謁見
気付くと異世界の王座の間にいた。隣には一と由美がいる。
良かった、三人一緒の異世界召喚みたいだ、僕たちズッ友だよ!
王座の間の巨大な扉をゴーレムが閉める。
王と異世界の勇者との謁見が始まるようだ。
王が口を開く。「よく来た、異世界の勇者よ!私がウェッジ皇国の皇帝ウェッジ17世だ。まずはお主らが何者なのか尋ねたい」
僕は小声で「もうすぐ市民革命が起きそうだな」といって由美にひじ打ちされた。
「何者かと聞かれても・・・僕たち三人は、ズッ友です」僕は王に返事した。
「ズットモ?何なんだそれは?」王は首をかしげていた。
一は強めに「悠希はちょっと黙ってて」と言い王に対し礼をした。
一に怒られちゃった・・・。でも拉致してきた人間を、その国のために働かせるのなんて北朝鮮と一緒の事やってるだけだし、何で拉致犯への礼儀とか考えなきゃダメなんだよ?ブツブツと文句を言う悠希をよそに一は話しはじめた。
「私は加藤一、彼女は川口由美、そして彼が戸田悠希、召喚に応じ参上しました。まずはこの世界の状況を我々に聞かせていただけませんか?」王は一の態度を気に入ったようだ、満足そうに話しはじめた。
「我々皇国は今、魔族と戦争状態にある。お主ら勇者に魔王を倒して、皇国に平和をもたらしてもらいたい」
王は僕たちに細かく優しく説明した・・・が、悠希は全く聞かず明後日の方向を向きながら、全く関係ない質問をした。
「なあこのゴーレムって何で出来てるんだ?」
王は一と由美を相手に話をする事にしたらしい。悠希の相手を指示されたのは宰相をやっている魔術師の老人である。
「このゴーレムは大理石じゃな。ゴーレムは木、石、鉄・・・とりあえず何で作る事も可能なんじゃ。ゴーレムを作る時重要なのは素材ではなく、核じゃ。核の素材は石じゃ。しかし複雑な動きをさせようとした時は石にたくさんの魔力を込めなくてはいけないんじゃ。ただの石に沢山の魔力を込めようとしても破裂してしまう。そこで登場するのが「魔石」じゃ。魔石は高価じゃが、たくさんの魔力が込められる。」魔術師は「何でワシが」という顔をしているが、王の命令なのでしょうがなく悠希の質問に答えているようだ。
「ふーん、このゴーレムに人間を乗せる事は可能か?」悠希はさらに質問した。
「可能も何も・・・このゴーレムは王の持ち物じゃぞ?式典の時は頭の上にお乗りになるわい」魔術師の老人は答えた。
「このゴーレム転んだり、揺れたりしないの?乗ってる人が酔ったりケガしたりしないの?」悠希は最初のやる気が無さそうな態度がウソのように前のめりで質問した。
「ゴーレムは転ぶぞい。戦争に使われるゴーレムは縄で転ばせるんじゃ。でもゴーレムに乗っている人はケガしないし酔わないんじゃ。衝撃は魔力で吸収されているからの。ちなみにゴーレムは受け身を取るのも起き上がるのも覚えさせれば自分でやるぞ」魔術師は前のめりの悠希に引き気味になりながら答えた。
悠希は自分のスマートフォンを床に叩きつけると思い切り踏みつけて割ると、中からコンピューターのシリコンチップを取り出し
「これに魔力を込めてゴーレムを作ってくれ、魔力は王のゴーレムの20倍で良い」と言った。
これに驚いたのは一と由美だ。悠希はいつもスマホとノートPCを携帯しており、命の次に大事だと思っていた。
魔術師は20年以上ゴーレムを作っていなかった。
ゴーレムは自分で自分を作るので魔石に魔力を込める工程以外は大した手間ではない。
そのかわり、魔石に魔力を込める作業は大変な上、魔石の扱いはとてもデリケートだった。
20年前に王のゴーレムを作ったのがゴーレム作りの最後であった。
魔術師は「少し魔力を込めたら石は割れるだろう。ゴーレムなんて作らなくて良いだろう」と考えていた。
「では魔力を込めるぞい」
魔術師は机の上にシリコンチップを置き、手を翳し魔力を込めた。
焦ったのは魔術師だ。すぐに壊れると思っていたシリコンチップがどんどん魔力を吸収していくのだ。
それを楽しそうに悠希は見ていた。
「少し意外だな。お前がゴーレムにこんなに興味を示すなんて。お前は巨大ロボットにしか興味がないかと思ってたよ」一は悠希に言った。
悠希は笑いながら答えた。「何言ってるんだ?この世界のトンデモ科学と魔術なら地球上で不可能って言われた二足歩行の巨大ロボットが作れるんだぜ?」