休日の午睡
三人称です。時系列は本編中盤くらい?
「……エル?」
休日の日も研究に明け暮れていたロルフは、自室……正しくはエルネスタの寝室に戻ると、ベッドに横になっている妻の姿を見付けた。
まだ、日も明るい。偶々手持ち無沙汰になって部屋戻っただけなので、まだまだ休みは半ばと言える。
そんな中、本当に珍しい事に、エルネスタはすやすやと寝息を立てていた。
体調は悪そうという訳ではなく、ただ安らかな寝顔を無防備に晒しており、実に幸せそうに午睡を味わっている。
普段なら休みのこの時間帯だとロルフの研究を手伝うか、家事をするか、若しくは刺繍をしている時間。だからこそお昼寝しているという事に、ロルフは大層驚いた。
自分より四つも年下の、まだ成人してそうは経っていない少女。それでも家の為に尽くし、その上ロルフにも惜しみなく尽力する、心優しい妻。
疲れているのか、ロルフが隣に腰掛けても起きる気配はない。
明るい場所で見る寝顔は、いつもよりも幼いもの。きめ細やかな肌を撫でると心地良さそうに頬を緩める。
……そんな寝顔に、胸がふわりと柔らかな温もりに包まれたような感覚を抱いたロルフもまた、エルネスタと同じように頬を緩めた。
ロルフにとって、別に美醜などさして気にする問題でもないし、そもそも女に興味がないと思っていたが……どうやら、エルネスタ限定でそうではないらしい。
自分と違う小さくて柔らかい肢体、ほんのりと香る甘い香り。長い睫毛にふっくらとした唇、白い肌。
あれだけ気にならなかったのに、今のロルフには、随分と興味をそそられるものと化していた。
それは、エルネスタだから、なのだろう。
エルネスタだから、という理由でしか考えられない。……何故エルネスタに触れたいと思ったか、そこまではまだ分からなかったが。
「ん……ろるふ、さまぁ」
自分でも理解しきれない感情が胸の端から焦がそうとしているロルフの名を、甘い声が呼ぶ。
びくりと体を震わせ妻を窺うと、エルネスタはまだ夢の中に居る。むにゃむにゃ、と幸せそうな寝顔を見せていた。ただの寝言だったらしい。
分からない感情が、また胸の中で湧き上がる。
「……これは何だろうな、エル」
問い掛けても、返事は来ない。
けれど、決して、悪いものではない。それだけは無意識に理解していて、ロルフの表情を和らげている。
指先で滑らかな頬を撫でて、どうせならとロルフも横になって、お休み中のエルネスタを抱き締めた。
腕の中では、心なしかより心地良さそうな寝顔に変わるエルネスタ。
妻の表情に満足したロルフは、そのまま一緒に寝る事にしてやった。きっと起きたら慌てて顔を赤らめるだろう、そんな気がする。……悪くない。
起きた後の事を考えてほくそ笑んだロルフは、瞳を閉じてエルネスタと同じ夢の世界に足を踏み入れる事にした。
エルネスタが起きて予想通りに慌てふためくまで、あと一時間。