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燃えた夏  作者: Karyu
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第八十九話 シャグルとシャドル(二)


 映像上のハヤブサが俺達一同を見渡し、手に握られた書類を見て頷く。そして、重厚な口を開く。


「新年、新世紀そうそう申し訳ないのだが……君達に集まってもらったのは他でもない、任務だ」


 ハヤブサがそう言い終らない内にホールの中の緊張感が高まり、皆真剣な表情へと変わり姿勢を正す。俺も合わせて、それ風な顔をする。


「昨日の大晦日、若い男女五名が大山(だいせん)で新年を迎えようとしてテントを張ろうとしたときに何者かに襲われ、今朝早く大山の麓で遺体となって発見された。報道関係では転落死したとされているが真相はこうだ。この男女五名はシャグルとシャドルによって刺殺されたと判断された。ここにある書類にシャグルとシャドルの詳細が載っているので後ほど確認してくれたまえ。

 我々ルネサンスはこれより大山に赴きシャグルとシャドルの殲滅に向かう。新たな犠牲者が出る前になんとしてでもこの怪物を殲滅する必要がある。作戦の詳細もこの書類に載っているので目を通してくれたまえ。それと今回は新たなスーツが配布されたのでそれについての情報にも目を通して置くように。作戦開始時間は三時間後の1300時。それでは朗報を待つ」


 ハヤブサの等身大映像は切れ、ホールにライトが再び灯された。俺はグガンが取ってきてくれた書類の内の一つを手に取り、読み始めた。


 シャグルとシャドルというのは百二十年ほど前にアフリカで目撃された双子の妖怪のことだ。自然現象の一種で、偶然妊娠中のサイのメスが火山の溶岩の巻き添えになり死んだのだが、その時すでに出産が始まっており、生まれた双子のサイの遺伝子が溶岩の熱により突然変異を起こしたのだ。それにより生まれたサイの双子は深緑と黄緑の皮膚を持ち、溶岩の熱さえ通さない鋼鉄の皮膚、一突きで即死に至るほどの毒をもった角に加え、人並みの知識を持つこととなった。

 当時のシャグルとシャドルは人々の住む町を荒らしまわり多数の死者を出したのだが当時にも一種の自然現象により人並みならぬ能力を持った一人の人間にシャグルとシャドルは退治された。

 それ以降シャグルとシャドルの目撃情報はこの百年やそこらで三件程度であった。しかし、その都度死者は出ており、毎回その双子のサイの妖怪は知能指数が上がってきていることも解明されている。

 その主な理由がシャグルとシャドルの能力にあった。それは生きている間に他の動物に角に仕組まれた毒物を注入し、なん世代後かの自分の子孫に自分達の能力や記憶を残すというのだ。毒を仕込まれた動物はサイに接近したときに毒が自動的に空気感染をするのだがシャグルとシャドルの主な生息地が山の中なのだ。その為、シャグルとシャドルの目撃情報、すなわち出産率は低いのである。


 一通り書類に目を通し終わると、他の一同も読み終わったらしく、ホールから入り口とは違った別室へと向かう。

 俺はグガンや他のチルドレン隊員達と一緒にその別室へと進んだ。別室はロッカールーム形式になっており、名前順に各自の特殊登山スーツが並べられている。


 俺は自分のネームタグを見つけスーツに着替え始めた。他の隊員も着替え始め、全員が着替え終わるのに半時ほど時間が掛かった。それと言うのも、新しく配布されたスーツに問題があった。

 スーツは登山用にロープやハーネスは勿論のこと、ブーツも登山をするときと崖登りをするときようにと分かれていた。その為、書類に目を通しても中々一発目では正確に着衣することができなかったのだ。


 俺を含めた十七人の隊員は時間通りに運送トラックに乗り込み、一時間ほど揺られながら大山の麓まで目指す。


 大山は昔、とはいっても二十年ほど前に突然噴火した。その時大山は何らかの理由により、二百メートルほど浮き上がり、今では二千メートルほどまで標高が高くなった。しかし、その二百メートルほど浮き上がった大山の標高二百メートルまでは断崖絶壁と化している。

 その為あまり一般人は登ろうともせず、チャレンジャー精神旺盛な登山者達が登りに来る登山名所スポットと化している。


 今回のシャグルとシャドルの確認が決定付けられた五人の若い遺体もすべてが登山者であった。


 俺たちを乗せたトラックはそのまま立ち入り禁止ゾーンを入っていき、そこにいた一人の警官に確認を得て大山の麓に到着した。


 早速トラックを出た俺たちは、お互いのハーネスを連結させ、登山が得意なチルドレン隊員の能力で上へ上へと引っ張り上げられていく。


 何の苦労もせずにあがる為、俺はかなり楽でよかったが、当のチルドレンは顔を真っ赤にし意地というものを馳せながら軽い身のこなしで絶壁を登っていく。

 約十分ものロッククライミングを終えたそのチルドレン隊員は自分の仕事が終わったので早々に麓まで身軽に降りていった。しかしさすがに十五、六人の体重に疲れたのか、麓についた途端足元がふらついていたのが見えた。

 そして登山用アシスタントの一般隊員の三名も麓へと降りていった。


 俺は書類に目を通しただけなのでわからなかったが大山には初めて訪れた。想像では、噴火した際に火山灰の影響で生き物の絶えた山だと思っていたのだが、現実に俺の視界に広がる風景は一般的に言う山そのものである。


 だが冬なだけあって一面が雪で包まれている。ハヤブサから配布された書類によると、後二千メートルしたところでシャグルとシャドルの生態区域に入る。


 俺達十三人の隊員は白い息を吐きながらも慎重に行動を開始した。

 俺の足が一歩一歩前に進むたび、誰も踏み入れたことのない雪原に小さな足跡が刻まれていく。


今回のシリーズは短編集という前提なので、一ストーリーが長く、そのため分割されています。

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