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燃えた夏  作者: Karyu
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第九十二話 シャグルとシャドル(五)


 俺は、シャドルが俺の落下地点の計算と、突進する体勢を構え始めているのを見る。


 化け物の癖に思考力は人並み以上だな。くそっ、冗談はその突進力だけにしてもらいたいぜ。俺は空中で身を捩りながらプロテクシオン・ロゥを作り出し、僅かだが落下地点をずらしてシャドルの一撃をかわす。

 シャドルは俺を囮と知っていたのか俺には見も向けず、造り出した雪の壁にまたも突進していく。まあ、予想通りだけどな。


 シャドルの一撃で雪の壁にぽっかりと巨大な穴が開き、その向こう側にはまだ膝を地面についているグガンの姿がある。


 俺はヒエロ・ランスをシャドルの背中に投げつけるが、何の効力も発揮せずシャドルの鋼鉄の鎧に弾き飛ばされる。


 グガンは迫り来るシャドルの突進に目を見開き、死を覚悟する。シャドルは獰猛な笑みを浮かべながら自分の角を前方に突き出し、グガンの顔を狙っていく。

 グガンはその場でしゃがみ込んだまま、迫るシャドルの歪んだ形相を一瞥し皮肉げな、ご自慢の笑みをシャドルに向ける。


 シャドルはグガンの気が狂ったのかと判断して、一瞬眉を顰めた。しかしそのまま突進し、容赦なくグガンの肉体に大きな風穴を開けながら跳ね飛ばした……かのように見えた。


 シャドルが角で突き上げたのはグガンの肉体ではなく巨大な丸太であった。

 シャドルがそのことに気付く僅か二秒の間に、俺は地面に両手をついて、シャドルのいる地点の雪を瞬間冷却、シャドルの足止めをする。


 対するグガンも先程繰りだした術、変換木自術の直後に雪の下まで両手を深く入れる。


「我が敵の動きを封ぜよ、木根蔓蛇縛!」


 グガンの術で、足元の凍ったシャドルの足場から無数の木の根が現れ、シャドルの肉体をからみ取っていく。まるで蛇の如い根が自由自在に動き回り、シャドルは身動き一つ取れなくなる。


 そこにすかさずカイルが雪の壁の角から大きく迂回しながら現れ、シャドルまで駆けていく。


「我に光の俊敏さを! 俊光!」


 カイルはそう唱え、その走る速度は光速とはいかないまでも、かなりの速度でシャドルに駆け寄り、


「雷神の怒り、白雷電!」


 と叫びながらシャドルの目の中に、その幼くも鍛えこまれた右腕を突っこむ。そして、空いた方の左手をシャドルの鋼鉄の皮膚に当てる。

 見る見るうちにカイルの両手の先端から、鋭い電気の帯が帯電し始めた。まだまだ術が未熟なのか、技が実行されるまで時間が掛かったが、それは最初から考慮されていた為、俺とグガンの二重の足止めが必要だったのだ。


 数秒間かけてカイルの術がシャドルの体内を駆け巡った。シャドルはその間必死に逃げ惑うように体を暴れさせていたがグガンの木根蔓蛇縛から逃れることはできなかった。

 シャドルからは何本もの電気の帯が跳ね上がり、辺りに散っていく。静まった頃、シャドルの全身からは湯気が立ち上っていた。カイルの触れたシャドルの皮膚は黒く焦げ、

グガンの木根蔓蛇縛も黒く焦げていた。

 シャドルの目、口、耳、鼻、鋼鉄の皮膚の間から硝煙が立ち上り、目は完全に蒸発し、口からは沸騰しながら血塊がぼとり、ぼとりと不可解な音を立てながら雪原を赤く染め溶かしていく。


 カイルはシャドルのすぐ側で腰が抜けたのか、勢い良く座り込む。初めての任務で自分のリーダーが死に、数多くの隊員を目の前で殺されたのだ。無理もない。


 俺は十二になったカイルの傍まで歩み、片手をカイルの頭に置く。カイルが震える目で俺のことを見上げてくる。俺は優しく微笑んでやった。


「よくやったよ」


 と語りかけると、カイルは嬉しそうな、しかし悲しみが憂いた表情で笑い返してくる。そんな表情を向けられた俺は、苦笑いを返すしかなかった。


 グガンはそんな俺達のやり取りを見守りながら、


「いいか、カイル。これが任務というものだ。いつ死ぬかわからない、過酷で残酷だ。でもな、生きてやり遂げたものにだけ、生き残れたっていう喜びが味わえるってのも事実だ。だからそんな俺達が今しないといけないことは、死んだ連中への弔いだ。わかるよな?」


 しばらくの静寂、そして弱弱しくもカイルは立ち上がり、強みの帯びた双眸で


「はい」


 と返す。


 俺とグガンは互いに見やり笑みを浮かべ、殺された隊員たちの遺体を回収、写真と隊員たちのDNAが採取できる毛、あるいは血をケースに集め、穴を掘って埋葬した。カイルは物悲しくも震える手で、自分のリーダーであったタキの写真と毛をケースにしまいこんでいた。


 タキは三十代の無精髭を生やしたチルドレンで、俺も昔模擬戦の時に世話になったことがあった。タキはかなりの戦法家で、無鉄砲に突っこんで行った時など、先ず勝ち目はなかった。今回の任務で俺達は一人の有能なチルドレンを失ったことになる……。


 合計十人の遺体を大山の土に埋め、しばらく黙祷を捧げた後、俺とグガンはシャグルとシャドルの処理を行うことにした。


 俺はヒエロ・ランスでシャグルとシャドルの角を切断、毒に触れないように専用のケースに入れ、グガンはシャドル同様シャグルの死体を根で絡み担いできたリュックの中から巨大なハーネスを取り出し、それぞれの死体に繋げて行く。それをカイルが手伝う。


 俺はその間、下で待機しているであろう隊員達に連絡を取る。


初っ端から重いですね……ですが、これが今まで書くことができなかった本来のMBS、基、ルネサンスの姿です。

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