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お着替えは見せるものではありません

 基本的に、毎朝起きるが早いのは私の方です。

 簡単な理由として、朝食を作らねばならない事が理由の一つです。もう一つは……。


「……ん」


 ロルフ様が寝返りを打ちますが、まだ起きた様子はありません。先程のも寝言でしょう。

 その事実にほっとしつつ、私はなるべく音を立てないようにして寝間着を脱ぐのです。


 もう一つの理由なのですが、着替えをなるべく見られないようにする為です。


 ロルフ様が傷を見ても気味悪がらないというのは分かっているのですが、羞恥心というものが私にもあります。寧ろ人より強いと思っております。


 当然、夫婦とはいえ肌を見せるなど恥ずかしいです。その、身も心も結ばれた訳ではなく、あくまでこれから知っていけたら、という状態ですし。

 ……ロルフ様は多分、女性の体に興味ないでしょうけど、それでも見られるのは恥ずかしいといいますか。


 兎に角、見られないに越した事はないのです。


 起きない内に、と寝間着を脱ごうとするのですが、ボタンを外すのがかなり手間取るのですよね。

 どうしても傷を隠そうと思ったら首元まで隠れるものを選びがちですし、そうなるとボタンで留めるものが多くなってしまいますので。


 ぷちぷち、とボタンを弾いて脱いでいく、この作業にも地味に時間がかかるので困り者です。

 ……そろそろ、新しい寝間着でも買うべきでしょうか? もう、私はロルフ様の前で傷を気にしなくても良いのですし。


 また街に見に行こうか、なんて考えながら寝間着を脱ぎ、ブラウスを手に取った所で……私が発した訳ではない衣擦れの音。


「……エル?」


 あ、と固まってしまいます。

 ロルフ様の視線は、私に向けられていて。


「……っみ、見ないで下さいロルフ様!」


 慌てて背を向けるものの、背中にロルフ様の視線が突き刺さっているのは分かります。

 決していやらしいものではないと分かっているのですが、見られる事が恥ずかしいのには変わりません。


 髪を下ろしているとはいえ、腿の辺りなんて丸見えでしょう。胴体を晒すのは以ての他ですが、脚を晒すのも淑女としてはあるまじき行為です。

 いえ、夫婦ですけども!


「別に隠す必要などないと思うが」

「大有りです、恥ずかしいでしょう!」

「そんなに恥ずかしいか?」


 あのですね、女性の裸と男性の裸では羞恥が違うと思うのです。というか私はロルフ様の裸を見たら物凄く恥ずかしいです、普段から顔を背けるか場所移動してるというのに……。


 兎に角見ないで下さい、と掠れた声で訴えて急いでブラウスを着ていく私に、ロルフ様が困惑したような雰囲気を背中からも感じます。


「別にエルは女性らしい体つきをしているから恥じる事はないと思うのだが。抱いていてふかふかして気持ちいいし」

「ロルフ様!」


 なんで今そういう事を言うのですか!


 半身だけロルフ様に振り返って涙目の視線を送ると途端におろおろしだすロルフ様。

 素早くスカートを来て衣服を整えるものの、見られてしまった事には変わりがありません。……別にロルフ様は何とも思っていないのは、分かっておりますが。


「あのですね、ロルフ様。女性は着替えを見る事を恥じらうのです」

「夫婦なのに隠す必要があるのか?」

「大有りです!」

「別に傷が見えても気にしないのだが……」

「傷じゃなくて肌を見られるのが恥ずかしいのですっ」


 傷がある以前に自慢出来るような体つきではありませんし、とても人にお見せできるものではありません。


 その、ロルフ様が自ら夫婦として見たいとか言うなら、従いますけども。

 でも今のロルフ様は愛とか恋を知らないそうなので、まだまだ先のようにも思えます。あと私が覚悟出来ていませんし。


 自分の体を抱き締めて唸る私に、ロルフ様は相変わらず不思議そうです。


「綺麗な肌だから問題ないぞ。お前は外に出ないから全く日焼けしていないな、それはそれで綺麗だがもう少し焼けた方が健康的ではないか? それに腿も細すぎるから、もう少し肉を」

「どこ見てるんですかロルフ様っ!」


 やっぱり見てたんですね!?

 うう、これではお嫁に行けな……い前に嫁いでますけど、それでも夫婦にも礼節と正しい距離感が必要だと思うのです。着替えをじろじろ見られるのは困ります。

 たとえ性的な興味はなくても、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。


 ロルフ様のばか、と真っ赤になった顔を押さえて呟き、私はロルフ様を置いて部屋を出ていく事にしました。


 恥ずかしくて朝食時も目が合わせられなかったのですが、ロルフ様が悄気てしまって、結局いつものようにくっつかれるのですけども。

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