奥様のお出迎え
(時系列としては書籍の後のお話です。書籍を読まなくても読むのに差し支えはありません)
「ろ、ロルフ様、お帰りなさい」
「ああ、ただいま、エル」
帰宅したロルフ様をお迎えすると、最初の頃と比べて随分と柔らかくなった表情なロルフ様が、私を見返します。その優しい微笑みは、結婚当初からは考えられない程、親愛に満ちていました。
傷を見せてからも、ロルフ様の態度は変わりません。いえ、寧ろ軟化したくらいです。……受け入れてくださったのだと思うと、胸がじわりと熱を持つ。
ただ、そんなロルフ様は私をじっと見て、ちょっぴり不満そうな顔に。
「……今日はしないのか?」
「え?」
「出迎えの抱擁。するんじゃなかったのか?」
ほら、と腕を広げて待ち構えるロルフ様に、逡巡する私。ロルフ様は「……しないのか?」と寂しそうに呟くものだから、ほんのりと恥ずかしさを覚えながらもロルフ様に抱きつきます。
私を抱き締めてご満悦そうな顔のロルフ様に、喜ぶよりも気恥ずかしさが先立ちます。……そんな顔をしてくれるのは勿論嬉しいのですが、その、ロルフ様は偶に……大胆すぎて。
うぅ、と顔をゆだらせつつロルフ様を見上げる私。ロルフ様は、そんな私に満足げに笑って……そうだ、と思い付いたように瞳を輝かせ。
そのまま、私の頬に、唇を寄せます。
びき、と固まってしまった私に、ロルフ様は悪戯っぽい笑みを向けてくるのです。
「帰宅した時するものではなかったか? マルクスに教わったのだが」
「何て事を教えてるんですかマルクスさん……!」
「エルはしないのか?」
「しません!」
そ、そんな事、恥ずかしくて出来ません。ロルフ様は、その、分かってないというか、愛とかを理解する為にも積極的にしてくれてるのかもしれませんけど!
……いつものクリームシチューのおねだりがめじゃないくらいに、どきどき、します。ロルフ様が、受け入れてくださった日から、態度が一層優しくて甘いから、心臓に悪い。
残念そうなロルフ様の胸にぐりぐりと額を押し付けて羞恥を発散する私に、ロルフ様は何故か嬉しそうに私を抱き締め返しました。
「こういうのを照れ隠しと言うんだろう?」
「……ロルフ様が悪いんです」
嬉しいけど、恥ずかしくて仕方がない。
「きょ、今日はクリームシチューですからね、ロルフ様」
火照った頬を何とかしようと、話題をそらす為に晩御飯の話題を出すと、ロルフ様は相好を崩してまた頬に口付けを……。
「な、なんで、」
「ん? そういえば前回のおねだりの時はしてなかったから、今礼も兼ねてしておこうと思って。嫌か?」
「い、嫌だなんて、ひ、一言も」
「なら安心して出来るな」
さらっとまだまだする発言をしたロルフ様に、少しくらりと眩暈がしたものの、それが嬉しいと思う私が居て。
けどそれを口に出せば、無邪気に際限なくするだろうから、私は唇をぎゅっと閉じて耐えるようにロルフ様の胸に顔を埋めました。