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燃えた夏  作者: Karyu
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第九十一話 シャグルとシャドル(四)


 タキの死を目の前で目撃したカイルは、雪の中、虚ろな瞳で遠くを眺めている。体の半分は雪の中に浸かり、シャドルを目前にしても立ち上がろうとする素振りは見せない。

 俺は、カイルに突っこもうとするシャドルにヒエロ・ランスを投げつけるが、鋼鉄の鎧と化した皮膚の前では傷すら付ける事ができない。しかしシャドルの視線を俺に向けることには成功した。


 シャドルはカイルから殺意の篭った目で俺を睨みつけ、すぐさま突進体勢に移行する。

 俺は水速転換を展開、シャドルが俺の二、三メートルほど前まで突進してきた所で、水速転換を駆使し、シャドルの視界から消える。俺はそのままグガンが介抱しているカイルの傍までへと走る。


 そして視線をグガンとカイルから、当惑している様子のシャドルへと向き返し、雪に手を浸ける。手には防寒用のグローブを装着してある為、雪の冷たさは感じないが、手が雪の中に沈んでいく感触は伝わって来る。


 俺はすかさず、


「プロテクシオン・ロゥ!」


 と叫ぶ。


 すると、地面の雪が一気に盛り上がり俺たち三人をシャドルから隔離する。しかし、シャドルの保持する思考能力から推測しても、この場が安全なのは五分程度であろう。その間に新たな作戦を立て、シャドルを倒さなくてはならない。


「おい、カイル大丈夫か?」


 グガンの問い掛けで、やっとカイルの意識は現実に引っ張り戻された。


「あ、は、はい……」


 しかしカイルにはまだタキの死の影響が残っているようだ。


「いいか、カイル。ここでお前が何もしなければ俺達全員が死ぬ。それに、俺達が死ねばシャドルが人里に降りるかもしれない。それだと、タキの死はまったくもって無駄になる」


 俺はカイルにそっと告げる。カイルは黙って俺の話を聞いていたが、聞き終った後、その双眸には決意の意志が燃え始めた。


「わかりました。ぼく、やります」

「そうこなくっちゃな」


 三人の中で一番年上、といっても二十代そこそこなんだが、グガンが意気揚々とした様子で言い放つ。少なくともカイルの気を、いやこの場の雰囲気を和ませるようにだろう。俺もそれに便乗する。


「なら膳は急げ、今からシャドルを倒す作戦を考えるぞ」





 一方のシャドルは、流騎が視界から一瞬で消えたことに混乱していたが、後ろに振り返るとその姿があったため突進体勢へと移った。


 が、流騎が地面に手を付いた途端に巨大な雪の壁ができたことから尚更困惑し、平静を保つまでに数秒程、時が掛かった。

 シャドルは流騎達が見えなくなったので不思議に思ったが、ほぼ人間並みの思考を持っている為、彼らの位置は予想が付いた。警戒しながら、前方に広がる雪の壁を観察し、どう向こう側に辿り着くことができるかを考えていた。


 シャグルが意図も容易く殺されてしまったので、シャドルは敵が昨日殺した五人の人間より遥かに強く、手強いことを認識していた。その為、シャグルの脳髄を食べる時間がどうしても必要であった。


 そしてあまり使うことのない技、動物達を超音波で操り、一時の間支配下に置いたのだ。動物達が劣勢になるまで自分の認識する敵を襲わせていたのだ。

 技は上手くいき、シャグルの脳髄を食べ終わるまでの時間が稼げ、敵の数も三人まで減らすことができた。しかし、あの突進を見事にかわした二人は注意が必要である。


 シャドルはじっと待つのが苦手なのか、流騎の造り出した雪の壁に猛突進を繰り出し始めた。すると流騎のプロテクシオン・ロゥ(水分を凝固させ厚い防衛用の壁を作り出す技)は激しく振動する。シャドルは一度の突進で雪の壁を半分以上も砕いたのだ。





 くそ……、もって後一撃か。どんだけ化け物なんだっ。


 俺はシャドルの突進したプロテクシオン・ロゥの振動を肌で感じて、背筋に寒気が走る。なんとか、グガンとカイルと作戦を立てることができたものの、果たして上手くいくかどうか。ま、上手くいかないとまずいんだけどな……。


「分かったか二人共? 絶対に死ぬなよ。もし作戦通りにいかなかったら自分のみを守るだけのことに専念しろ。いいな、カイル?」

「は、はい!」

「へっ、まさかシルキ、しかも年下に命の大切さを御教授される日が来るとはな。だが了解したぜ」


 皮肉げに笑うグガンを見ながら俺は、


「健闘を祈る」


 とだけ言い残し、自ら造り出したプロテクシオン・ロゥを跳躍する。高さ三、四メートルはあったが難なく飛び越え、下方に今にも突進しかけているシャドルの姿を捉える。

 俺は右手にヒエロ・ランスを作り出し、シャドルの目の前に投げつける。ヒエロ・ランスは丁度シャドルの目前の雪に刺さり、それを見たシャドルは空中にいる俺を見上げる。


 その怪物の目は、憤怒の表情に燃えていた。


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