何でそんな負のイベントで気分作ってるんだよ?」悠希はあきれたように由美に聞いた。
「何で呼び出す場所が校舎裏とトイレに限られてるのよ!?屋上とか体育館の裏とか視聴覚室とか・・・もっとロマンティックな呼び出しを普通は連想するでしょ?まぁいいわ、何か用事があるから私を呼び出したんでしょう?」由美のセリフと態度はいつも通りだったが、なぜか目は期待で輝いている。
「そうだった。俺に『それでも男ですか!軟弱者!』って言ってよ」悠希はいつものセリフリクエストを由美にした。
「なんで毎度の事ながらアンタを罵倒しなきゃならないのよ!?アンタやっぱりマゾなの!?」尋ねた由美に悠希は気付いた。
「そう言えば女性の名言には罵声が多いかも。ロボットヲタクって潜在的にマゾなのかな・・・。いや、罵声以外にも言って欲しい名言はあるぞ!歌う前にムチをピシリとふりながら「私の歌をきけ!」って由美に言って欲しいんだ」悠希は由美の目をみながらリクエストした。
「やっぱりマゾなんじゃない!何で私がムチをふらなきゃいけないのよ!?そんな事で呼び出したなら来なければ良かった!」帰ろうとした由美の恰好は確かにいつもと違っていた。制服に着替えただけではなく、風呂に入り身綺麗にし、化粧を完璧にし、髪のセッティングはいつも以上だった。というか頭の天辺から爪の先までお洒落してあらわれた由美を見て悠希は「お前そんなお洒落の時間あるなんてヒマだな。王さまに謁見する時の何倍もお洒落じゃねーか」と思ったのだ。でもそれを言うほど悠希はデリカシーのない男ではない。「由美も女だ。たまにはお洒落だってしたい」それがたまたま今日だったのだ、そんな日に悠希は由美を呼び出してしまったのだ。申し訳なさがこみ上げてくる。「これ以上由美のプライベートの時間を邪魔してはいけない。だいたい由美のこのお洒落を見て良い男は一であって僕ではない。さっさと用事を済ませよう」そう思った悠希は部屋から出て行こうとした由美の手を掴み言った。
「待ってくれ。僕には由美が必要なんだ。僕が話をして、冗談を言って、頼み事を出来る女の子なんて由美一人なんだ。だから・・・」
「だから?」由美の目がうっとりと輝いている。
「だからシリコンチップに魔力を込めてくれ」悠希は由美の両手を握りしめてそう言った。
「え、、、、、、」両手を握りられた由美は目を閉じ、こちらに身を任せていた。まるでキスをする前の二人みたいじゃないか、まぎらわしい!一が見たら勘違いして大変だったぞ?そして短い言葉を発した由美はまるで動かなくなった。しばらくして動きはじめた由美は
「私帰るね。勘違いしてバカみたい。恥ずかしい・・・」
と言った。早くも大きくもないその言葉には引き止められない「何か」があった。
去り際に由美は悠希に
「私以外に話す女の子も頼る女の子もいないって本当?」と聞いた。
「お、おう」悠希は訳がわからずとりあえず頷いた。
「そう・・・じゃあ部屋にシリコンチップ置いといて。魔力込めとくから」と言うと由美は自分の部屋へ帰っていった。
これが『鋼鉄の騎士計画』の前段階である『ゴーレム量産化計画』の前夜の話である。