昔話
「わかったら準備をしろ。五分後に出発だ」
ケニチの言葉をゴーは苦々しい思いで聞いた。むろん、その感情を表に出さないだけのしたたかさは持っている。しかし、アサオの部隊長だったヒサシといいケニチといい、どいつもこいつも命令するのが当たり前だと思っているようだ。偉そうな態度が、ゴーにとっては不愉快この上なかった。
もっとも、今はおとなしくしているのが得策なのはわかっている。
流民たちがジーメックの大洞窟と呼ぶアウムの自動工場の探索は、チャンスだった。流民たちの言葉からうかがい知ることのできる規模の大きさといい、保存状態といい、工場が宝の山であることは間違いない。腕のいいエンジニアか、古いインターフェースを持つロボットならば、工場の制御システムにつないで書き換えることができるはずだ。うまくやれば、意のままに操れるアウムを量産することも夢ではない。
アサオ家がやっているように。
仮にそれができなくても、工場を解体することで大量の金属資源が採取できるだろう。資源を売りはらうだけでも、とほうもない金額が手に入るはずだ。
この工場をどうにかして独り占めする方法を見つけたかった。そのためならば、ケニチの命令に従ったふりをすることなど、どうということはない。
ゴーは工場の出入口を眺めながら、思案をめぐらせた。
オリオはライトで周囲を照らしながら、工場の通路を進んでいた。
照明がついていないことは不便だったが、通電していないということは工場が死んでいるということであり、危険は最小限だということである。
かつて任務でアウム工場に何度も入ったことのあるオリオとしては、その点がなにより重要だった。工場の作業ロボットが集団で襲いかかってくると、始末におえない。さらには、アウムが警備のために工場内をうろついていたこともあった。
狭い通路内で乱射されたアウムの機銃。
倒れていく仲間たち。
オリオの脳裏に過去の凄惨な戦いの様子がこびりついていて、はなれない。あの日、左腕をアウムの機銃で吹き飛ばされて、虫の息になっていた仲間の姿が思い起こされる。
ユイ姉……。
記憶の底から不意に浮かび上がってきた名前がなつかしくて、オリオの胸がしめつけられた。一命をとりとめた彼女をはじめ、一緒に戦った仲間たちと会いたいと強く思っている自分自身の感情に気づいて、オリオは動揺した。
みんな、どうしているだろうか。
「オリオ?」
リツカがオリオの感情の揺れを敏感に察知したらしく、声をかけてきた。
「ちょっと昔を思い出していました。過去にわたしが参加した『ハンマーストライク』のことです」
「ハンマーストライクって、アウム工場を停止させるために攻撃する作戦のことね」
「そうです。工場外のアウムをタコで殲滅した後で、直接工場に乗りこみました。操翼士は、タコからニードルガンを取りはずして、工場内に持ちこんで戦ったのです。その戦闘がとくに過酷だった日のことが、忘れられません」
不意にケニチがオリオの肩を抱いてきた。
「どうした、オリオ。おまえが昔話をするなんてめずらしいじゃないか。よかった聞かせてくれよ。その日の話をさ」
「聞いていてあまり楽しい話じゃないぞ」
「楽しい話を聞きたいなら、別をあたるさ。俺はお前の過去の話を聞きたいんだ。気にせずに、どーんと話してくれ」
「わたしも聞きたい。お願い、オリオ」
リツカも言ってくる。オリオは暗がりの中でライトに照らされた二人の顔を交互に見て、ため息をついた。
ここは、話すしかなさそうだった。
そう心に決めた瞬間、話を聞いてもらえるということの心地よさに、オリオの心がざわついた。自分がやってきたことが誰かから興味を持たれるということは、思いのほかうれしいことなのだ。
「いいでしょう。あれは、わたしがまだ二十歳の時のことです。悪事をはたらいて追われる身だったわたしをカズマさまが拾ってくださって、わたしがようやくまっとうな道に足を踏み入れたすこし後のことですね。首都チノの東南で発見された大規模なアウム工場へのハンマーストライクが実施されることになりました。操翼士協会に登録されていた操翼士たちの多くが呼び出されて、かつてない大規模な作戦が敢行されたのです」
オリオは、ゆっくりと話しはじめた。
かつて実行にうつされた、大規模なハンマーストライク。
心動かす仲間たちとの出会いを、オリオが回想する。
次回『ユイ・ホシカワ』をお楽しみに。




