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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第七章 一人じゃない
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忠誠心を証明する機会

「なんなのよ、オリオ、なんとか言ってよ!」

 イチカが言ったが、オリオは返す言葉を持ち合わせていなかった。

 なにも言えない。言う価値が自分にはない。自分は裏切り者。婚約者の一家を見捨てた男だ。オリオは感情を殺して、ただ自身を呪いながら立っていることしかできなかった。

 ツバサが邪悪な笑みを浮かべて、イチカの体をなめまわすように見た。

「こういう躾のなっていない娘は、人買いに売り飛ばすのが相応でしょうな。人としてのたしなみも、男のよろこばせ方も、しっかり教えこんでもらえることでしょう」

「ツバサさま、それはちょっと……」

 トールがツバサに声をかけた。

「ああ、そうでした。この小娘は、今回の功績に対する報奨として、トール・ザマくんにくれてやることになっていたのでしたね」

 ああ。

 すくなくともイチカが殺されるようなことはない。トールなら、そこまでイチカをひどい目にあわせることもないだろう。

 これでいいんだ。

 これでリナとリョーが戻ってきてくれれば。

 オリオは必死で自分に言い聞かせたが、まったく納得できなかった。まるで物のように扱われているイチカのことを思うと、胸が張り裂けそうだった。しかも、オリオ自身がそれに加担しているのだ。最悪だった。

 イチカの処遇を聞いて激昂し、ツバサに詰め寄ろうとしたヨージを、オリオは内心で詫びながら引き戻した。

 ヨージに、ツバサが侮蔑の表情を向ける。

「女性は、人口を増やすのに必要不可欠な道具ですからね。大切に使っていきましょう。ですが、ヨージ・イワサキ氏の奥方、名前はなんと言いましたかな。彼女はもうさすがに出産するのは難しいでしょうから、あまり苦しまないように旅立たせてあげましたよ。わたしの慈悲深さに感謝してくださいね」

 うそだ。イワサキ夫人はまだ生きていて、監禁されているだけだ。ツバサはヨージを挑発しているのだ。

 しかし、ヨージがそのことを知っているはずもない。

「呪ってやる……」

 ヨージが深い怨念のこもった声でつぶやいた。

「なにかおっしゃいましたか?」

 ツバサがヨージの声を聞き取ろうとして、近づく。ヨージは、そのツバサの顔につばをはきかけた。

「呪ってやるぞ、ツバサ・アキモト。おまえも、おまえの血族もすべて、全員が悶え苦しみながら死ね」

 ツバサは取り出したハンカチでヨージのつばをぬぐう。しかし、その表情には余裕の笑みが浮かんでいた。

「呪いとはね。なんと前近代的な。いまどきオカルトははやりませんよ。まあ、領主がそんな程度の低い人間だから、こうして身内に足をすくわれることになるのですよ。……そうだ、エリゴスこと、オリオ・ミズハラくん」

 急に呼びかけられて、オリオは困惑しながらツバサに目を向けた。

「あなたは最近になって味方に加わってくれたと聞きます。せっかくですから、ここであなたの忠誠心を証明する機会をさしあげましょう。この無礼で前近代的なクズ男、あなたのかつてのボスであるヨージ・イワサキを、この場で射殺してください」

 ちくしょう。

 どこまでやらせれば気がすむのか。

「まさか、オリオ。おまえはそんなことはしないよな?」

 ヨージがおびえた表情でオリオを見た。

 ちくしょう、ちくしょう。

 そんな目でおれを見るな。

「だめよ、オリオ。お願い。やめて」

 イチカの悲痛な声に、オリオの心はかき乱された。

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!

 許してくれとは言わない、一生恨まれても構わない。

 ただ、すまない、イチカ。

 リナとリョーのためには、こうするしかないんだ。

 オリオは小銃を構えるとヨージの頭に狙いをつけ、撃った。

 地面に飛び散ったヨージの脳のかけらを見て、イチカが悲鳴をあげる。オリオは耳をふさぎたかったが、自分にはイチカの悲鳴も怨嗟の声も、そのすべてをきちんと聞く義務があると思った。

婚約者の眼前で、その父親を撃ち殺したオリオ。

進む道がイバラの道であっても、もはや引き返すことなどできるはずもない。

次回、『激怒』でオリオはさらなる地獄へと足を踏み入れる。

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