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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第一章 情けは人のためならず
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アウム接近

「何人でここまで来たんだ?」

 カレンのことを思い出して、ジュンは胸をえぐられるような思いだった。

「全部で八人だったが、三人がつかまった」

「すまない。おれたちがもうすこし早く駆けつけられていたらよかったんだが」

 ケニチが本気で悔しそうな顔をしているのを見て、ジュンは驚いた。ケニチが謝らなければならないようなことはなにひとつないのだ。ジュンたちが勝手に脱走してきただけで、ヤマウチ・エンタープライズ側がそれを助ける義務はない。

 こういう情のあつさは、ミヤマ領では経験したことがなかった。それだけでも、ヤマウチ社長の人柄がうかがえるような気がする。

「ソーラーカーには運転手と狙撃手、それにあんたら五人と捕虜三人を乗せるのが精一杯だ。おれたち三人は徒歩になるので、ソーラーカーも徒歩の速度で進むことになる。悪いが、あと半日だけ辛抱してくれ」

「ああ。ありがとう。こっちこそ迷惑をかけてすまない」

 ジュンが頭を下げると、ケニチは豪快に笑ってジュンの背中をたたいた。

「『情けは人のためならず』がうちのボスの口ぐせなのさ」

 ジュンは首をかしげた。その言葉は、相手がみずからを鍛えて弱さを克服する機会を奪わぬように、あえて情けをかけないようにすべき、という意味である。

 そのジュンを見て、ケニチはにんまりとした。

「大昔の意味は、ちがったらしいぜ。いつか自分に返ってくるから、人には可能な限り情けをかけておけ、という意味なんだそうだ。そう考えると――」

「隊長! 流民が接近してきます!」

 緊迫した声がケニチの言葉をさえぎった。

 ケニチの部下が、南の方角を指している。丘陵地から、人の集団がくだってきていた。

 人数は……二十人、三十人、いや、さらに多く姿をあらわした。統制も作戦もなく、こちらを見つけて思い思いに走りだしている。

 ケニチが号令をかけた。

「相手が多すぎる! 移動開始だ。急げ急げ! コースケ、信号弾を撃ち上げろ。流民に遭遇、戦闘不可避、救援求む。黒、赤、赤だ!」


 ケニチの息があがってきた。

 部下たちはまだ平気なようだった。

 ちくしょう、歳はとりたくないな……。

 ケニチはうしろをふり返った。追ってくる流民の先頭は、ずいぶんと近づいてきた。こちらが止まれば、五分と経たずに追いつかれるだろう。もっとも、走り続けていても、どこかで必ず追いつかれる。

 かつては流民にもいろいろあり、ジュンが属していたような穏健な集団もいた。しかし、流民同士の争いで淘汰されてしまい、今残っているのは極度に暴力的な集団がほとんどだった。強姦、殺人は当たり前。もっともうんざりする話は、つかまえた人間を生きたまま食うというものである。

 想像するだけで気分が悪くなる。

 おそらく、ジュンたち一行の足跡を見つけ、いい獲物がいると追ってきたにちがいない。

 ケニチはソーラーカーの後部で狙撃にそなえているシオンを見た。シオンはゆれる車上で狙撃銃を構えている。

 シオンはケニチに首をふってみせた。

 ゆれる状況では、狙撃は無理ということだろう。

「隊長! 三時方向を見てください!」

 トモが悲痛な声をあげた。

 今度はなんだ。ケニチは右に目を向けたが、荒野が広がっているだけに見える。

「なにも見えないぞ」

「廃墟のすぐ左です」

 ケニチは目をこらした。

 荒野には、かつて都市だったものの残骸があちらこちらに残っている。ケニチは少年時代に一度だけ、まだ生きている都市というものを見たことがあった。かつての首都、トーキョー。陽光を反射して輝く巨大な建造物は、驚嘆に値するものだった。しかし、その当時ですら、海水面の上昇や渇水と砂漠化、人口減少によって放棄された都市がほとんどだったのである。その後の戦争によって、わずかに残った都市はトーキョーを含めてほとんどが破壊されてしまっていた。

 そんな都市の残骸の、左。

 見えた。

 黒いなにか。土煙をあげて、まっすぐこちらに近づいてくる。

 よそのソーラーカーか? それとも……。

 ケニチは双眼鏡を土煙に向けた。なめらかなボディに、左右に飛びだした長い脚とアームが見えた。

 アウムだった。

 大戦時に開発された、自律式の無人兵器である。すでに大戦が終結して二十年以上がたつが、制御を失った暴走アウムは今でもまれにあらわれて、破壊の限りをつくしていく。

「アウム接近! 全員、徹甲弾を装備! コースケ、信号弾だ! 赤三連発!」

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