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操翼士オリオ 〜 Another Mission 〜  作者: 滝澤真実
第一章 情けは人のためならず
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伝説の黒騎士

 周囲にいた流民を追い払ってくれた黒いタコが、ゆっくりと着陸する。何度見ても、ほれぼれするほどなめらかな操縦だった。黒いタコから降りてきたのは、三十歳すぎの無表情な大男である。

「遅いぞ、オリオ」

 ケニチが声をかけると、大男はわずかに肩をすくめた。

「おまえの活躍の場を作ってやった。感謝してくれ、ケニチ」

 よく言うぜ。

 ケニチは笑い、オリオの肩を抱いた。

「そりゃあどうも。いくら俺が幸運の女神に愛されているからと言っても、残弾ありのアウム相手にタコの支援なしで戦うのは、これっきりにしてもらいたいね。おかげでこっちは死にかけた」

「死にかけにしては元気そうだ。だが、あっちの男はちょっと具合が悪そうだな」

 オリオが、負傷したミヤマの兵隊を指した。

「おまえのタコは二人乗りだよな。あいつをまず連れ帰って治療してやってくれ。伝説の黒騎士のタコに同乗できるなんて、一生の自慢になるだろうな」

 ケニチの言葉に、オリオが感情にとぼしい声で言った。

「その呼び名は好きじゃない」

「おまえがどう思おうが、人はおまえを黒騎士と呼ぶのさ。タコをピンク色に塗って、いつもにこやかに笑っていれば、派手派手ハッピー野郎と呼んでもらえるかもな」

 オリオは鼻を鳴らしてなにか文句を言おうとしたが、不意に顔を北の空へ向けた。

「レオの輸送機が来た。おれは先にケガ人を運んでいこう」

 ケニチは空を見たが、なかなか輸送機を見つけられない。ようやく見つけられたときには、すでにオリオは負傷者を自分のタコに乗せているところだった。

 まったくどういう目をしているんだか。

 もっとも、他人には見えないものが見えるからこそ、オリオは特別な操翼士と呼ばれるのだが。


 帰ってきた!

 リツカは南向きの窓から黒いタコを見つけると、自室を飛びだした。

 オリオの着陸を間近で見るために、駐機場まで走る。オリオの操縦には無駄がなく、とても美しいのだ。いつか自分もあんなふうに操縦できるようになりたい。それがリツカの夢だった。

 駐機場横の滑走路に近づいてくるタコを見て、リツカは首をひねった。いつもよりも、噴射エンジンをふかしている。

 今日のタコは、ちょっと重そうだ。

 誰かを運んでいるのだ。わざわざオリオのタコに乗せてくるということは、負傷者にちがいない。

 リツカは駐機場の壁に取り付けられた通話機を手にした。

「はい」

 エミリの声が聞こえてくる。

「医療チームを駐機場に呼んで、エミリ」

「すぐに向かわせます。それよりもお嬢さま。どうしてお嬢さまがそんな場所で、そんな指示を出していらっしゃるのですか?」

「オリオがケガ人を運んできたの!」

「答えになっていません、わたくしは旦那さまからお嬢さまが――」

 リツカは通話機を置いて、心の中で詫びた。

 ごめんね、エミリ。

 エミリはヤマウチ家の家宰ロボットである。ロボットだけあってエミリは融通がきかず、とにかく口うるさい。でも、頼んだことはちゃんとやってくれる、頼りになるロボットだった。

 リツカは滑走路の横まで出る。ふわりと着陸した黒いタコが、減速しながらリツカの目の前まで来て止まった。

 後部席に見たことのない男が座っている。やはり、ケガ人を運んできたのだ。

 操縦席から降りてきたオリオに、リツカは手をふった。

「オリオ!」

「こんなところにいると、また叱られますよ」

 渋い顔でオリオは言ったが、どこかで面白がっているようでもあった。

「医療チームを呼んでおいたわ。うしろの人、ケガをしているのでしょう?」

「さすが、お嬢さまは実に勘がいい。助かります」

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