アウム退治
アウムに取りついていた流民の頭が機銃で吹き飛ばされる様子を見たケニチは、自分の目を疑った。
「隊長! あのアウム、なんで撃てるんですか! 二十年も前のしろものなんでしょう? 弾なんて残ってるはずないじゃないですか!」
コースケが悲鳴まじりにさけぶ。
同感だった。しかし、今それを言っても仕方がない。
残弾のあるアウムが相手。その前提で作戦を考えなければ。
幸いにも、流民たちはアウムをおそれて後退している。当面は、こちらを追ってくるアウムだけを相手にしていればいい。
普通ならば、速度ではソーラーカーのほうが有利だ。しかし、今は定員オーバーだった。このままではまちがいなく追いつかれる。
「ジュン! ソーラーカーの運転はできるか?」
ケニチはソーラーカー上のジュンに問いかけた。
「ああ、やったことはあるが――」
「よし、全員停止! 止まれ! シオン、降車して狙撃準備をしろ。ソータは武器をソーラーカーからおろせ! トモ、コースケ、捕虜をおろして拘束をとけ。ジュン、あんたは仲間を連れてソーラーカーで逃げろ。このまままっすぐ進めば、ヤマウチ領だ」
「あんたらはどうする気だ?」
ジュンの問いかけに、ケニチは自信たっぷりに笑ってみせた。
「もちろん、アウム退治さ。あんたらは無事に逃げることだけ考えろ」
「隊長、荷下ろし完了!」
ソータの声に、ケニチはうなずいた。
「よし。行け、ジュン」
ジュンはなにかいいかけたが、口を引き結び、青ざめた表情でうなずいた。
「ケニチ、幸運を祈る」
「まかせろ、おれは幸運の女神に愛されてるんだ」
ケニチの言葉に、ジュンはわずかに微笑んだ。
走りだしたソーラーカーを見送る間もなく、ケニチは三人の捕虜に武器を渡しながら声をかける。
「まだショック弾のしびれが残っているかもしれないが、死にたくなければ一緒に戦え。無事に生き残れたら、全員ミヤマ領に送り返してやる」
三人は互いに顔を見合わせていたが、すぐに慣れた手つきで小銃の弾倉を確認しはじめた。なかなか訓練の行き届いた兵士たちだ。
「よし、あんたら三人には左翼を任せる。ソータ、トモは右翼。とにかく、全員でアウムの脚を止めることを考えてくれ。コースケはおれと一緒に、シオンの援護。シオン、狙撃の優先ターゲットは、武器、脚、目の順だ。さあみんな、腕の見せ所だぞ!」
ケニチの言葉が終わるか終わらないかのうちに、すでに態勢を整えていたシオンが撃った。アウムはまた回避行動をとり、今度は銃口をこちらに向ける。
「くそっ、くるぞ! 伏せろ!」
アウムが連射した銃弾がかなり手前に降り注ぎ、土煙を上げた。
「しめた。あいつは照準が合ってない。勝てるぞ! 全員散開して持ち場につけ!」
捕虜の三人は身を低くして左に走った。ソータとトモは右へ。
隙をついて、シオンが応射する。アウムはまた跳躍して避けたが、今度はそのボディから火花が飛んだ。
シオンのやつめ、当てやがった。
ケニチは口笛を吹いた。回避する方向を予測して撃ったにちがいない。残念ながら大きなダメージはなさそうだったが、大きな一歩だ。
右翼から小銃が連射される。何発かが当たったようだが、アウムが接近する速度は変わらない。至近距離でありったけの弾を撃ちこむしかなさそうだった。接敵まであと十五秒というところだろうか。
アウムが右翼へ撃ち返す。
と、左翼から斉射。いいタイミングだ。ミヤマの連中も、なかなかいい兵隊のようだ。
アウムの銃口が左翼に向けられる。ケニチは立ち上がってわざと体をさらし、小銃をフルオートで撃ちまくった。となりでコースケも撃つ。右翼からも、銃弾の雨がアウムに降り注いだ。
脚の一本にダメージをあたえたらしく、アウムは右につんのめるように傾いて停止した。
そこに、シオンのライフルが火を吹く。アウムの銃を持ったアームが吹き飛んだ。
「第一ターゲット、破壊……」
シオンがつぶやくように言った。
「いいぞ! たたみかけろ!」
三方向から一斉にアウムへ銃弾が浴びせかけられる。
と、アウムは高く跳躍した。
走行用の脚が多少壊れても、これがあるから虫型のアウムは面倒なのだ。
ケニチは舌打ちをして、アウムの跳躍先を見きわめた。
「左翼、そっちに行くぞ! 気をつけろ!」