1話 極東から来た青年
グランパニア東部にある港町アクアリーブ。貿易の要となるこの町には様々な物資が行き交い、様々な人種が闊歩している。
そこに隣国にあたるフロース王国から小舟で海を渡って来た男がいた。
姓はナガソネ名はコテツ、歳の頃は二十前後、極東の島国の民族衣装を身に纏い、腰にはその島国特有の剣がぶら下がっている。
すぐに着くだろうと航海を舐めきっていたため、日除けもない小舟で満足に食料も積まなかったが、奇跡的にも嵐や海の魔獣、海賊などに遭遇することなく、無事に渡ってこれた。
船酔いや空腹、孤独でほぼ寝ていたが、一週間の航海を終えアクアリーブに上陸すると嬉しさのあまり。
「着いたぁ!グランパニア!」
と叫んでしまう。
そんなコテツを町行く人々は白い目で見るが、空気を読めない彼は無関心に歩き出す。
船酔いもだいぶ回復し、先ほど入手した干し肉を取り出してつまむ。大陸横断中に得た情報だとこの国に探している人物がいるはずだ。
コテツが食べ歩きながら情報整理をしている頃、どこからかガシャンガシャンと音が聞こえる。
音の正体は鎧、全身を鎧で包んでいるため肌の露出はなく、唯一兜に空いている隙間からは青い瞳が覗いている。
その厳つい鎧の持ち主は子供だった。恐らく歳は12歳くらいだろう、身長は150㎝にも満たず、小さな身体に不釣り合いな物を装備しているせいか足取りが覚束ない。
奇異な目を向けながら、通行人は道を開ける。
しばらく歩くと鎧の主は干し肉をつまみながらブツブツと独り言を言っている男・コテツを見つけ、まっすぐ突っ込んだ。考え事しているのかこちらに気付かないまま、ドンと肩と腕ぶつかる。
「貴様ぁっ!どこを見て歩いている!」
「お、おぅ、わるい。」(なんだこのガキ七五三か?大層な鎧着てんな。)
鎧の主は剣の柄を握り
「騎士にぶつかって謝ってで済むと思っているのか?!そこになおれ、叩き切ってやる!」
「ぶつかっただけで?!」
「と言いたいところだがわたしも鬼ではない。」
手にした柄を離すと、コテツが手に持っている物を指差し、
「貴様が今食べている物を私にくれたら、命だけは助けてやろう。」
ぐぎゅるるる〜。盛大な腹の音がアクアリーブの町に響いた。
アクアリーブの中央広場。広場の真ん中には噴水が設置されてあり、待ち合わせなどによく利用されている。
二人は広場へと降りる階段に腰掛け、食事をしていた。
「かたじけない。本当にこんなにもらっていいのか?」
「気にすんな、どうせ貰い物だ。」
「礼を言うぞ。えっと…」
「あぁ、俺はコテツだ。」
「うむ、そうか。私はクレア・クウラだ、よろしく。」
そう言うと、兜の口の部分を外し、貰った干し肉を頬張る。
コテツはじっとクレアを見る。
「モニュモニュ、ぼうかひたのか?」
「飯を食う時くらい兜外さないの?」
口の中の物を飲み込むと、兜触り。
「うむ、これか。外したいのは山々だが何度チャレンジしても脱げないのだ。部分的には外せるから食事や排泄には困らないがな。」
今の話を聞いて一つの結論に達する。
「いや、お前それ呪われてるだろ。」
「なっ呪われてなどおるか!この鎧は父上から独り立ちの餞別に銅貨10枚で買って貰った由緒ある鎧なのだ!本来なら金貨10枚の所を防具屋のおっちゃんが割り引いてくれたのだ!」
「それはきっと曰く付きだから引き取って欲しかったんだな。」
「もう良い、貴公にはこの鎧の価値がわからないようだ。」
クレアは何度言ってもわからないという風にため息を吐く。
「ところで貴公、この辺では見かけない格好をしているな。異国の者か?」
「ああ、ジパングってとこから来たんだ。大陸をずっと東に渡ってさらに船を漕いだ所にある極東の島国だ。この服はジパングの民族衣装ってとこだな」
「ほぅ…で、これもそのジパングの剣か?」
クレアはコテツの腰に下げてある剣をこっそり抜いて眺めていた。
「そうそう、それはニホントウって剣で…ってお前何勝手に抜いてんの?危ねぇからかえせよ!」
「見るくらい良いではないか減るものではなし」
「ばっ、危ねぇ!振り回すんじゃねぇ!」
コテツは剣を取り戻し鞘に戻す。
「所でお前この剣を持った時何か感じなかったか?」
「?何がだ?」
「いや、なんでもない、気にすんな」
「それにしても随分と細い剣だな」
「このニホントウは切る事に特化した剣だ。大陸は鎧が発展してるからな。切るよりも叩く事をメインにしてるからこいつに比べたら大きいし丈夫に見えるけどよ、ニホントウは二種類の鋼を使ってるから、折れにくいんだぜ?物によるが鉄をも切る事も出来る。」「なるほど、すごい剣なのだな。だが私の剣も負けてはいないぞ。」
そう言うとクレアは自分の剣を抜き、自慢するように掲げた。
「この剣はな、3日前父上に買って貰った…伝説の聖剣エクスカリバーだ!」
「伝説の聖剣買えるの!?」
コテツは視界に入った武器屋を指差し、
「その剣、もしかしてあそこで買ったのか?」
「うむ、そうだ。よく分かったな」
コテツがさした武器屋の店頭にはクレアと同じ剣が並べられ、グランパニアの文字で『あのエクスカリバーが金貨100枚のところ銅貨20枚で販売!エクスカリバーを装備して伝説の勇者になろう!』と売り文句が書かれた看板が置かれてあった。
「ところで、なぜコテツはそのジパングという国からこのグランパニアまで来たのだ?」
「ああ、強い剣士を探しにな。おまえ知ってるか?この国で一番強い剣士の事」
「うむ、知っているぞ」
その言葉を聞いてコテツは目を輝かせる。
「このグランパニア1の剣士。その名は"ソード"だ」