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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第十章 大切な人はみな、先に逝く
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ポイントE2

 コーキはユーナに駆け寄って声をかけた。

「おい、あんた、ユーナだろう? どうしたんだ? タカヤマでなにがあった?」

 コーキの問いかけに、鬼気迫るユーナの表情がかすかに揺れる。

「死んだ……みんな……」

「おまえは無事でよかった。おい、医療班! 来てユーナの具合を——」

 ユーナに肩口を強くつかまれて、コーキは最後まで指示を出すことができなかった。ユーナは胸ポケットからなにかを取り出すと、コーキの手に押しつけてくる。

「……地図……工場……」

 コーキはユーナから渡されたものに目を落とす。メモリースティックだった。

「ここに工場の地図が? そうか、技術班がやってくれたんだな?」

 コーキの問いかけに、ユーナは答えない。コーキがメモリースティックに視線を落としている間に、ユーナは気を失っていたのである。

「おい、医療班! はやく——」

 今度は、前線のほうで上がった悲鳴と銃声に邪魔をされる。

「発光信号! ポイントE2より虫型アウムの集団が出現、救援を求む!」

 くそっ。次から次に面倒ばかり起こりやがる。

 もはや決断を先延ばしにして悩んでいられる状況ではない。コーキは腹をくくった。

「車両部隊を可能な限りE2に集中させろ! 操翼士部隊にも支援要請だ! E2から外にアウムを出てこさせるな。あと、誰か技術にくわしいやつはいるか? このメモリースティックの中身を確認したい!」


 貪欲にアウムを追ってタコを操り続けていたオリオは、自分の背後に回りこんできたタコの存在に気づいた。そのタコはまるで空中戦のようにオリオ機を追尾してくる。

 まさか——。

 オリオはとっさに機体を左下へ逃す。と同時に、タコはオリオ機に向けてニードルガンを撃ってきた。ニードルガンはオリオ機をはずれて夜の闇に吸いこまれていったが、オリオは心の底から腹を立てた。

 夜の戦場で味方を攻撃してくるとは! こちらがよけなければ当たっていたぞ。いったいなにを考えているんだ、あの操翼士は——。

(頭を冷やせ、愚か者)

 オリオ機の追尾をやめたそのタコから、発光信号がある。オリオに向かってそんなことを言ってくる相手は、一人しか考えられなかった。

 まさか、アムリーシュなのか?

 オリオは周囲の安全の確認してから、速度を落としてアムリーシュ機に並びかけた。暗くて表情までは見えなかったが、操縦席にいるのは間違いなくアムリーシュだった。

(われわれはチームだ。一人で背負うな)

 オリオはその発光信号を見て、はっとした。

 アムリーシュは、それを伝えるためにわざわざ来てくれたのだ。もちろん、クリストファーを死なせてしまった後悔が消えることはなかった。それでもアムリーシュのメッセージにこめられた思いは、オリオの心にしみた。

(了解)

 オリオは短く発光信号を返した。さらにアムリーシュから信号が届く。

(先に逝くことは許さない)

 そのアムリーシュのメッセージに、オリオは虚をつかれた。アムリーシュとて、クリストファーの死が悲しくないはずがない。誰よりも長く飛び、誰よりも多くの仲間の死を見てきたアムリーシュだからこそ、オリオなどとは比べものにならないほどの自責と後悔をその胸中にためこんできたに違いない。

 しかし、アムリーシュはそのことを周囲には感じさせず、いつもおだやかに微笑んでいる。真の強さとは、そういうことなのだ。

 ああ、おれはどこまでも弱く、底の浅い人間だ……。

(了解)

 オリオは冷静さを取り戻すと、ゆっくりと息を吐いた。

 自分の体の状態を分析する。怒りに我を忘れて無茶をしすぎたせいで、右肩の痛みは操縦桿を握り続けるのが困難なほどになっていた。しばらくは左手だけで操縦するしかなさそうである。伝染病の症状は、いまのところは落ち着いている。

 誰かが新たな照明弾を打ち上げて、空がやや明るさを増した。空に残っている飛行型アウムは残り二機。味方が優勢だった。オリオが参戦するまでもなさそうである。

 次に地上の様子をたしかめようと目を向けたとき、地上の発光信号が見えた。

(操翼士部隊に支援要請。ポイントE2より地上型アウム多数出現)

(空はまかせる)

 即座にアムリーシュは発光信号を送ってよこすと、オリオの返事を待たずに降下をはじめた。オリオは冷静さを取り戻してくれたアムリーシュに、心からの感謝をこめてつぶやいた。

「了解。ありがとう、アムリーシュ」

逝った者、遺された者。交錯する思い。

アウム工場をめぐる戦いは、次の段階へと進む。

次回、第十章最終話『撤収命令』をお楽しみに。

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