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2.帝都の防空

 気がつくと「大和」は自衛艦隊や横須賀基地とも連絡が取れなくなり、外界との連絡が遮断されていた。

「ルーズベルトやヒトラーがどうのって変なラジオは入ってくるんですが、無線やGPSがさっぱり使えません」

「第二次世界大戦の特番か」

 浮上して本土に連絡機を向けたが、そこは見知らぬ町並みが広がっていた。

「なんだこりゃ?」スカイツリーも都庁も高層建築物は見当たらない。

 帰還した搭乗員から「まるでタイムスリップしたみたいです」と報告されて、写真や映像から事実と判断された。否定する材料は存在しないが認めたく無かった。

「一体、どう言う事なんだ?」

 全員の言葉を代弁するかのように高山は呟いた。

「高山君、これは私が仕組んだ事だ」

 満面の笑みを浮かべる平賀博士に全員の視線が集まる。

「平賀博士、こういう時冗談は止めてください。不謹慎ですよ」

 平賀博士は頭を振って冗談ではないと続ける。

「私の学生時代は愛国心など考えたこともない普通の高校生だった。第二次世界大戦のネット小説を読むまではな。作品の中で語られる戦前、戦時中、戦後の日本史はとても最悪だった。架空戦記の定番だが、アメリカの対日外交政策は最悪で、ことあるごとに日本を締め付けてきた。アジアの市場を狙い、対独参戦のキップとして日本を人外として扱った。頁をめくる度に募るアメリカの憎悪は増した。しまいには原爆を投下した。おかげで多数の日本人が死んでしまった。巻き込まれた非戦闘員はあまりにも可愛そうだった」

 熱っぽく語る平賀は高山から見て危険な人物に見えた。無知は罪と言うが、知識があると言っても片寄った知識では意味がない。

「私はイスラムの過激派とは違うが、アメリカ人は抹殺すべきだ。君達、自衛隊の力があればアメリカを蹂躙出来る。そうすれば慰安婦だ、南京だ、731だ、ナマポだとたかられて日本人が食い物にされる事も無くなる!」

 確かに第二次世界大戦の開戦に至るまで、ワシントン会議で米英は日本の孤立化を策し、南方進出を封殺した。さらに大陸からの撤退を要求し、中国も排日・侮日・抗日運動を激化させていた。その状態で日本が暴発したのも無理からぬ事と言える。

 しかし、それと平賀博士の言動は別問題だ。彼は全員を巻き込んだ。

「あんたは狂ってる。ニワカミリオタのネット右翼と変わらない!」

 例え本人にとって正しくても同意無く他人を巻き込むのは宜しくない。

「なんだと貴様はそれでも日本人か。自衛官の立場で祖国を蔑ろにするとは……分かったぞ、貴様は在日だろう。朝鮮人め!」

 博士は興奮して震える手で指差してきた。その手を叩いて除けると高山は臆せずにはっきりと言った。

「自分にとって都合の悪い意見を言われると、何でもかんでも朝鮮人に絡めて一緒にするんじゃねえよ。俺の親は日本人だ。あんたの考え方はただの差別主義者だ」

 周りの者は怒鳴り合う二人を唖然として見ていた。WAVEの前田彩美3尉はおろおろしている。

「このままだとアメリカ軍に攻められて日本が戦場になる。それを黙って見ていられるのか?」

 博士の胸ぐらを掴んでいた高山は、その言葉に手の力を緩めた。自衛官としては同じ日本人を見捨てる事は出来ない。祖国を守ると言う意味ではネット右翼だろうと差別主義者だろうと到達する目的は一致している。

「悪魔め」

 彼らの参加が歴史を動かす。少なくとも戦況は変わる。

 それは犠牲を止められる力だ。


     †


 日本軍と接触した一行は海軍横須賀鎮守府司令長官の平田昇中将と会合した。

「未来、ですか。にわかには信じがたい事です」

 狂人の戯言と一笑に伏す事は簡単だ。だが「大和」は存在する。

「当然だと思います」

 日本軍の哨戒網をくぐって大型艦が本土に現れる可能性は低い。

 平田は公正の態度を持って平賀博士達を遇した。

 未来からやって来た日本人との接触を報告されて戦争指導に当たる首脳部は謀略を疑った。しかしアサルト戦艦や搭載する装備の性能を見せつけられれば信用する他無かった。

「敵国アメリカにはああ言った空母や輸送船を作る技術があるのではないのかね」

 首相にそう尋ねられたが、「彼らがその気になれば帝都は灰塵に帰す。そして我々に阻止する事は不可能です」と武官は答える。彼らは文官とは違う。大東亜戦争勃発以来、日本陸海軍は協力し華々しい活躍を記していた。その軍部の代表が顔色を変え口を揃えて、その様に公言するのだから強硬策による武装解除はあり得なかった。

 平賀博士の協力で海軍は石炭から石油専焼缶への機関換装を簡単に行った。長期不敗体制建設の進展と言える。

「これほど改装が早くすむとはな」

 未来人から歴史を聞いた山本は次の行動に移った。空母「加賀」に哨戒任務を与えたのだった。

「帝都の空襲を許すだって! あんた本気か、この売国奴め」

 そう罵るのは料亭に呼び出された豊田副武であった。

「加賀」を出したのは良い。問題はオホーツク海に向けた事だった。東太平洋から米艦隊が来ると教えられたのにだ。

「大事の為の小事だ。ミッドウェーに敵が出てくるのは分かった。ならそこで決着を着ける。これも戦争を終わらせる為だ」

 帝都の空襲がなければミッドウェー攻略の上奏は認められなかったと未来人の情報が教えてくれている。海軍省も軍令部も、自分達の地位を脅かす連合艦隊(GF)司令部を警戒していた。山本の宿願であるハワイ攻略を行う為には敵の空襲を成功させねばならない。

「その為にみすみす帝国臣民を見殺しにするのか。山本さん、あんたゆっくりできないげすだね。軍人としては嶋田さんの方がよっぽど上だよ」

 山本は未来人から慰安婦が大問題に成ってると知らされ、朝鮮で徴用した海軍用慰安婦100万人を極秘理に処刑した。事実の隠蔽である。

 大嫌いな嶋田繁太郎と比較されて顔色をしかめる山本だったが「未来人をあてにするあんたには言われたくないね。それにね」と言い切り、嘲笑を浮かべて続ける。

「戦いは勝たなければ意味がない。情なんて物は無駄だよ」

 国際政治は食うか食われるか。国家の尊厳をかけた戦争が始まった以上、感傷は指揮官に必要ない。綺麗な戦争はない。躊躇いは敗北に繋がる。


     †


 特設監視艇「烏丸126号」は漁船に過ぎない。米空母艦載機の襲撃で木っ端微塵にされた。

 その様子は「大和」のレーダーにはっきりと移っていた。

「やはり長官は見捨てる積もりか……」

 米艦隊迎撃を進言した未来人に対して山本は自分の分をわきまえていろと言った。所詮、未来人と言っても余所者だ。兵器と同じで使える駒としか見られていない。そして駒が山本の思惑と関係無しに動く事があってはなら無い。

「メインタンク・ブロー、浮上!」

 運命の東京空襲当日、電磁カタパルトからF-22艦上戦闘機とE-767早期警戒管制機が飛び立って行った。平成の世界から現れた自衛官達は義によって戦いに身を投じる決意をした。それは死さえ納得して闘争に挑む熱病だ。

「あれがB-25か。なんか思ってたより、ちっさいな」

 武器を持たぬ非戦闘員を襲う事は、人間の尊厳を踏みにじる事だった。

(くそったれのヤンキーどもめ、正義は悪党に勝つって決まってんだよ!)

 日本国民を守ると言う信念と誇りから立った。

「アメリカ人め、これが大和魂だ。天誅を喰らえ!」

 幾らアメリカと言っても70年以上未来からやって来た兵器には叶わない。正義とは力だ。

 とは言っても、装備はアメリカの技術が産み出した物だった。

(アメリカさんの兵器でアメリカをやっつける、か)

 皮肉すぎる状況だった。

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