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燃えた夏  作者: Karyu
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第九十三話 シャグルとシャドル(六)


 俺達三人は、最初登ってきた崖の上で迎えが来るのを待つ。その間、俺はカイルと少し話をすることにした。


「なあ、カイル」

「は、はい。なんですか先輩?」


 先輩か……なんか良い響きだな。おっと、余韻に浸ってる場合じゃない。


「お前いつからMBSに入った?」

「えっ? えーとですね、確か二年前ですけど」

「それでタキとはいつ知り合った?」

「あ、はい。タキさんとは丁度去年からお世話になっていました」

「そっか。今日が初任務だったよな」

「はい……」


 カイルは少し寂しげな口調で答える。


「ま、こういったこともあるって事だ。もう割り切るしかない」


 俺は思い出話をするかのようにカイルに言う。そう、割り切るしかない……。


「先輩、シルキ先輩にも同じことがあったんですか?」


 カイルの奴、結構鋭いな……。


「ああ。俺もお前同様、リーダーを失ったことがある。今回みたいに山の中でな」

「そ、そうだったんですか……。やっぱりその時は寂しかったですか?」

「ああ、でも寂しいってよりも悔しかったな」

「悔しかった?」

「ああ、俺が弱いばっかりに、好きじゃなかったが頼れる男を殺してしまったからな。と、思ってな」


 俺は昔、俺のリーダーであったトウキのことを思い出しながら、澄んだ空を見上げる。俺は白い息を吐きながら続ける。


「その時、俺がリーダーを失った時からかな……俺は強くなってやるって思ったのは」

「そうだったんですか。ぼ、僕も頑張れば先輩みたいになれますかね?」


 カイルは両手を握り締めながら、俺の事を必死に見上げてくる。

 俺が口を開くよりも先に、俺達の後ろで会話を盗み聞きしていたグガンが、


「良いのかカイル? シルキみたいになっちまったら、友達ができなくなっちまうぜー」

「えっ? そうなんですか?」

「なわけないだろ」


 俺は言い捨てたが、グガンが


「な、見ただろこの態度。こんな風になっちまったら一生友はできんし、誰もなろうとは思ってくれん。それでもいいのかカイル?」

「えっ、そ、それはちょっと……」

「おい、カイルにデマ吹き込むな!」

「はいはい、シルキ隊員はおっかねー、おっかねーっと」


 グガンは訳のわからない動作で手を振り回し、トランシーバーを取り出し、談笑し始める。


「良いか、カイル。ああいった人種の方が友ってのは出来難いんだ。覚えてろ」

「わ、わかりました」


 カイルの緊張感も(ほぐ)れてきた様である。


「そういえばそうと、さっきの技良かったぞ」

「あ、ありがとうございます」

「ただ、もうちょっと筋を磨かなきゃな」

「はいっ」


 カイルは少し元気のある声で、返事をしてくれる。





 俺とカイルは、それからも暫く会話を続けた。五分ほどで麓から隊員が迎えに来た。迎えに来た隊員は俺達を崖の上まで運んでくれたチルドレンで、すでに報告は済ましている為、他の隊員は来なかった。だが、そのチルドレン隊員の表情は仄かに影が差している。


 恐らく知り合いの隊員の内の誰かが死んだのだろう。いや、それ以前にこんな状況じゃいくらベテランでも無理はないか……。

 俺は変わったのかもな、他の隊員が死んでもそんなに動揺しなくなっちまった。静香の死も当初の悲しみが抜け始めている。俺は、いつからこうなったんだろうか……?


 俺達と、シャグルとシャドルの死体はそのチルドレンに担がれながら麓まで降ろされ、そのまま乗って来たトラックに俺たちは乗り込み本部まで戻る。


 時計を見ると午後三時。トラックの中は来た時当初より遥かに人数が少なく、がらんとしている。生存率、およそ二割ってのは分が悪すぎた。


 俺は早速、トラックの中に置かれているコンピューターで本部への報告書を打ち始める。一方のグガンは、呑気に簡易ベッドの上で寝そべっている。


 くそ、本来ならグガンの仕事をなんで俺が代行しなければならないんだ。あのハヤブサ総司令官も嫌味なことしてくれる。わざわざ任務用の書類にまで俺の担当が報告書制作って書かなくても良いだろうに。

 そんなこんなで愚痴っている間に鳥取ルネサンス本部に着いてしまう。一応報告書は打ち終えたが、まだまだ任務の後始末がある為、気が重い。


 俺はグガンとカイルと共に、任務を言い渡されたホールに戻る。モニター上のハヤブサと短い会話を交わした後、次の任務までの待機期間とお約束どおりの労いの言葉をもらい各々散り散りに別れる。


 リーダーを亡くしたカイルはハヤブサとホールに残り、今後の処置を決めるようだ。


 俺は今日中に広島に帰らなければならないので、急いでスーツを私服に着替えた。そのままレッドローズ住宅街から出て、米子駅に向う。後始末はどうやら他の隊員がやってくれるみたいだ。


 とんだ正月になっちまったなと思いながら、自分の苦労を労う為お節駅弁を買う。そして、広島行きの電車の中で安らかな仮眠をとることにした。



これで、シャグルとシャドル(流騎版)終了です。次の小連載は綾夏と刈谷となっています。


まあ、あんまり、というか結構この二人のカップリングを書くのは好きです。二人共、もうパートナーはいるので(刈谷の場合、いたことになりますが)結構友達っぽい描写にしやすいんですよね。

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