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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第六章 死ぬより悪いこと
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命の価値

「二人に突破された! ヒカリ、頼む!」

 頼むって言われても……。

 ヒカリは展開のはやさに戸惑いながら、銃を構えなおした。走っている標的が狙いにくくて、すでに六発もはずしているのだ。今度こそ、当てなければ。

 ヒカリは引き金を引きしぼった。ケニチの横を突破してきた一人に命中して、倒れる。

 やっと、一人。

 しかし、弾倉が空になってしまった。弾倉を交換しなければならない。

 みるみるうちに、流民の男が迫ってくる。

 やだ、やだ、ちょっと待って、お願い……。

 ようやくヒカリが弾倉を交換し終えたときには、流民の男が間近に迫っていた。男は手にした棍棒のような武器をふりかぶる。ヒカリが銃口を流民に向けた瞬間、その棍棒がふりおろされた。ヒカリの目の前で、なにかがはじけた。

 気がつくと、ヒカリは地面に仰向けに横たわっていた。

 表情のない流民の男が、ヒカリに馬乗りになって棍棒をふりあげていた。

 はやく撃たなきゃ……。

 小銃を男に向けようとしたが、腕に力が入らない。

 ヒカリは、不意に悟った。

 ああ。わたし、ここで死ぬんだ……。

 ヒカリは先に逝ったノブのことを思いながら、静かに目を閉じた。すこし前まではひどく怯えていたのに、不思議ともう怖くはなかった。


 ケニチがようやく流民を片づけたときには、流民がヒカリの頭にくり返し棍棒を振りおろしているところだった。

「ヒカリ!」

 ケニチは叫んだが、ヒカリはもう動かない。流民はヒカリが持っていた小銃を取りあげて、ソーマとリツカがいる方向に向ける。

 ケニチは必死で走ったが、とても間に合わない。

「やめろぉっ!」

 ケニチの絶叫が谷筋にこだました。


 シオンは、トムともみあっている最後の一人を、どうにか仕留めた。これで右から攻めてきた全員を片づけたことになる。

 しかし、トムが動かない。

 シオンはあわてて駆け寄った。トムにのしかかるようになって事切れている流民の体をどかすと、その下からトムの顔が見えた。

 トムは、泣いていた。

「ケガ、したの?」

 シオンの問いかけに、トムは首を横にふった。ただ怯えているだけのようだ。トムはもともとアサオ家の操翼士である。こういう地上での戦いの経験は、あまりないのだ。実際、右から攻めてきた敵は、五人全員をシオンが倒した。トムは小銃を無駄撃ちしただけで、実際にはなにもできなかった。

 不慣れな地上戦で流民に襲われ、殺されかける。それは怯えるはずだ。

 シオンはすこしトムに同情したが、のんびりしている暇はない。

「立って。まだ戦闘は続いてる」

「……ああ……すまない。ありがとう……」

 トムの手を引いて立ち上がらせたところで、シオンはケニチが絶叫する声を聞いた。

「やめろぉっ!」


 クロードは後方に陣取り、まず最初に弓使いを撃ち倒した。ほかに飛び道具を持っている流民はいないようなので、これで戦況はずっと楽になった。

 とは言え、それでも敵の数は多い。オリオはノリコの小銃を撃ちつくして投げ捨て、スタンロッドを構えた。殺到する流民たちを、オリオはスタンロッドをたくみに操って昏倒させていく。クロードはオリオの死角から近づく流民を撃ち倒していった。

 連携は悪くない。しかし、オリオはじわじわと後退させられていた。

 流民がクロードにも接近してくる。

 オリオの援護よりも自分の身を守ることを優先せざるをえない状況になってきた。オリオとクロードの二人で敵の半分以上は倒したはずだが、敵はまだ攻撃をやめるつもりはないようだ。

 次の瞬間、クロードはケニチの絶叫を耳にした。

「やめろぉっ!」

 その絶望に満ちた声音から、クロードは即座に状況を察した。中央が危ないのだ。

 クロードは瞬時に決断をした。

 ふり返って、ソーマたちに小銃を向けている流民に狙いを定める。流民は銃の扱いに慣れていないようで、もたついている。その隙に、クロードは撃った。クロードの放った銃弾が、流民の頭を正確に撃ち抜く。

「クロード、うしろだ!」

 オリオの声が聞こえる。

 もちろん、わかっていた。ふり返って狙撃すれば、自分の身が危なくなることくらいは。

 だが、先の戦闘でクロードを守るために命を張ってくれたソーマを、クロードは死なせたくなかったのだ。

 この混成チームの要はソーマだ。誰もがソーマを支えたいという思いで行動している。この場合、残念ながら命の価値は同じではない。ソーマの命はクロードの命より重いのだ。

 クロードは微笑んで、背後から迫る自身の運命を受け入れた。

戦闘は終わり、傷跡だけが残る。

それでも、前進することだけが、唯一の道だった。

次回『夜明け』にご期待ください。

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