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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第八章 どうせみんな死ぬ
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赤き奇跡

 頼むよ、ロバート。はやくなんとかしてくれ。

 トムは歯を食いしばりながら、操縦桿を倒して急降下した。頭上をアウムの機銃弾が通過していく。そのまま間髪を入れずに、左に旋回すると見せかけて右へ。どうにか機銃弾はかわせているが、アウムは執拗に追ってくる。

 もう、フェイントはやりつくした。これ以上アウムの攻撃から逃げ切る自信がトムにはなかった。

 あえぎながら急上昇する。

 そのトムの視界に、接近してくる赤いタコの姿が映った。

 オリオ! 来てくれたのか。たのむ、このアウムをはやく——。

 瞬間、機体に衝撃があった。

 機体をひねりながら逃げたが、遅かった。被弾したのだ。一発だけだったので、当たりどころが良ければ、まだ飛び続けることはできるはずだった。

 どこに当たった?

 確認したかったが、ゆっくり機体の状態を確認している余裕はない。今もなおアウムが追ってきている。

 トムは必死に機体を左へ切りかえした。

 反応がわずかに鈍い。操縦系のどこかに障害が出ているのかもしれなが、問題は軽微なようだ。

 と思っていると、また衝撃が走る。

 今度は二発。右翼の先端がちぎれ飛んだ。

 機体が右に傾くが、まだ飛び続けられる。トムは歯を息を詰めて、右旋回しながらの急降下にうつった。アウムの姿が見えなくなる。

 ふり切ったのか?

 見ると、アウムが片翼を失って墜ちていく。すこし遅れて、オリオの赤いタコが通り過ぎていった。

 オリオがやってくれたのか。助かった。

 トムはため息をつくと、機体を引き起こそうと操縦桿を引いた。

 手ごたえが、おかしい。先ほどよりも、さらに反応が悪いのだ。どれほど操縦桿を引いても、機体はわずかしか反応しなかった。

 まずい。高度が落ちている。

 機首を下に向けて右旋回を続ける状態から、機体を持ち直せない。

 だめだ、間に合わない!

 トムは墜落の恐怖で、思わず目を閉じた。


 カールが追いついた時には、すでにアウムはオリオが片づけた後だった。

 しかし、アウムから逃げ回っていたトム機の動きがおかしい。被弾して、操縦系統に問題が出ているようだ。トム機が降下を続けている。右翼の先端も失われていて、姿勢も安定しない。

 これは、墜ちるな。

 カールは苦い思いでトム機を見送ろうとした。

 ところが、オリオ機が驚きの動きを見せた。トム機を追って、降下しながらの急加速を見せたのである。オリオ機はみるみるトム機に追いつくと、可変翼を開いて逆噴射をかけ、速度を合わせた。

 まさか、空中接合?

 カールがオリオの意図に気づいた瞬間、オリオ機は不安定な右旋回急降下を続けるトム機に機体をぶつけた。

 あぶない!

 カールは息を飲んだが、オリオ機はトム機の下にきれいにもぐりこんで、トム機を支えながら機首を持ち上げていく。カールは自分の目を疑った。回転しながら急降下している機体の下部に正確に空中接合するなど、魔法でも使わなければ不可能に思える。

 しかし、オリオはそれをやってのけたのだ。

 すごすぎる……。

 カールはオリオの能力に畏怖し、思わず身震いした。

 だが、カールは新たな危険に気づいた。高度が低すぎる。トム機を支えながらの機体引き起こしには、通常よりも時間がかかるはずだった。

 間に合うのか?

 カールは息を詰めて、地表面ちかくまで降下した二機を凝視した。

 地面で砂煙が上がる。

 しかし、タコは飛び続けていた。地表近くの水平飛行から、徐々に高度を上げていく。

「やった、すごい!」

 カールは自機の操縦を忘れて、思わず手をたたいた。砂煙が上がったということは、まさに地面すれすれだったということである。魔法どころの騒ぎではない。これはもう、奇跡だった。

 カールはオリオの新たなあだ名を思いつき、一人コクピットの中で笑った。

 赤き奇跡、オリオ・ミズハラ。いいじゃないか……。

フッサに着陸した一同。

健闘を讃えあっていた操翼士たちの耳に、銃声が聞こえる。

次回『防護服にできた穴』にご期待ください。

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