狙い撃ち
オリオはアウムが進んでくる道を避けて、裏通りを通って駐機場に向かおうと、リツカの手を引いた。
が、表通りから建物の破壊の音が近づいてくる。アウムは両脇の建物を破壊しながら、細い路地を抜けてくるつもりのようだ。
まずい。
オリオが身をひるがえした直後、アウムが瓦礫を撒き散らしながら飛びだしてくる。
二メートル先に、アウム。その前には、無防備な人間が二人。
考えるよりも先に、オリオの体が動いていた。オリオは両腕を広げて、リツカを隠すようにアウムの銃口の前に立った。
「こっちよ!」
リツカがさけんで走った。アウムは向きを変えてリツカを追い、機銃を撃つ。オリオはアウムに無視された格好だった。
「このっ」
オリオはリツカが飛び込んだ建物に向かって機銃を連射しているアウムによじ登ると、機銃の狙いをすこしでも狂わせるために銃身を蹴りつけた。
不意にアウムは銃撃をやめると、オリオを乗せたまま移動を再開する。
まさか、リツカが射殺されてしまったのでは……。そう思って胸が苦しくなったオリオだったが、瓦礫の中で体を起こすリツカの姿を見て安心した。おおきなケガもなさそうだった。
「タコへ!」
オリオはアウムに乗って遠ざかりながら、駐機場を指してさけんだ。リツカはうなずき、走り出した。
これで、リツカのことはひとまず安心だった。問題は、オリオを乗せたまま疾走するアウムをどうするかである。
オリオは弱点を探して、アウムのボディを調べはじめた。
カズマはゴーのアジトからタウンホールに戻る途中で、大きな破壊音を聞いた。
ふり返ると、建物の破片を撒き散らしながらアウムが飛びだしてくる様子が見えた。
アウムのすぐ前には二人の人間が立っている。男と女。男が女をかばうように立っている。男はオリオに似ていた。すると女のほうは――。
見ているうちに女が手近な建物に駆けこんだ。そこにアウムが銃弾の雨を降らせる。
女の横顔を見てカズマは確信した。
「リツカ!」
アウムが動きを止めて、こちらを見たような気がした。
オリオが素手でアウムにつかみかかる。そのオリオを乗せたまま、アウムがこちらに向かって走りだした。
「いけません、逃げましょう」
カズマはソータに腕を引かれてアウムからの死角に引きずりこまれた。
「しかし、リツカが」
「途中で標的をこちらに変えたようです。たぶん無事でしょう。それよりも、こっちが危ない。逃げなければ」
ソータが言い、トモが小銃の弾倉を確認しながらうなずく。
「ここは引き受けます。旦那さまはソータと一緒にタウンホールへ急いでください」
「わかった。無事に戻ってきてくれ。頼む」
カズマはトモに頭を下げた。
「さあ、行ってください」
「旦那さま、行きますよ。常に曲がり角ふたつぶん先行して、アウムからは見えない位置にいることが大切です。心臓が張り裂けるまで走ってください」
カズマはうなずき、ソータに急き立てられるように走りだした。
トモは通りの角でアウムを待ち構えることにした。こちらを追って角を曲がってくる際には、減速をするはずである。速度を落としたところを狙い撃ちにすれば、すこしはダメージをあたえられそうだった。
トモは記憶をたぐり寄せる。
ええと、車両型アウムの特徴はなんだっけ。
機動力が高い。装甲は比較的薄い。武装は機銃で、弾数が多い。まれに四輪型が二輪型二機に分離するタイプがある。虫型とちがってアームがないので、武器を無効化するのは困難。防弾タイヤなので、足を止めるのも困難。
狙いは、カメラだ。
目をつぶせば、攻撃の正確性が落ちる。カメラは車両型のフロント部分に埋めこまれているはずだが、具体的な場所は型式によって異なる。
運よく当たればめっけもん、か。
トモは銃を構えると、深呼吸をしてアウムを待ち構えた。




