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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第一章 情けは人のためならず
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狙撃手シオン

「騎兵隊の到着を華々しく知らせてやれ。コースケ、もう一度信号弾。緑、白だ!」

「了解、隊長」

 信号弾の破裂音を頭上に聞きながらも、ケニチは双眼鏡から目をはなさなかった。

 逃亡者の数は、およそ十。しかし、逃亡者とケニチたちの間に輸送機が着陸した。輸送機から、やはり十人ほどの武装した兵士が降りる。兵士たちは逃亡者たちに小銃を向けて、発砲した。何人かがショック弾にやられたらしく、体を硬直させて倒れる。

 ケニチは拡声器のマイクを手にして、大声で呼びかけた。

「こちらは、ヤマウチ領外縁警備隊のケニチ・サトーだ。すぐに暴力行為を停止しろ!」

 すぐに返答が返ってくる。

「ここは国有地だ。ヤマウチ家にとやかく言われる筋合いはない! 脱走借地人を回収したら撤収するから、関わり合いは無用だ!」

「我々は周辺地域の治安維持のため、国から取り締まりを委託されている。丸腰の人間に武器を向けるような非人道的行為は看過できない」

「どうしてもというなら、力づくで止めてみろ!」

 輸送機を中心に、ミヤマの兵たちが防御陣形を敷いた。人数は六人。他の者は、ショック弾で撃ち倒した逃亡者を輸送機に搬送している。

 向こうは、やる気だ。それならば、こっちも本気でいこう。

 ケニチは部隊の紅一点、狙撃手シオンを見た。シオンは長い髪をかきあげながら空を見上げている。

「どうだ、シオン。いけるか?」

「風がある……でも、たぶん大丈夫」

 シオンの『たぶん大丈夫』は、自信があるという意味だ。

「よし、停車してシオンを降ろせ。シオン、合図はしないから、おまえのタイミングで好きにおっぱじめろ」

 シオンは無言でうなずくと、ソーラーカーから狙撃銃を持って降りた。

「よーし、敵の左翼にまわりこんで攻撃するぞ。行け、行け!」

 ソーラーカーが再び加速して、敵に近づく。敵もこちらの接近方向に合わせて隊形を変えようとした。その瞬間、敵の一人が突然倒れた。

 倒れた仲間を助け起こそうとした敵が、さらに倒れる。

 ケニチは微笑んだ。

 相変わらずシオンの狙撃の腕前は冴え渡っている。

 敵は一斉に後退をはじめて、輸送機の中へと引きあげていく。シオンの狙撃でも、三人目を倒すのが精一杯だった。ケニチたちが到着した時には、輸送機は滑走をはじめて離陸態勢に入っていた。

 ケニチは舌打ちをした。

 敵の指揮官は、なかなか思い切りのいい人物だったようだ。狙撃の被害が増える前に、脱走者の回収も、味方の救出も、なにもかもをあきらめて現場を離脱する。かんたんな判断ではなかったはずだが、実にすばやく決断をした。ここは、相手を褒めるしかない。

 ケニチは気持ちを切り替えて、指示を出した。

「コースケ、倒れている敵兵を縛り上げろ! トモ、おまえは客人を呼び集めてこい。ソータはソーラーカーでシオンを拾ってくるんだ!」


 ジュンは、ヤマウチ領の兵隊から受け取った水を飲みながら、周囲を見回した。

 ヤマウチ兵は五人。一緒にミヤマ領から逃げ出してきた仲間は三人がつかまってしまい、残りは五人になっていた。

 カレンも、連れていかれてしまった。

 ジュンはショック弾を足に受けたのである。倒れて動けないジュンの目の前で、抵抗する元気のなくなっていたカレンは、ミヤマの兵士に引きずられていった。カレンの悲しげな顔が、ジュンの脳裏からはなれない。

 ジュンの心の中にぽっかりと穴があいてしまい、なにをする気力も起きなかった。それなのに、あたえられた水を飲まずにはいられない。自分がひどく浅ましい生き物のような気がして、ジュンはさらに気持ちが沈んだ。

「どうも、ヤマウチ領外縁警備隊のケニチ・サトーだ」

 四十がらみの精悍な顔をした男が声をかけてきた。

「ジュン・ヤマシタだ」

「ミヤマ領から来たと聞いた。あんたが道案内をしてきたんだって?」

「ああ。子供の頃は流民だったんだ。このあたりにも何度か来たことがある」

「そうか。その流民たちが、ミヤマ領に定住したんだな」

「定住? 拉致だよ。ある日突然ミヤマの兵隊がやってきて、おれたちの部族全員がむりやり引っ立てられた」

 ジュンの言葉にケニチは顔をしかめた。

「ミヤマのボスは、昔からゲスの極みだったからな」

「ミヤマ領に着いてからもひどかった。まるで家畜扱いだ」

「それで脱走してきたんだな」

「ヤマウチ・エンタープライズの噂は聞いていた。慈悲深い社長で、真面目に働いていれば社員にもしてもらえるって」

「まあ、うちのボスが控えめに言っても最高なのはまちがいない。そこは信じてくれていい。で、何人でここまで来たんだ?」

 カレンのことを思い出して、ジュンは胸をえぐられるような思いだった。

「全部で八人だったが、三人がつかまった」

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