激突
アウムが高く跳躍した。ケニチは舌打ちをして、アウムの跳躍先を見きわめた。
「左翼、そっちに行くぞ! 気をつけろ!」
地響きをたてて着地したアウムは、左翼の連中に向けてチェーンソードをふり回した。
悲鳴が上がる。
くそったれめ。
「コースケ、左翼を援護するぞ! シオンの射線をふさがないように気をつけろ!」
ケニチは飛びだした。左翼では、二人が小銃でチェーンソードを受け止めていたが、もう一人の姿は見えなかった。
やられてしまったのかもしれない。
「こぉのっ!」
ケニチは間近からアウムの脚に銃弾を撃ちこんだ。シオンの狙撃がアウムの頭部に命中したが、へこんだだけだった。
それでも、アウムの注意を引きつけることはできた。
コースケが走って、ミヤマの兵隊たちを助け起こす。三人目は腕にケガをしているようだが、足どりはしっかりしていた。
アウムのチェーンソードが、ケニチにふり下ろされる。かわして、アームの関節部分にありったけの銃弾を撃ちこんだ。が、効いているようには思えない。
と、そこにもう一度、シオンの狙撃がアウムの頭部に命中した。
先ほどとまったく同じ場所が、今度は大きく陥没していた。シオンらしい実に正確な射撃だった。
アウムの動きに支障があるようには見えないが、効果は出ている。同じ場所にもう一回当てられれば、頭部のカメラを無効化できるかもしれない。アウムの目をつぶすことができれば、戦いはかなり有利になる。
そのためにも、もうすこしアウムを引きつけていられれば――とケニチが思った矢先に、アウムはまた跳躍した。
今度は、シオンを狙っている。シオンの狙撃が脅威だと判断して、標的を変えたのだ。
「シオン、逃げろ!」
ケニチはさけんだ。
アウムはシオンが伏せていたあたりに着地して、チェーンソードをふり下ろす。シオンが飛びのくのが見えた。右翼からトモとソータが駆け寄ってきていたが、二人がどれだけ銃撃しても、アウムは標的をシオンから変えようとはしなかった。地面を転がって岩場に逃げようとするシオンの背後から、チェーンソードをふり上げたアウムが迫っていた。
だめだ、間にあわない。
ケニチは走りながらさけんだ。
「シオン!」
「ちくしょう!」
ジュンはソーラーカーのハンドルをたたき、停車させた。背後では銃声が響いている。警備隊の連中は、見ず知らずのジュンたちのために命がけで戦っているのだ。それを置いて逃げていいわけがない。
「わかるよ、ジュン。戻ろう」
そう言ったのは、エリナだった。ほかの三人もうなずく。
ジュンは仲間たちの表情に強い決意を見てとり、ソーラーカーをUターンさせた。
戦闘の現場に戻ると、髪の長い女狙撃手が武器を失って逃げており、その背後でアウムがチェーンソードをふり上げていた。
「つかまれ!」
ジュンは仲間に言うと、ソーラーカーのアクセルを踏みこむ。猛スピードを出したまま、ソーラーカーはアウムに激突した。
シオンは、顔を上げた。
もうだめだと思ったが、ソーラーカーが戻ってきてアウムに衝突していた。アウムは横からの強い衝撃にひしゃげて、動きを止めている。むろんソーラーカーも無事ではなく、前部が完全につぶれてしまっていた。
シオンは起き上がると、ソーラーカーに駆け寄る。
壊れた窓をはずして、乗っていた者たちを引きずり出した。後部席にいた四人は全員意識があり、大丈夫なようだ。
問題は運転席で、つぶれた車両の隙間から男の顔が見えた。頭から血を流して、意識を失っている。
アウムの残骸をかきわけて運転席に近づき、男の首筋に手をあてる。しっかりとした脈拍が感じられた。今すぐに命の危険がある状況ではなさそうである。ゆっくりアウムとソーラーカーの残骸をどかせば、きっと助けられるはず――。
不意に物音がして、シオンはふり返った。
停止していたはずのアウムが上体を起こそうとしている。チェーンソードが何度か引っかかった後で、動きはじめた。あらためて間近で見ると、高速回転する無数の鋸刃は、ひどく禍々しいものだった。