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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第十一章 どうしてこの世界はこんなにも残酷にできているの?
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密告

「シーナ、ちょっといいか?」

 シーナ・クリハラに声をかけてきたのは、同僚のアレックスだった。かつてはともにヤマウチ家の操翼士だったが、ヤスダがアサオ家に占領されて以降は不本意ながらアサオ家のために働いていた。

 シーナ自身、戻ってきたソーマやリツカが乗った輸送機を誘導してナタリアの手に引き渡している。そのことに罪悪感をおぼえたシーナはふさぎこんでいたが、しかたのないことだったのだとアレックスはなぐさめてくれていた。

「どうしたの?」

 シーナが問いかけると、アレックスは周囲を気にする様子を見せながら、手招きをする。

「重要な話がある」

 シーナは気を引き締めた。この状況で重要な話といったら、話の内容は決まっている。ソーマたちを助け出す算段をする話に違いない。

 アレックスに歩み寄ったシーナは、物陰に立っていた少年を見つけて驚いた。

「この子は?」

「こいつはシゲ。オリオに心酔していて、ヤマウチ家のために働いてくれている」

 シゲと呼ばれた少年は、にこりと笑った。

「よろしくな、シーナねーちゃん」

「よろしく、シゲ。それで、重要な話ってなんなの?」

 シーナの問いかけに、アレックスはふたたび周囲をうかがってから小声で答えた。

「シゲが、貴重な情報を持ってきてくれた。ナタリアの運転手をしていたユカ・オータニの話によれば、レン・アサオとナタリア・ゾブロスカヤが死んだ。アサオ家の技術顧問として工場の稼働を指揮していたゼロという男が、機械と融合した巨大な化け物のような姿になって襲ってきたらしい」

 シーナは話についていけずに、困惑してアレックスとシゲの顔を交互に見た。二人とも大真面目な顔をしている。からかっているわけではなさそうだった。

「巨大な化け物って、どういうこと?」

「おれは親父から聞いたことがある。昔、ハンマーストライクで制圧した工場の中から、アウムと人間を融合させて新たな兵器を生み出そうとしていた痕跡が見つかったらしい。たぶん、その技術を使ったんだろう」

「でも、わざわざ自分の体を機械に変えたいなんて思う?」

 シーナが言うと、今度はシゲが答えた。

「アサオの連中から聞いた限りじゃ、ゼロってやつはかなりイカれたやつだったみたいだ。あと、どこか体の具合が悪いんじゃないか、って噂もあった。もしかしたら、治せない病気を抱えていて、自分の体を捨てる決断をしたのかもしれないな」

 そう言われても、かんたんには信じられない話だ。シーナはゼロのことはいったん判断を保留にして、深呼吸をした。

「それで、やっぱりやるつもりなのね? レンとナタリアがいなくなった今がチャンスってことでしょう?」

 シーナの問いかけに、アレックスがうなずく。

「ああ。敵はボスを失ったアサオ兵二十人と虫型アウム二機、そして完全にアサオに寝返ったキミオ・イズミと配下の二十人だ。アウムを連れたアサオ兵を片付けるには、俺たちのタコが必要になるだろう。いつでも飛べるように準備をしておけ。あと、ヤスダの中に知り合いはいないか? まだ味方が足りないんだ。信用できるやつがいれば、味方に引き入れておきたい」

 シーナの頭の中に、数人の顔が浮かんだ。

「兵士じゃなくても大丈夫かしら?」

「ああ。一人でも多いほうがいい。とにかく声をかけてみてくれ。武器の調達はこっちでなんとかする。正午にはキミオの部隊を急襲して、ソーマさまたちを救出したい」

 シーナは緊張した面持ちでうなずいた。

「わかったわ」


 ダイキチ・ハラは、来客が帰ったあとでしばらく考えこんでいた。

 ヤスダをアサオ家から取り戻す戦いが、正午からはじまるという。もちろん、話を知らせにきてくれたかつての同僚には、戦いに参加すると答えていた。

 しかし、それが正しいことなのかが、ダイキチにはわからなかった。

 ソーマ・ヤマウチは、ヤスダを見捨てて去ったのだ。しかも、無駄な血を流さないように、次にアサオ家が攻めてきたら降伏しろとまで言って。

 それを今さら、取り戻すもなにもあったものじゃない。

 そもそも、下っ端の人間は上が誰になろうが関係ないのだ。必死で働いても、その成果を上の人間に持っていかれるという構図には、なんの変わりもない。

 あらたにヤスダの統治者となったナタリア・ゾブロスカヤという女は、密告を推奨していた。アサオ家への反抗計画を報告した者には、多額の報奨金と管理職への登用を約束するという。

 勝てるかどうかわからない戦いに参加して命を危険にさらすよりも、密告をして利益を得るほうがよっぽど賢い行動ではないか。

 生まれてからずっとヤマウチ家に属してきたが、とくに不満があったわけではない。しかし、アサオ家の支配に変わったあとも、とくに不満があるわけではないのだ。

 時計を見る。

 十一時半。正午から開始するという攻撃まで、あまり時間がない。密告をするなら、今すぐ行動しなくては。

 ダイキチは心を決めて、アサオ兵が詰めているタウンホールへと向かった。

人は、自分の利益を優先するもの。信頼は、裏切られるもの。それが、現実だった。

不意を突くはずの攻撃は敵の知るところとなり、ヤマウチ家側は窮地に陥る。

次回、『挟み撃ち』にご期待ください。

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