表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3.史上最少の要塞島攻略作戦

 海に浮かぶ巨大なアイロン台。それを航空母艦と呼ぶ。空母は戦争の帰趨を決する戦略兵器である。

 エスコートの巡洋艦と駆逐艦に守られた空母「エンタープライズ」「ホーネット」を中核とする第16任務部隊(TF16)を指揮するウィリアム・F・ハルゼーは、粗野な言葉づかいをするがボンクラでは提督が勤まらない。猪突猛進に見えても繊細な状況判断が伴っていた。

 マーシャル諸島やギルバート諸島を空母で散々荒らし回り嫌がらせをしたのも反撃準備が整うまで消耗させる片手間作業だった。今回はその延長と言えるが、博打の要素もあった。

 日本本土と言うハイリスク、味方の戦意高揚や諸外国への宣伝、その他諸々のハイリターン。勝てば良い。だが負ければ失う物も大きい。だから願った。

(ここまで順調に来たんだ。このまま無事に終わってくれよ)

 他人の不幸は蜜の味で自分の栄達に繋がるが、ここでミスをすれば自分の椅子が他人の物になるだけだ。

 日本本土に近づくに伴い哨戒網は濃密になる。現に漁船を利用した特設監視艇がうようよと遊弋していた。

「死ね劣等人種のごみ屑野郎が、俺達の邪魔をするんじゃねえ!」

 自分達より下だと思う者に敬意を払う者は居ない。ただし、人を見下しているといつか手痛いしっぺ返しを食らう場合がある。それが過信と油断だ。

 ハルゼーは大事の前の小事と油断はしなかった。

 目撃者は消す。無電を発する前の撃沈は口封じで当然だった。面倒くさいから皆沈めた訳ではない。

「やれやれだな」

 空母「ホーネット」からドゥーリットル中佐の爆撃隊が飛び立った時は肩の荷を下ろした気になった。

 空母のような大型艦は貴重な資材や時間を浪費して建造される。

「俺帰ったら結婚するんだ」

「ははは、お前みたいな不細工はお断りされるさ」

 水兵の会話を小耳に挟みハルゼーは笑みを浮かべた。

 乗員や搭乗員の育成もただではない。陸軍のお守りで貴重な空母を危険に晒す事は避けたかった。

(ともかくはこれで送り届ける仕事は終わった。後はあいつらの仕事だ)

 TF16は母港に帰還するだけだ。海域から離脱を指示しようとしたその時、ハルゼーは白鯨を見た。


     †


 ドゥーリットルはロケット戦闘機によって次々と叩き落とされる僚機の姿を見て正気を失った。99式空対空誘導弾が汚い花火の華を開く。

「これは素晴らしい事だ。受け入れろ」

 ぎょっとする搭乗員達は指揮官を取り押さえる。

「ボス、しっかりして下さいよ!」

 肩を揺さぶられたがドゥーリットルの意識は虹の彼方へ飛んで行ったままだ。空想の中でじゃれつく愛犬を相手していた。

 兵士は死に様を問われるが、これでは犬死にだった。

「神を讃えよ! これは神罰である。贖罪するのだ、悔い改めよ」

 神頼みに逃げた気持ち悪い上官の相手をしてる余裕はすぐに無くなった。

 アメリカは越えてはいけない線を越えた。黄色人種は猿だと見なし、市民を巻き添えにする事も厭わなかった。戦闘参加にあたって高山は全乗員に対して「市民の虐殺は断じて許しがたい。かくなる上は、この時代で死に花を咲かせよう」と訓示した。

 人類史上最強の超大国、アメリカ合衆国を相手に戦争をするのに手段を選んではいられない。

 未来のアメリカが開発したF-22戦闘機を装備した自衛隊は、容赦なくドゥーリットルの特攻隊を壊滅させた。「大和」の装備する艦対空ミサイル、シースパローを使うまでも無かった。

 後は艦隊を叩くだけだ。

 砲撃戦、雷撃戦を想定したこの時代の軍艦は装甲の厚みが防御力と言える。最大の脅威となる戦艦はここにいない。そこに勝機があった。

「合戦準備、第二形態移行!」高山の号令で「大和」の飛行甲板が収納されて、54口径5インチ単装砲がずらりと現れた。モジュール交換による戦艦形態で、砲雷科の腕の見せどころである。

 決着を着けるべく反航戦の態勢に入った。「撃ちぃ方始めぇ」と号令がかかる。

 先頭に居た軽巡「ナッシュビル」は火だるまになった。

 5インチとは言っても初速が毎秒807メートルの弾を雨のように浴びせられれば、巡洋艦でもひとたまりもない。しかも100発100中だ。幾らタフでもボディーブローを何発も喰らえばダウンする。

 ノーザンプトン級重巡のネームシップである「ノーザンプトン」は自慢の55口径8インチ3連装砲を振るう前に沈黙させられた。

 駆逐艦はもっと悲惨だ。トマホークの直撃で片っ端から戦闘・航行不能にさせられている。グリーブス級やポーター級、ベンハム級の区別無く屑鉄に変えられた。

 本来「大和」はここまでの個艦性能は求められていなかったが、ミリオタとして平賀博士の本領が発揮された設計である。平賀博士は「うはは、70年の怨み思い知るが良い。天下万民の為だ、大人しく死ねアメ公!」と哄笑していた。

「命中、命中、命中」と報告する乗員の声は弾んでいた。

 空母は逃げ出す事が出来なかった。傾斜し炎上している。

 平賀博士はリラックスして観戦姿勢だ。増加食のぎゅうひを摘まみながら前田3尉の入れてくれたお茶を啜ると呟いた。

「意外と呆気ない物だな」

「そうですね」前田3尉もぎゅうひを口に含んでまったりとしていた。

 文明的な戦争は効率重視だ。圧倒的な武威を前にひれ伏するしかない。


     †


 海軍省に海軍大臣嶋田繁太郎、軍令部総長永野修身を初め海軍の指導陣が集まっていた。海軍大臣だからと普段から海軍省に詰めている訳ではない。他の面子も同様だ。

「ハワイを、ね」永野軍令部総長は呆れた表情で提出された計画書を眺めていた。

 太平洋方面に於けるアメリカの一大反攻拠点であるハワイ諸島。太平洋艦隊司令部はハワイ諸島オアフ島の真珠湾に置かれている。その重要度からオアフ島は鉄壁の要塞と化していた。

 房総半島沖で「大和」がハルゼーの機動部隊を壊滅させ太平洋から敵艦隊の脅威は無くなり、GF司令部はハワイ攻略作戦を進言した。

 同席する軍令部第一部長福留繁少将は立腹していた。作戦立案は軍令部の職域であり完全な横破りだ。第一課長の富岡定俊大佐も固い表情を浮かべている。

「海軍のほとんどを動員してハワイを落とす。それは分かりますが、艦隊を動かす油が何処にあります? 無い袖は振れません」第四課はこめかみに血管を浮かべて反発する。

 黙って聞いていた山本は閉じていた目を開けた。

「支那との講和をする。帝国から大陸へ建国以来の恩返しとして占領地域の返還を行う。これまでの迷惑料として鉄道等のインフラ設備も進呈しよう。支那との戦争が終われば日華友好で欧米の開戦理由も無くなる。この際、朝鮮も独立させて韓日友好だ。そこまでお膳立てして連中を講和のテーブルに着かせる。嫌だと言うのならハワイを落とし、パナマ運河を閉塞し西海岸にも攻め込めば良い。その為に未来人を使おう」

 壮大な話に全員が唖然とする。ハワイ攻略で必要な油をどうするか話をしていたはずだが、一人だけ思考をぶっ飛ばし過ぎている。

「何をいってるのかね、君は」

 永野も思わず突っ込みを入れたが、山本は平然と答える。

「戦争を終わらさねばならない。連中にやって貰えれば楽に勝てるかもしれません」

 大本営は海軍の、と言うよりGF司令部のゴリ押しによってなし崩し的にハワイ攻略作戦の実施を決定した。

 準備の猶予は少なかったが「大和」はハワイ攻略作戦参加を要請された。本作戦では梅原1佐の水陸機動団が主役となる。

 自衛隊は素人のミリオタがやるような中身スカスカの軍隊ごっこではない。アメリカ軍の影響を受けて教育・訓練をされたプロフェッショナルだ。暇があれば体力錬成や草刈り、整備で鍛えられている。今度はアメリカ兵の首を刈り取る仕事だ。

 水陸機動団は海兵隊の性質を持っているが、あくまでも陸上自衛隊だ。さすがにSBCT歩兵大隊程の機械化ではないが、歩兵大隊、レンジャー大隊の長所を取り入れていた軽歩兵だ。

 平和な時代は左翼が「自衛隊は人殺しの訓練を行う犯罪者予備軍」と叩いてきたりもしたが、今こそ真価が試される時だ。

 アメリカ太平洋艦隊は壊滅した。だがアメリカ陸軍はフィリピン以外で本格的な戦闘を経験していない。ハワイ防衛には絶大な自信を持っており、敗軍の将ではあるが経験者のマッカーサーを送り込んでいた。

 1942年当時、アメリカ陸軍機甲大隊は大隊本部(本部班、偵察小隊、戦車小隊)、本部管理中隊(中隊本部、迫撃砲小隊、突撃砲小隊、整備班)、3個戦車中隊(各中隊は4個戦車小隊)で構成されており、戦闘団に組み込まれ運用されていた。機械化されており火力指数も高い。

 歩兵は立射散兵壕に板や鉄板を被せた簡易掩蓋やべトン製、煉瓦製家屋を利用した機関銃掩蓋、陣地前に設けた障害物の外壕、鉄条網等を用意していた。日米開戦にいたり東南アジアや支那での戦訓を調査した結果だ。

「かかってこい、イエローモンキー!」と威勢のいい台詞を言っていたが、本気になった日本を止めれる者は居ない。

「第三形態に移行する!」

「大和」は五つのブロックに分離した。アサルト揚陸艦「第一大和」「第二大和」「第三大和」「第四大和」「第五大和」である。当初は旧海軍の「武蔵」「信濃」「紀伊」「尾張」の艦名が候補に上がったが、合理性から言えば番号を振った方が良いと言う結論になった。

 自衛隊は敵第一線に怒濤のごとく攻撃を開始した。

「第一大和」は水陸機動団の右側背を援護する。「第二大和」はオアフ島西南マカハ・ビーチ地域を経てワヒアワ地域の敵陣地を攻撃する。「第三大和」は東方よりハワイ島付近の敵を攻撃する。「第四大和」は真珠湾を含むオアフ島南岸地域の敵を攻撃する。「第五大和」はオアフ島北カウェラ湾の敵陣地を攻撃する。それぞれ2個中隊と飛行隊を載せており継戦能力は高い。

 大本営は、幾ら未来人でも単独でハワイ諸島の占領が出来るとは考えていなかった。最後に占領するのは歩兵の足だ。陸軍は牟田口廉也中将の第18師団から抽出した川口支隊(3個歩兵大隊、1個山砲大隊基幹)を出し、海軍陸戦も占領に協力する。

 上陸した自衛隊はホノルル市街地で頑強な敵の抵抗に遭遇した。相手は戦車を伴う部隊だ。

「参ったな……」松井創3尉の小隊は中隊の尖兵として前進していた。空爆と艦砲射撃に耐えてM3中戦車を中核とした有力な部隊が展開していたのだった。

 70年前の軍隊が相手と言っても戦車は戦車だ。戦車砲の弾を食らえば高機動車はひとたまりもない。確実に死ぬし無駄な相手をしたくはない。

 中隊本部に報告すると砲撃の支援が始まった。ホノルルの街並みごと吹き飛ばす勢いで、弾着の衝撃が地響きで伝わってくる。

「こいつは凄い。さすが海軍ですね。FHとは大違いだ」部下の漏らした言葉に松井も同意する。敵は陣地や戦車ごと磨り潰されるか吹き飛ばされ、ホノルルはポークチョップ・シティと呼ばれる事になる。

 野戦特科の装備するFH-70やSPは155mm。火力支援は段違いの45口径35.6cm砲で、海軍が支援に付けてくれた戦艦「伊勢」「日向」だった。

 太平洋艦隊司令部はもっと簡単に制圧できた。少数の部隊による奇襲を想定せず、上陸予想地域となる沿岸部に陣地を構築し部隊を張り付けていたのが盲点だった。

 F-22戦闘機の支援でNH-90輸送ヘリコプターが太平洋艦隊司令部に降下する。回転翼機を初めて見る者は唖然としていた。慌てて気づいた時には搭載する5.56mm機関銃が敵の機関銃を黙らせていく。

 ヘリボーンで急襲した梅原1佐が、部下を連れて太平洋艦隊司令部の中に入ると、ニミッツ大将が目の前にいた。出発前に見せられた写真や動画と同じ顔だ。

 目の前で黄色人種の女を裸に剥いて虐めている。相手は日系人だろう。

「何だ貴様らは」

 対日開戦に於いてアメリカ合衆国は日系人に対して民主主義を適応外とした。数万人の日系人は収容所に入れられた。日系人はアメリカ軍に志願する事でアメリカ合衆国に忠誠を示し、同胞の権益保護に勤めようとしたが、白人暴徒によって家を焼かれ虐殺され暴行・凌辱を加えられ日系人墓地を暴く暴虐が行われていた。

 日系人に権利は無い。今回もハンターが獲物を狩る様に楽しんでいたニミッツだが、乱入してきた兵士達に目を剥いた。

 89式小銃を突き付けられて、ずり下げていたズボンを慌ててはき直そうとするニミッツの姿に梅原は、不意に「大和」で待つ平賀博士の顔が脳裏に浮かんだ。

(美少女萌えオタクもミリオタも紙一重でキモオタには代わり無いか)

 きゃっきゃっ、うふふと戯れているならまだしも暴行の重罪である。見逃す事は出来ない。

「た、助けて……」そう言ってすがり付く女性を梅原は優しく抱き起こすと部下に任せて、すぐにニミッツの顔面を殴った。鼻の骨が砕けたがジュネーブ条約なんて知ったことではない。

 外に居た日本軍の憲兵に引き渡すと連中も同意見だったらしく、ニミッツの腕と足を切断、簡単に死なせない為に焼いて止血した後で、逆さに吊って晒し者にした。

「おいおい、幾ら何でもやりすぎだぞ」梅原は憲兵にそう言ったが「鬼畜米英に手加減なんているか!」と一喝された。ニミッツは苦しみの果てに息絶えた。

 同じ部屋に居たマッカーサーはニミッツと一緒に連行され、ニミッツが拷問される様を目撃させられた。何が起きたか分からない顔をしている。

 憲兵はマッカーサーに蹴りを喰らわした。人は環境で悪に染まる。非戦闘員の婦女子を暴行していたニミッツを止めもせず傍観していた以上は同罪だ。

 アメリカ嫌いな平賀と違い梅原は、自衛隊を鍛えてくれたアメリカに感謝をしていた。だからニミッツが死んだので怒りをぶちまける行為は終わらせた。

「1夜2日もかからなかったな」梅原は目標制圧を「大和」に報告した。

 捕虜の中には日系人もいた。日本兵や自衛官に向けてくる視線は敵意に満ちていた。

「こっち見るんじゃねえよハゲ」

 平賀博士は在日と同様で日系人も嫌いだ。アメリカに協力し祖先の生まれた日本を裏切った。同情の余地が無い。

「アメリカに尻尾を振る駄犬など日本には要らん」

 自衛隊から引き継いだ日本軍は捕虜や日系人も皆殺しにした。ハワイ防衛責任者のマッカーサーも死亡、アメリカ軍に生存者は居ない。戦後、アメリカの調査によると被害者の数は3000万人。弾の節約で8割が軍刀で、残りは銃剣で殺されたとある。

「日本軍の将校がクリスマスのイベントとして100人切りをするんだって殺しまくってたんだ」

「ハワイが占領されたのは6月5日、クリスマスは12月25日。半年後にですか、それまではどうされていたのですか。8割で2400万人ですよ。本当に見たんですか?」

 戦後の取材で元捕虜だと言う男にそう聞き返した記者は、親日の売国者として批難され、裁判所から賠償命令が下された。


     †


 翌日、ホワイトハウスは騒然となった。

「ハワイが落ちた?」

 バサバサっと書類が机の上から落ちていく。

「うがあああああああぁぁぁ────」

 ルーズベルトは執務室の机を叩き暴れまわった。投げ飛ばされたペンが窓の外へ飛び出し鳩の巣穴に飛び込んだ。驚いた鳩は飛び上がりルーズベルトの額に糞を落として行った。

「あの人、何か悪い物でもつまみ食いして当たったのかしら?」エレノア婦人は生暖かい眼差しで夫の狂乱する様を写真に撮っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ