おいしい獲物
シオンはゆっくりと息を吐くと、新たな標的に狙いを定め、引き金を引いた。
ショック弾特有のこもったような発射音がして、標的が倒れる。
これで、ふたり。
建物の影に隠れたつもりになっているならず者は、ほかにもまだたくさんいる。
シオンは冷静に、正確な射撃を続けた。
七人目を撃ち倒したところで、ならず者たちは後退をはじめた。
スコープから目をはなして、全体の状況を確認する。最初にならず者たちに襲われていた三人の兵士は、駆けつけたチームと合流して態勢を立て直している。ケニチを中心にコースケ、ソータ、ほか九人の兵士の一団は、徐々にならず者たちを圧倒しはじめていた。
ここは、もう大丈夫だろう。
だが、ケニチがここに釘付けにされているということは、他が手薄になっているということでもある。
シオンは外を見張っているトモに目配せをした。トモは周囲を見回していたが、不意に破裂音が響いて空を見上げる。
「信号弾、赤みっつ! 南からだ」
いよいよアサオ勢の本隊がご登場、ということだろう。
シオンは狙撃銃の脚をたたむと担ぎ、銃弾の入ったバッグを抱えた。そのシオンの様子を見て、トモは指笛を吹いた。コースケが気づいてこちらを見る。トモは身振りで南に向かう旨を伝え、コースケがうなずいた。
「これでよし。行こうか、シオン」
トモが微笑む。
しかし、すでにシオンは、町の南側で狙撃に向いていそうな場所を探すのに意識を集中させていた。
指笛の音を聞いて、ルークは身を隠した。
みつけた。
民家から出てくる狙撃銃を持った女兵士と、やや小柄な男兵士。男のほうは、負傷しているらしく、片足を引きずっている。
狙撃手とその護衛といったところだろう。この狙撃手にはかなり手を焼かされたが、片付けることができればまだ状況をひっくり返すことも可能だ。
ルークは舌なめずりをした。
居場所のバレた狙撃手ほど、おいしい獲物はない。しかも、女だ。
まずは護衛を始末して、じっくり狙撃手をいたぶってやろう。あの長い黒髪をつかんで引きずり回してやったら、どんな声を出してくれるだろうか。
苦痛に満ちた女の声を想像して、ルークは笑みを抑えることができなかった。
ヒカリ・ムラカミは、ふるえていた。
谷筋から姿を見せたアサオ勢は、大軍である。ソーラーカー五台に、兵士たちが乗っている。一台に十人乗れるはずなので、それだけで五十人になる。それに加えて、アウムが三機同行している。
アウムがアサオの兵士を襲う様子はない。どうやったのかは知らないが、アサオ家はアウムを味方にする技術を手に入れたのだ。
五十人とアウム三機。こちらは二十人とすこし。
勝てるわけがない。
ヒカリは同じチームになったノブとタローの顔を交互に見る。
「やっぱり、もう一度信号弾を……」
ヒカリと同じく不安そうなタローがつぶやいたが、ノブが鼻で笑った。
「それで安心できるなら、撃ちな。それよりも、ヒカリ?」
「は、はい?」
「あんた、射撃が得意じゃなかったか?」
ヒカリはあわてて首をふった。
「や、やめてください。あたし、無理です。動かない的しか撃ったことないんですから」
「だからって、タローの格闘術はアウム相手には使えない。俺は銃も格闘もからっきし。あんたの射撃に頼るしかないってことだ」
タローが新たに信号弾を撃った。青空に赤い煙が漂う。
ノブはしばらくヒカリの顔を見ていたが、やがてため息をついた。
「そうか。じゃあ、仕方がないな。投降でもするか」
「何バカなこと言ってるんですか」
「新しい隊長が言ったろう。勝てそうになかったら投降しろってね。そういうことさ。せめて、我らが黒騎士どのがアウムの相手をしてくれればいいんだが……あの様子じゃあ無理だろう」
信号弾の赤い煙を切り裂くように、オリオの黒いタコが高速で通過していく。その背後には、アサオ家のタコがはりついていた。
ノブの言うとおり、最強の味方であるはずの黒騎士は、敵に追われて苦戦しているようだった。




