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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第十二章 飛べ!
233/264

巨大な壁

(これより作戦開始。我に続け)

 アムリーシュは発光信号を味方に送ると、自機を降下させた。低空から南端の出入り口に接近し、ニードルガンで攻撃するのだ。その後は地上部隊に主導権を渡し、操翼士部隊は付近の出入り口から敵の別動部隊が出てきたら撃破していく手はずになっている。

 パラシュートで脱出したクリストファーが狙われたことからもわかるように、敵は明らかに操翼士を狙ってきている。敵の生体アウムが残っているのなら、この最初の攻撃に対しても衝撃波攻撃で応戦してくる可能性が高い。

 だからこそ、アムリーシュが先頭でなければならないのだ。指揮機は、敵の攻撃を引きつける最高の餌になる。

 アムリーシュは低空飛行で出入り口に接近した。眼下に展開する地上部隊のすぐ上を通過して、出入り口に迫る。付近に展開していた虫型アウムが機銃を撃ってきたので、アムリーシュはニードルガンを撃ち返した。

 アウムの一体が、アムリーシュの放ったニードルガンを受けて機能を停止するのが見えた。しかし、生体アウムによる衝撃波攻撃はない。

 たび重なる戦闘で、工場側の戦力もぎりぎりになっているのだろう。

 アムリーシュはタコを上昇させて、離脱する。後続機も次々に攻撃をしかけていくが、やはり衝撃波攻撃はなかった。

 これなら、いけるかもしれない。

 そう思って、すぐにアムリーシュは自分をいましめた。油断は禁物である。敵はこちらの陽動を見抜いて、戦力を温存しているかもしれないのだ。相手を甘く見てはいけない。

 アムリーシュは別の出入り口に接近してみたが、敵の姿はまったくなかった。続けて、発電設備にもっとも近い出入り口にも近づいてみる。やはり、敵の姿は皆無だった。おそらく敵は温存している戦力を発電設備の周辺に配置して、最終防衛ラインを構築しているに違いない。

 となると、作戦の成否は、スピードにかかってくる。

 重量のあるモップを抱いたタコは、敵の攻撃を避けるのが難しい。敵がモップの存在に気づき、温存させている戦力でモップへの対策を講じる前に、モップの投下を完了させなければならないのだ。そのためには、モップの存在をどれだけ長く敵の目から隠しておけるかが重要になってくる。

 アムリーシュは、南端の出入り口の攻撃を終えた味方機に、発光信号を送った。

(奇数編隊は、我に続け。偶数編隊は、このまま所定の行動を維持。ここの指揮は第二編隊長にまかせる)


「来たぞ」

 コーキはミキに言われて空を見上げ、思わず目を疑った。

「なんだ、あの隊形は……」

 アムリーシュが率いて戻ってきた編隊は、見たことのないような隊形を組んでいたのである。輸送機を中心に多くのタコが密集して飛んでいる光景は、地上から見上げるとまるで巨大な壁が空を飛んで迫ってくるように見えた。

「なるほどな。工場側に、ギリギリまでこちらの手の内を見せない作戦か」

 ミキが言う。コーキは首をひねった。

「どういう意味ですか?」

「モップを搭載したタコを工場側の目から隠しているのだろう。アムリーシュらしい、実に慎重な作戦だ。通常の作戦行動よりも高度が高いのは、そのまま急降下攻撃に移るためだろう」

 コーキは、感心しながらミキを見た。

「そうなんですか。タコの高度なんて、気にしたこともありませんでした」

「わたしたち地上部隊の作戦行動は、基本的には平面上でしか展開しないからな。操翼士たちは、高度を含めた空間全体で戦う。わたしたちとは頭の作りが違うのさ。だが、彼らと一緒に作戦行動をするなら、われわれもある程度は理解していなければならない。心に刻んでおけ」

 ミキは鋭い口調で言った。

 こういうところでいちいち説教くさいのが、ミキババアなんだよな……。

 コーキは内心でぼやきながらも、その気持ちは表に出さず、うなずいた。

「なるほど。勉強になります、隊長」


 AFCS103は、西から接近してくる編隊の動きから、敵の目標を推測していた。

 面のような隊形は、その背後になにかを隠している可能性を示唆している。高度が高いのは、急降下攻撃の可能性を示唆している。進路は、発電施設の真上をまっすぐに目指している。

 総合すると、敵はこちらが検知できないように兵器を隠し持ち、高高度から直接発電施設を攻撃しようとしている、ということになる。発電設備は、地表からおよそ七十メートルの位置にあるが、その深さまで到達可能な兵器が、世界の軍事装備品リストに一種類だけ存在していた。

 大型貫通爆弾である。

 敵が陽動だけで本格的に攻めてこない理由は、これだったのだ。生体アウム三体を、直上からの急降下攻撃に備えさせるために移動させなければならない。迎撃位置までの移動にかかる時間は、敵の攻撃開始に間にあうかどうかギリギリのところだった。

 AFCS103は即座に指令を出した。

人間vs機械。互いの作戦を読み合い、駆け引きが続いていた。

果たして、工場の対応が速いのか、それとも操翼士たちが速いのか。運命の時が迫る。

次回、『モップ投下』をお楽しみに。

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