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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第四章 悪意に満ちた世界を照らす光
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土砂崩れ

「ヒサシの野郎、俺を狙って撃ってきやがった! なんなんだ、あの野郎は!」

 とっさに身を伏せたゴーが叫んだ。

「敵前逃亡と見なされたんだろうな」

 クロードはつぶやき、無造作に応射した。

「ふざけるな! もう頭にきたぞ。アサオ家のやつらにはうんざりだ。俺はこれからヤマウチ家につく。クロード、お前はどうする?」

「もうヒサシに向けて撃っちまったよ」

 クロードは笑った。

「よし、いったん後退して、ヒサシから身を隠そう」


 リツカは小銃を撃つ衝撃の大きさにたじろいでいた。

 アウムを狙って引き金を引いたが、銃がはねて狙いが定まらない。これでは、銃声で脅かす程度に役にしか立たなかった。

 リツカはあきらめて、怯えた様子のアメの体を抱きながら、自分にできることを探した。

 目は、いいほうだ。

 しかし、絶え間なく雨が目に流れ込むような状況では、視力の良さなどほとんど意味がなかった。

 ほかには?

 耳を澄ませても、雨音、雷鳴、銃声がそこらじゅうから聞こえて、なにがなんだかさっぱりわからない。本当にどうしようもなかった。

 いや。視力や聴力が抜群の味方が、すぐ近くにいるじゃないか。

 リツカは家宰ロボットのエミリに声をかける。

「エミリ、視覚センサーと聴覚センサーをフル活用して、敵の様子を把握できない?」

「大雑把で不確定な情報が増えますが、それでもよければ」

「それでも構わないから、教えて」

「アウムは斜面を滑り落ちてしまい、後退したようです。敵は二手に別れたと見られますが、その双方から銃声が聞こえています。パターン解析では、交戦中と考えられます」

「仲間割れをしているってこと?」

「そのようです」

「敵の敵は味方、よね。なんとかこちらに合流してもらえないかしら?」

「理論上は可能ですが、どちらが敵でどちらが敵の敵なのか、現状では識別するための情報がありません……アウムが高速で接近してきます。ヒカリとノブがいる場所めがけて斜面を駆け上がってくるようです……いけません、崩れます」

 崩れる? なにが?

 リツカはまったく理解できないまま、雷鳴とも銃声とも違う轟音を聞いた。


 ヒカリは、アウムが無事な五本の脚をめまぐるしく動かしながら斜面を登ってくる姿を見て、ひるんだ。ぬかるむ斜面を掘るようにして登ってくる機械じかけの虫のような姿は、ただただ怖かった。

 しかし、ヒカリのとなりにいるノブは、まったくひるむことなく発砲している。

 あいかわらずノブの銃の腕前はいまいちで、弾ははずれたようだ。ちょっと格好悪いノブのその様子が、ヒカリに平静さを取り戻させてくれた。

 ヒカリは気持ちを落ち着けようと深呼吸して、アウムに狙いを定める。

 その瞬間、ヒカリは奇妙な音を聞いた。それは雷鳴にやや似ていたが、より低音で地下から突き上げてくるように感じられた。

 見ると、アウムとその周囲の地面が、一緒に崩れはじめている。

「まずい、斜面が崩れるぞ。逃げろ!」

 ノブがヒカリの手をとって立ち上がった。

 アウムは混乱したのか機銃を空に向けて乱射しながら、土砂崩れに飲み込まれていく。

 その斜面の崩落がいったん止まったと思われた瞬間、今度はノブとヒカリが立っていた地面がひとかたまりになって動きはじめた。

 ああ、わたし、ここで土砂に埋もれて死ぬんだ。

 ヒカリは奇妙な冷静さの中で、ぼんやりと考えていた。

「ヒカリ!」

 ノブがヒカリを抱きしめてくれる。ヒカリもノブを抱きかえした。

 うん。ちょっと怖いけど、ノブが一緒にいてくれるなら、これはこれでいいかも。

 ヒカリは微笑んだ。

土砂崩れによって戦闘は終結する。

しかし、さらなる崩落に巻き込まれる者が……。

次回『崩落した斜面』をお楽しみに。

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