第八十八話 シャグルとシャドル(一)
これより本編は「燃えた夏」第二段、サブタイトル「始まりの冬」へと移ります。
書き方の一定化と、読みやすさを重視いたしましたので、楽しんでいただけると幸いです。
セカンダリー・コールド通称SC西暦一年の元旦。俺は今では鳥取ルネサンス本部と呼ばれる(以前までは鳥取MBS本部と言ったが)へと向かう。
昨日の大晦日に連絡が入り、今日中に本部に出頭しなければならない。
まったくなんで正月に招集が掛かるんだよ……。
俺はしぶしぶながらも気のだるい足を前へと出しながら本部に向かう。
今日から始まるSC西暦……それは世界に第二共産党恐慌が勃発したことをきっかけに始まることになる。
世界がまた大きく進展する中、人々は一体何を思うのだろうか。っとそんなこと考えても始まらないか……。俺は別に任務をこなしていくだけだからな。
本部は米子駅から徒歩三十分、タクシーで五分と言ったところの住宅街の中に建設されている。というのも前まで山の中にあったのだが、それだと出入りの際に疑われるのと、目撃者が多数現れるようになったため盲点をつく為に住宅街に設置されることになった。
住宅街の一角をまるごと買収、しかしあまり疑われないように多数の隊員を住宅に住ませ、日常生活を過ごせるように工夫を凝らした。住宅街は一般にレッドローズと呼ばれており、バラの花弁のように住宅が重なるように配置されている。住宅街の奥に進めば進むほど永久迷路的な錯覚に陥る為、よほどのことがない限り本部の人間以外立ち寄りはしないのである。
そして実際の本部は地下に造られ、ある程度までは地下通路が配置され鳥取周辺の県に行き来できるようになっている。だから行こうと思えば第一広島ルネサンス支部からも行けた。
だが俺は地下トンネルより外の情景を拝観しながら来たかったので、広島から電車一本でやってきた。
俺はレッドローズの中に入り指定されている住宅の庭に入り、重厚な鏡石に掌を当てた。すると電子音が一瞬鳴り、地下につながるシュートが開いた。
そのシュートの中に飛び込み、体はゆっくりと落下していった。それはまるで無重力状態のようではあるが、実際には見えない空気の強化膜の上を落ちているのである。
でもなれないなこれには。いくら技術が進歩したからって言ってもなんかそわそわするんだよな……。ちょっと息苦しいのも難点だ。
そんなことを考えているうちに、下から光が上がってくるのが見えた。いや俺が光のあるほうに落ちていってるのか。
俺はシュートから抜ける。それでも体はゆっくりと地面へと降下していく。地面に着地した時、俺はもう本部の中にいた。本部の天井から落ちてきたので、シュートの入り口を見上げたらシュートは既に収納され見えなくなっていた。
ここはレッドローズ内に取り付けられているシュートの終着地点であり、正式ではないが手っ取り早く、レッドローズ内ならば手っ取り早い本部への到着の仕方なのだ。まあ、名前も分かり易く、シュートルームと名付けられている。
周りを見渡すと他の隊員がシュートから降りてくる姿が見えた。その中には知っている一般隊員やチルドレンの姿も見える。
するとその中のチルドレンの一人が俺の方へと駆け寄り、
「よおシルキ、元気だったか?」
「ああ、グガンか。久しぶりだな」
グガンか、あんまし俺はこいつと馬が合わないんだよな。
「なんだよシルキ、せっかく会えたって言うのに素っ気無いな」
「そんなことないさ」
「そうか? でもお前大活躍だったらしいな、中奇戦の時」
中奇戦というのは二ヶ月ほど前の中国奇襲戦争の略である。
「そうでもないさ」
「でもお前は俺の手が届かないほどまでにグレード上がったよな。いまじゃスペクタクルなんだから。俺なんてまだグレード5だぜ?」
スペクタクル、それはグレードが10より高くなりグレード階級のつけれなくなったチルドレンに与えられる称号である。
俺以外にも元リベリオンリーダーの三人、シコン、ビワ、クキョウの他、滋賀県のガイジュ、東京都のササラギがいる。
綾夏と刈谷はグレード10に昇格、桃はグレード4に上がったがあいつの底知れない戦闘力はスペクタクル以上のものがあると俺は見ている。その事実はこの本部の司令官のハヤブサすら知らない為、この様な措置に終わったらしい。
「スペクタクルなんていっても別にどうこう変わるってわけでもないだろ」
「まあな、中には階級に厳しい奴もいるけど。それよりお前なんで今日召集掛かったかわかるか?」
「いいや。それも俺が聞きたかったことだ」
「そうか。俺が聞いたところによると、なんでも重大発表があるらしいぜ」
「そうなのか」
一体なんだ? まあ正月に招集かけるぐらいなら余程重要なんだろうな。でも今日は刈谷も綾夏も召集が掛かってない。一体何の発表があるっていうんだ? しかも、スペクタクルの俺が呼ばれた。自意識過剰まではいかないが、相当な任務になりそうだ。
ここの新総司令ハヤブサは、もう三ヶ月ぐらい経つのか……。よくやっている方だよな。少なくともあのカゲフミのおっさんよりは常識的だからな。あのおっさんはまだ生きているのか? ま、タフだけがとりえだからそうそう逝くことはないだろう。それにしても一体何の用があるっていうんだか。
俺はグガンと共に別に他愛もないグガンの自慢話と近況状況を聞かされながらシュートルームの一角を出て、コンビーンホールと呼ばれる緊急招集用の部屋まで向かった。
コンビーンホールにはもうすでにちらほらと隊員がいた。チルドレン隊員の数が多かった、といっても五人程度である。他に十人程度の有能な一般隊員が集まっていた。
一体これだけのチルドレンを集めて何をやるって言うんだ? 新しい訓練か? といってもこんなにチルドレンがいるってことは一筋縄の訓練になるような予感はしないな。それとも、これだけの隊員が必要とされる任務なのか……。
そんなことを考えている内にホールの中央に設置されているモニター、3Dの立体型カメラからハヤブサの映像が等身大のまま映し出された。