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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第一章 情けは人のためならず
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不毛の荒野

 太陽は非情だ。

 雲ひとつない青空から、鋭い日ざしが褐色の大地に突き刺さっていた。かわききった地表面は、場所によって摂氏五十度にも達していた。

 容赦のない太陽から身を守るために幾重にも巻いた日よけストールをとおして、ジュンは熱くほこりっぽい空気を吸いこんだ。

 喉が灼けるようだった。

 ジュンはあえぎながら、陽炎でゆらめく景色に目をこらした。

 不毛の荒野。枯れた川の痕跡。かつては都市の一部だった瓦礫。どこまでも同じような景色が続いている。

 必死に記憶をたぐり寄せたが、幼い頃に何度か来ただけの土地である。思い出せるはずもなかった。

 ジュンは太陽の位置を確認した。おおむね正しい方向に進んでいることは、まちがいない。しかし、正確な現在地は知りようがなかった。目的地は遠ざかっていないはずだ、と自分に言い聞かせることしかできない。

 不意に、にぎっていた妻の手がすりぬける。ふり返ると、妻は乾燥した荒野に両手をついてうつむいていた。かぶっていた帽子がずれて、妻の後頭部に強烈な日ざしが突き刺さっている。ジュンは妻に近づくと、自分の体で日陰をつくってやった。

「しっかりしろ、カレン。もうすこしでヤマウチ領だ」

 カレンは荒い息をはきながら、無言で二度、ちいさくうなずいた。

 すまない。

 ジュンは心の中でカレンに詫びた。最初に『もうすこし』と言ってから、すでに半日以上が経過していた。ミヤマ領を出発してからは、もう三日目である。同行者の誰もが疲れ果てていたが、体の弱いカレンの消耗はいちじるしい。

 ジュンは自分の水筒をカレンの口に近づけた。カレンは首を横にふったが、ジュンはむりやり水を一口ふくませる。節約して飲んできた水はもう底をつきそうだったが、今の妻には水が必要だ。

 引きずるような足音をたてながら、女が近づいてきた。ミヤマ領主からのセクハラに耐えかねて脱走に加わった若い女で、名前はエリナといった。

「本当に道はこれで合っているの?」

 エリナの問いにジュンはちいさくうなずいて、行く手を指した。

「ああ。あの丘陵を越えれば、そこはもうヤマウチ領だ」

 たぶん。

「あなたの記憶にかかっているのよ。お願いね」

 エリナの言葉に、ジュンは無言でうなずいた。

 そんなことはわかっている。

 もともと、体の弱いカレンは逃避行に耐えられないと言われていた。しかし、ジュンは妻が一緒でなければ道案内はしないと言い張って、カレンをこの脱走計画に加えてもらったのだ。カレンに対してだけではなく、その他の同行者たちに対しても、目的地へ連れていく責任がジュンにはあった。

 傲慢で無慈悲なミヤマの領主に対して、ヤマウチの領主は寛大で公正な人物だという。ヤマウチ領へ行けば、地獄のような奴隷生活から解放される……そう信じて、ジュンたち八人はミヤマ領から脱走してきたのである。

 とにかく、ヤマウチ領に着きさえすればいい。ヤマウチの領主が噂ほどでなくても、ミヤマ領にいるよりはましな生活ができるはずだった。

 体の弱いカレンに、すこしでも楽な生活をさせてあげたい。

 そのためにも、前に進まなければ。

「立てるか、カレン」

 カレンの手を引いて立ち上がらせたとき、誰かが鋭く声を上げた。

「空を見ろ!」

 見上げると、雲ひとつない青空の中、ゆっくりと旋回する航空機が見えた。

 中型から大型の機影は、おそらく輸送用だろう。目をこらすと、翼に描かれたロゴマークが見えた。MYMの三文字がからまりあう赤いロゴは、ミヤマ・ホールディングスのものだった。

 ちくしょう、追っ手だ。

 ジュンは前方を指して声をふりしぼる。

「涸れ川づたいに向こうの丘陵まで行けば、身を隠す岩場もあるはずだ。急げ!」

 仲間たちが早足に進みはじめるのを見届けてから、ジュンもカレンの手を引いて歩きだした。しかし気持ちばかりがあせって、思うように足が前に出ない。カレンはつまずいて、また転んでしまった。

「……あなた。わたしはもうだめ。ここに置いていって」

「バカを言うな」

「つかまっても、わたしはミヤマ領に連れ戻されるだけよ。あなたには、みんなをヤマウチ領に連れて行く使命があるでしょう?」

 カレンの言葉に、ジュンは唇をかんだ。

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