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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第十章 大切な人はみな、先に逝く
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永遠の孤独

 ユーナは、壁に寄りかかっていたエマが倒れるのを見て、あわてた。エマはすでに絶命しているショーに手をのばしている。

 ユーナが駆け寄った時には、エマはショーの手を握って満足そうな笑みを浮かべていた。

「エマさん! しっかりしてください!」

 ユーナはエマの肩をたたいた。エマはユーナの声にはこたえずに、ため息のようにちいさく息を吐く。

 そして、二度と息を吸うことはなかった。

 ユーナは唇をかみしめて、天井を見上げた。みんな死んでしまった。建物の外で撃たれたライアンもノブオも、建物の入り口付近で撃たれたリューイチもヒロトも、そしてこの部屋にいるエマもショーも、みんな死んでしまったのだ。

 残されたのはユーナだけである。

 両親があいついで病死して、兄のユーキは任務中に流民に殺されてしまった。いつも、みんな先に死んでしまって、ユーナ一人だけが残される。

 ユーナは両手で顔を覆った。

 一人はいやだ。孤独が怖いのだ。誰かと一緒にいたい。誰かのぬくもりをいつも身近で感じながら、安心したい。なのに、みんな先に死んでしまう。まるで、神様がユーナに永遠の孤独を強制しているようだった。

 エマはショーの手を握ってこと切れたが、その顔にはおだやかな笑みが浮かんでいた。そのことが、ユーナにはうらやましい。エマに死が訪れる瞬間に、そばに大切な誰かがいてくれたのだから。

 わたしはこのまま一人で生きて、一人で死ぬの?

 そんな絶望に満ちた年月を長く生きるくらいなら、今ここで死ぬほうがマシだった。

 ユーナはあふれだす涙をこらえることができなかった。

 泣き虫ユーナ、バカユーナ。しっかりしなさい。

 ユーナは自分に言い聞かせたが、涙は止まらない。

『泣きたければ泣けばいい。泣くのはいいことだ。心の中にたまった悪いものが、涙と一緒に出ていってくれるからな』

 不意に、ミキ・ウィリアムズ隊長の言葉を思い出した。白髪をきれいになでつけた長身で凛々しい指揮官は、ユーナにとってあこがれの人物だった。

『ユーナ。誰しもが、いつか必ず死ぬ。いつまでたっても、人の死に慣れることはない。だから、泣けばいいんだ。でも、気がすむまで泣いたら、行動しろ。残念ながら、わたしたちはまだ生きている。生きている以上は、行動しなければならない』

 かつて、ミキはそう言ってユーナをはげましてくれた。

 そのミキが今、工場で戦っているのだ。ミキのためにも、ユーナは解析結果を届けなければならない。

 ユーナは涙をぬぐった。深呼吸をする。データの入ったメモリースティックは、胸ポケットに大切にしまった。床に落としていた小銃をひろい上げて、装填を確認する。

 よし。これでいい。もう十分に泣いた。行動の時だ。

 タカヤマに一台だけ残された車両に乗っていくしかないが、ユーナは自分で運転をしたことがない。それでも、見よう見まねで運転してみるしかなかった。

 とにかく、行動しなくては。

 エマとショーの遺体を見て心の中で冥福を祈ると、ユーナは部屋から走り出た。


 モップを積んだ輸送機は、工場付近を迂回して南東からタカヤマに接近していた。

 カール・シュライアーは輸送機を護衛しながら、工場のある方角たまに閃光が見えることに気がついていた。工場の近辺では、今まさに戦闘が行われている最中だということである。

 今も味方が命を賭けて戦っている。

 そう考えると、カールはすぐにでも加勢に行きたい気持ちになってしまう。しかし、その思いを、カールは飲みこんだ。チームγの任務は、モップの回収と輸送である。これが終わりさえすれば、いつでも加勢に行けるだろう。

 前方の地上にあるちいさな明かりの列が近づいてきた。タカヤマの郊外に作られた、臨時の滑走路だ。

(輸送機、タコの順に着陸。全員防護服を装備。機体の消毒後、防疫態勢をととのえろ)

 オリオからの発光信号に、カールは首をかしげる。

 防疫態勢とは、大げさな。

 機体の消毒さえ済んでしまえば、感染の危険はないはずだった。そんな大げさなことをするよりも、早く工場を攻撃中の味方に加勢しに行くべきではないのか。

 不満を感じていたカールだったが、次の発光信号を見て愕然とした。

(我、感染の兆候あり。治療薬の準備を求む)

 見間違いを疑ったが、繰りかえされた信号の内容も同じだった。カールは息を飲んだ。

 オリオが……感染だって?

いよいよ感染の兆候が明らかになったオリオ。

かつて周囲に死の恐怖を振りまいていた空の悪鬼は、おのれに忍び寄る死を前になにを思うのか。

次回、『死の影』にご期待ください。

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