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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第四章 悪意に満ちた世界を照らす光
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虎視眈眈

 時はすこしさかのぼる。

 ゴースト・ショットを成功させたオリオだったが、猛然と接近してくる飛行型アウムを見て、即座に回避行動をとった。アウムはオリオ機の背後にはりつき、オリオはその攻撃を避けるために不規則に機体を動かしながら逃げる。

 同時に、他の二機のタコにも意識を向けなければならなかった。

 損傷を負った白いタコはオリオへの攻撃には参加せず、輸送機を追ってはなれていく。灰色のタコは、オリオとアウムの空中戦をややはなれた場所から観察しながら、オリオ機に襲いかかるタイミングを見計らっているようだった。

 アウムから逃げながら白いタコを追うか?

 いや、そんな余裕はなかった。追いかけると、それだけで動きに制約を受けてしまう。アウムはそれほど甘い相手ではない。

 オリオは輸送機の無事を祈りながら、アウムから逃げ続けるしかなかった。

 不規則に機体を上下左右に動かし、減速と加速をくりかえす。そして、アウムが狙ってきたと思ったら急旋回する。灰色のタコの動向を把握しておくだけで精一杯だった。

 しかし、いつまでもアウムと追いかけっこを続けているわけにもいかない。

 オリオはアウムをじゅうぶんに引きつけたところで、高速旋回を開始した。

 翼がしなり、機体のあちこちから振動やきしみが伝わってくる。もちろん、強烈なGにオリオ自身の体も悲鳴を上げていた。

 それでもオリオは歯を食いしばって旋回を続けた。

 アウムの姿が後部カメラから消えて、頭上に見えはじめる。

 よし、いける。これでアウムをふり切って、逆にアウムのうしろをとれるだろう。


 トム・スギタは、オリオ機の動きを眺めて感心していた。

 アウムに背後をとられながらも被弾せずに逃げ続ける姿は驚嘆に値した。アウムの予測をことごとく裏切りながら攻撃をかわす操縦技術は、もはや神がかっている。一度も被弾したことがないという噂が本当かどうかは知りようもないが、そうであっても不思議ではないように思えた。

 しかも、トムが隙をねらって横あいから攻撃をしかけようとすると、決まってアウムがオリオ機とトム機の間に入る位置に入った。最初は偶然だと思ったが、二度三度と繰り返されるうちに、オリオがトム機の位置を把握しながらアウムから逃げているのだと知れた。

 敵ながら、すごすぎて喝采を送りたくなる。

 いや、感心している場合ではない。

 前回のヤスダでは、オリオを地上の援護に回らせないことが目的だったので、追い回していればよかった。しかし、今回の目的は撃墜である。

 どこかで攻撃をしかけるしかない。

 おそらく、オリオもアウムから逃げているだけでは埒があかないことを理解しているはずだ。どこかでアウムの追尾をふりきり、逆襲してアウムを撃墜しようとするだろう。

 その瞬間が、トムのチャンスにもなる。

 トムが虎視眈眈と狙っていたチャンスは、唐突に訪れた。オリオ機が高速で急旋回を見せ、アウムを引きはなしにかかる。

 トムは低空から急上昇して、オリオ機に迫った。


 しまった。

 敵のタコが急接近してきていることに気づいたオリオは、とっさにアウムを振り切ることをあきらめた。

 機体を切り返して逆旋回に入ったが、タコの接近に気づくのが遅すぎた。

 だめだ間に合わない——。

 オリオは歯をくいしばり、最後のあがきで急減速をかける。運が良ければ、敵の照準からうまくはずれることができるかもしれなかった。


 MQ31Aの人工知能は、標的の黒いタコが急減速する姿を観測して、未来予測ユニットに再計算を命じた。

 そのままさらに減速する、再加速する、旋回する等、すべての可能性を考慮した上で、三秒後の標的の位置はごく狭い範囲に限定される。小銃弾を命中させる確率は、九十九パーセントだった。

 唯一の懸念は上昇しながら近づいてくる僚機の存在である。僚機も標的を狙っており、僚機がニードルガンを命中させる可能性は八十二パーセント。このまま僚機が現状の飛行コースをとり続ければ、MQ31Aと衝突する確率は一〇〇パーセントである。

 しかし、航空法によれば、この場合は上昇してくる僚機に回避義務がある。

 MQ31Aは直進を続けて、黒いタコに照準を合わせた。


 いける。いけるぞ!

 トムはオリオ機に迫りながら微笑んだ。

 伝説の黒騎士も、ついに被弾する日がきたのだ。

 トムは黒いタコに照準を合わせた。

アウムとタコの挟撃を受け、オリオは絶体絶命の危機に陥る。

一方で、輸送機には三たびナタリアの攻撃が……。

次回『対人空中戦の達人』にご期待ください。

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