プロローグ
そこは広い海の上、一隻の大きな軍艦が海原を突っ切っていた。
マストの先には太陽と槍を模したグランパニア王国の国旗が揺らめいている。
軍艦の船首には煌びやかな鎧を纏った男が立ち、進路方向を睨んでいた。
「ソード様此度の助太刀感謝致します。」
ソードと呼ばれた男が顔だけ振り向くと、軍服を着た恰幅のいいスキンヘッドの男が近づいて来た。
ソードは一瞥するとすぐに視線を戻し、
「艦長か、ふんっ、全くこれっきりにして貰いたいものだ。たかが賊の殲滅にこの俺に助けを求めるなど、グランパニア海軍の名が泣くぞ。」
艦長は見てないと思い、苦虫を潰した顔をする。
自分より歳の若い若僧にいいように言われても言い返す事が出来ない…
このグランパニア海域を縄張りにする海賊どもに手を焼いているのも事実だが、ソードと呼ばれるこの男は歴史ある王宮騎士団の将軍の一人で侯爵の爵位まであり、造船技術の向上で他国や海賊の牽制のために新設された海軍よりも完全に地位も名誉上に当たる。
なのでこの艦長に出来るのはソードから見えないように中指を立てることぐらいだ。
「ところでソード様、自分はてっきり1部隊引き連れて来ていただけると思っていたんですが…」
「艦長!バルサ島が見えました。」
見張りの乗組員が叫ぶ。
「ようし野郎ども!戦闘準備だ!警戒を怠るなよ!」
海賊が潜伏していると情報のあった島が見えた事で身が引き締まる。
ソードは身を翻し、
「部下はこの後に控えてあるゲナン王国との戦争の準備で忙しい。それに…」
艦長の横を通りすぎるとキン…と鍔鳴り音が聞こえ、艦長のズボンがパサリと落ちた。
「たかが海賊、俺一人で十分だ。」
(いつ切られた?まったく見えへんかった…)
丸出しの物を隠しながら切られたベルトの代わりを探していると
「艦長!4時の方向に怪しい小舟を発見!」
「どうした?海賊か?」
「分かりません!ただ見たこともない怪しい格好した男が乗ってます!」
艦長も懐から望遠鏡を出す。
その小舟に乗っているのは、歳は二十歳前後の男、極東の島国の民族衣装を着て、荷物を枕にして寝ていた。
「あの進路はグランパニアに向かってるな。東の方の国の移民か?まぁぶつかりそうもないし、放っておいても大丈夫だろう。」
軍艦と小舟は交わる事なくすれ違おうとしていた…