異世界召喚
救世科に通い始めて数か月、周りの連中がどんな連中かわかってきた。
こいつら、才能の塊だ。
僕以外の全員がオリンピックを目指せたし、どいつもコイツも天才だった。
入学して一週間もするとチラホラ休む生徒がいた。
「まだ一週間しか経ってないのに…コイツら登校拒否か?」僕の呟きに隣の男子生徒が返事した。
「彼らは異世界に召喚されてるんだよ」
誰だ?このナイスガイは。
「挨拶がまだだったね、俺は加藤一。よろしく、悠希君」
なぜイケメンナイスガイは人をファーストネームで呼ぶんだろう?
とりあえず僕は「オッス」と言いながら会釈した。
それからコイツは僕に話しかけてくるようになった。
一は居合道の達人の息子らしい。文武両道で子供の頃から剣術を学んでいて、そのうえイケメンときたもんだ。そりゃ異世界に行ったって女の子にキャーキャー言われるだろうよ。僕だって女の子にキャーキャー言われるぜ?別の意味でだけどな。
一は僕が語るロボット講座を真面目に聞いていた。
「巨大ロボと言えば?」
「えーっと、グレ〇ダイザー?」
「お前、リアリティのないヤツだな。いいか?グレ〇ダイザーは30メートルもあるんだぞ?そんなモン作れるワケがないじゃないか。アニメじゃあるまいし。現実を見ろ!」
「リアリティって…。グレ〇ダイザーってアニメじゃないの?現実の話なの?」
「屁理屈を言うな!だからお前はいつまでたっても巨大ロボが作れないんだ!」
「そもそも作ろうとしてないし…」
悠希と一がいつもと同じようにじゃれ合っていると、そこに女の子があらわれこう言った。
「本当に仲が良いわね、あなたたち」
「とりあえず『あなた達は御主人に尻尾を振る犬ではなく、犬に振られる尻尾なのよ』って僕らに言ってよ由美」僕が好きなロボットアニメの名言を毎回言わせようとしているのが川口由美、一の幼馴染みで、才色兼備、文武両道の女子だ。そんな事はどうでも良いが小さな頃からピアノやヴァイオリンの英才教育を受けていた由美は音楽の才能が群を抜いており歌が上手い。おそらく異世界で『銀河の歌姫』って呼ばれて歌で世界を救うんだと思う。そして多分一に惚れてる。だって普通に考えたらどうとも思ってない男連中に毎日声かける女の子いないだろ。
わかってるさ、僕が邪魔な事くらい。でも二人きりじゃ話出来ないみたいだし、僕に話しかけるフリをしながら一に話しかけてるんだろ?せいぜい僕を利用すれば良いじゃない。ついでにロボットアニメの名セリフを言えば良いじゃない。
「何で悠希は私に罵倒されたいのよ?マゾなの?」由美は聞いてきたが、ロマンがわからないようなので話すだけムダだ。女の子の知り合いが出来たら言わせたいセリフなんて誰だってあるもんだよね?
「そろそろ私たちも異世界に呼ばれると思うけど。もう半分くらいのクラスメイトは異世界に呼ばれてるみたいだし。4,5人一緒に呼ばれる事も多いみたいだから一緒に異世界に行けるといいね!」
まあ邪魔者かも知れないけど、僕には一しか友達がいないんだ。由美と一が一緒に異世界に呼ばれた時、僕一人だけクラスに残さず連れて行ってくれよ。他のグループと一緒に異世界に行ったら、昼は忙しく活動してたとしたって、夜になったらみんなが談笑してるところ、僕一人で部屋の片隅で三角座りしてるんだ。そうに決まってる。
由美に「何でそんな捨てられて雨に濡れてる子犬みたいな目をしてるのよ!」なんて言われていた時、視界が歪みはじめた。これが噂に聞く異世界召喚か。
三人一緒なら良いなあ・・・