魅力的なプラン
「あれは、ロボットの目?」
「おそらく、そうでしょう。注意してください」
リツカとオリオのやりとりを聞きながら、ケニチは小銃のねらいをさだめた。
ロボットは充電式なので、電源が落ちて久しい工場に稼働中のロボットがいる可能性はほとんどない。外部から入りこんできたものと考えて間違いないだろう。となれば、通常の応答プロトコルが使えるはずだった。
「ロボット! 型番と所属および名称を答えろ」
ケニチは、暗闇の中のロボットに向かって問いかけた。
「わたしはSNロボティクスD21型、ヤマウチ家所属の家宰ロボット、エミリです。その声はケニチですね」
エミリ。ソーマから聞いた話では、土砂崩れに巻きこまれてしまったということだったが、無事だったのか。
ケニチはほっとして小銃を下げる。
「エミリ!」
リツカがエミリに向かって駆けだした。
「リツカお嬢さま。ご無事でなによりです。みなさんもご無事なのでしょうか? あいにく土砂崩れの影響で視覚センサーに障害が出ており、暗がりの中ではよく見えないのです。ソーマさまもご無事で?」
エミリの言葉にソーマが応じる。
「ああ、わたしはここだ。また会えてうれしいよ、エミリ。ここまでたどりついた経緯を報告してくれないか?」
「はい、ソーマさま。土砂崩れに巻きこまれた後、土砂の下からヒカリを救出しました。地盤が不安定な様子でしたので、土砂崩れによって露出したこの工場に退避しました。外に出るのは危険と判断して工場内を移動中、オリオの声を検知しましたので、合流すべくここまで来たしだいです」
ケニチは驚いた。
「ヒカリ? ヒカリが生きているのか?」
近づいてライトで照らすと、エミリの背後からヒカリが姿をあらわした。憔悴してうなだれているが、体は元気そうだ。
「……隊長……すみません、ノブは……」
ヒカリがしぼり出すように言った。
ノブは、だめだったか。
ケニチは無念さをかみしめた。しかし、土砂崩れの話を聞いて二人の死を覚悟していた身としては、ヒカリだけでも無事だったことは非常にうれしい。
ノリコがヒカリに駆け寄って、肩を抱き寄せている。ケニチは二人に近づき、ヒカリの背中をたたいた。
「なにも言わなくていい、ヒカリ。おまえが生きていてくれて、本当によかった」
感動の再会、か。
ゴーは冷めた思いでその様子を眺めていた。まあ、人ってやつは、死んでいるよりも生きているほうが使えるのは間違いない。
いや、それよりも、だ。
ゴーはエミリを見据えた。
アサオ家の攻撃部隊を率いていたヒサシ・クロイの言葉が思い出される。ヤマウチ家が愛用している、骨董品の家宰ロボットについての話だった。名前はエミリ。古いモデルで制御システムに脆弱性が残ったままになっている。以前、避難民に偽装してヤマウチ屋敷に滞在したアサオ家の工作員が、その脆弱性を突いてマジック・ワードを設定したのだという。
そのマジック・ワードを使えば、エミリを意のままに従わせることができる。
エミリを使ってソーマかリツカを人質にして、ケニチやオリオに言うことをきかせる手もあるだろう。しかし、ゴーの頭の中には、もっと魅力的なプランが浮かんでいた。
工場の制御システムを上書きして、このアウム工場そのものをゴーのものにするのだ。
この規模の工場を支配できたら、どれだけのことができるだろうか。
ゴーはその未来を想像して、口元がゆるむのを止められなかった。
しかし、エミリのシステムが古すぎると、工場の制御システムの書き換えには使えない。まずは、それが可能かどうかをたしかめる必要がある。
事は慎重に進めなければ。
ゴーは気持ちを引きしめなおした。とにかく、エミリと接触するのが第一歩である。
ゴーはソーマやリツカと言葉を交わしているエミリを凝視した。
工場内で、一行は目を疑うような場所にたどり着いた。
そこで、とうとうゴーの悪意に満ちた企みが動きはじめる。
次回、『巨大倉庫』にご期待ください。




